魔道具店にて
───かつて、氷の女帝と呼ばれた魔人がいた。
凍てつく大地に生きる怪物達ですら近づく事叶わぬ程、その身に纏う冷気は冷たく、その肢体に触れた者は、その悉くが身を凍らせ、吹雪と共に砕け散っていった。彼女はその力を持って、極寒の凍土を支配した。
───かつて、魔導帝と呼ばれた魔人がいた。
あらゆる魔法に精通し、溢れ出た魔力が天を貫いたと伝えられる程の魔力を持っていたという。彼を崇め、集まった人々によって1つの魔法国家が生まれた。
───かつて、千刃と呼ばれた魔人がいた。
多くの国が戦争を起こしていた時代、駆けた戦場にて殺戮の限りを尽くし、英雄と呼ばれた反面、悪鬼とも恐れられた。孤児を拾ってきては育てていた優しき人物と後世に語り継がれるも、彼の怒りに触れた国を、たった一人で滅ぼした危険人物であったという記録もあるという。
魔人は人々にとって脅威であった。古くから異界から次元の壁を越えて迷い込んだ魔人が秘境にて暮らし、人里に下りてきては厄災、又は偉業を成す。人より強い力を持った魔人達を人々はモンスター同様に恐れた。
だがそれは昔の話、魔法が発展し、魔界との行き来が出来るようになり、魔界との交流によって魔人は珍しいものではなくなった。
「ふんふふ〜ん♪」
木の実を食べて歩くミドカを遠巻きながら見る人は多い。魔人が珍しくは無い、とは世界での話。珍しい場所では珍しい。
(ミドカは子供とはいえ美人である事に変わりはないしな、注目されるのもおかしくはないか)
「あまり離れないようにしてくれよ。世の中物騒だし……」
ミドカはショウの言葉を聞くよりも早く勝手に歩いていって目についた店へと入っていった。
「………ははっ、自由だな」
一人呟くとミドカの後を追い、杖の看板の店へと入っていった。
「お〜、魔道具がいっぱい!」
店に入るとミドカが感嘆の声を上げていた。
「そりゃあ魔道具店だからな。いらっしゃい、朝早くから何か探しものかい?」
「冷やかしに来た!」
カウンターで魔道具の手入れをしていた店主への返答に思わず溜め息が漏れる。
「もう少し言い方があると思うんだけどな……」
「ん?商品を見る事をそう言うんじゃないのか?」
「少し違う。結果的に冷やかしになるかもしれないけど……」
「はっ!冷やかし結構、好きに見ていってくれ。元より魔道具は店によって置いてるものが違う。目当ての物がなくて買わずに帰るなんてのはざらだしな」
そう言って店主は手入れに戻っていった。
「キラキラだ……!」
ミドカは腕輪や指輪、イヤリング等のアクセサリー型の魔道具を眺めて目を輝かせていた。
『状態異常耐性、スタミナ増加、腕力強化……効果はともかく、性能はそれ程だね』
『アクセサリー型はデザイン性も重視されるから性能は控えめなのが多いからな』
(とはいえ、イブからしたらってだけで別に性能が悪いわけじゃあ、というかむしろ良い方……)
「なぁショウ、このリボンも魔道具なのか?」
アクセサリーの品評会をしていると、ミドカが巻かれたリボンを見せてくる。
「これは防犯用の感電布だな。これを身につけてる時に、魔力を込めながら人に触れると相手に電流が流れるんだ。非力な人でも暴漢を退治できる」
「へぇ〜」
興味深そうにリボンを眺めていたミドカが、ふと一点を見つめていた。
「どうかしたのか?」
「──え?あぁいや…………、剣も置いてあるんだなぁって」
「魔剣も魔道具の一種だからな。基本武器屋だけど魔道具店に置いてあることもあるよ」
「ふーん………ショウの魔剣とどっちが凄いだろうな」
カウンターの壁際に飾られた大剣を眺めているとミドカがそう呟いた。
「なんだ坊主、お前魔剣持ってんのか?」
今まで空気に徹していた店主が口を出す。
「一応は、まぁ」
「へー、ちょっと見せてくれねーか?実は俺、ちょっとした魔剣マニアでよ、魔剣見るのが好きなんだよ。これも趣味で知り合いからもらった非売品だしな」
『急に馴れ馴れしいなこいつ』
「はは……まぁ構いませんけど」
空間収納から魔剣達を取り出してみせる。
「はぁ!?これ全部魔剣か!?坊主、いや…坊ちゃん、もしかしてどこかの貴族だったりします?」
「いや、そんなこと無いですけど」
「そうじゃなきゃどうやったらこれだけの魔剣を集められるってんだ?」
(全ての魔剣がかなりの魔力を秘めてやがる。俺の魔剣とは比較にもなんねえ。それぞれがどんな力を持ってんのか知らんが、Aランク冒険者が持ってる魔剣でも中々無い品質だ……しかも)
手に持つと何となくわかる。鼓動のようなものが伝わってくる。無機物を掴んでいる気がしない。鞘から剣を抜こうとするも、微動だにしない。
(やはり、意思持ちの魔剣……!生きている魔剣は魔剣が選んだ相手にしか抜けないというが……)
「坊主にはこの魔剣が抜けるのか?」
「そりゃあ当然」
手に持った魔剣を抜き、刃を少し見せる。
(全く抜ける気がしなかった魔剣が……、持ち主を選ぶってのは本当なんだな……。え?なんか凄い。もしかして俺、今日死ぬ?なんか後からじわじわ来るんだけどこれ?というか生きた魔剣8本って、普通に考えておかしくない?なんか奇跡通り越して怖いんだけど。生涯で一目見れたらとか言ってたら8本出て来ちゃったよやべー……)
「あの、もういいですか?」
(なんか呆けて呟いてたけど大丈夫か?)
魔剣マニアとして意思を持つ魔剣を見て触れた事に感動を通り越して宇宙を彷徨っていた所だったが、ショウに話しかけられて意識が返ってきた。
「あぇ……?あ、あぁ、勿論全然大丈夫だぞ!?早くしまったほうがいい、すっごい貴重品だからなそれは!いやぁほんと実に良い物を……」
「実に良い物が見れた」
誰の声かと見ると、店の入り口に紳士然とした男が立っていた。見るからに高級そうな服装、整えられた髪と口髭からは清潔感が漂う。
「いや失礼、盗み見るような真似をして」
「貴方がなぜここに……」
店主の知り合いなのか、素性は知っているようだったが、身なりからして貴族なのだろう。
「特に用は無かったんだが、気になるものがあったのでね」
男はショウを一瞥するとクスリと微笑んだ。
「邪魔をしてしまったね。私はこれで失礼するよ」
そういうと、男は店の前に止めていた馬車に乗って立ち去っていった。
「あのおじさん何しに来たんだー?」
「さぁ……」
「話には聞いていたが、あれがショウ・シュヴァルツ君か。こんな所にいるとは思わなかったが、これからが楽しみな少年だな」
男は一人、揺れる馬車の中で先程の少年に思いを馳せていた。
(語り部)
「氷の女帝はレイについてる神霊フローヴァの事だね。人が暮らせる様な環境じゃない上に人が殆ど来ない死の大地だったから生前の彼女を見た事のある人間は殆どいないだろうね。他の二人は歴史書に乗るくらいには有名だけれど。他にも多くの魔人がいたけど、悪い話の方が多かったから魔人のイメージは悪かったんだよね。よく魔界と交流持てたよね」




