祈祷スキルを求めて(sideヨシ) 08
「菊池、ヨシさんの探している人とお前のお姉さんは関係があるかもしれないぞ。」
「えっ、それはどういう事なんですか?」
菊池さんが、俺と山縣さんを交互に見て戸惑っていた。
「確か、お前のお姉さんと連絡が取れなくなったのは五年程前だったよな。同じ頃に教団で見かけなくなった方がいたんだ。その方は、教祖と同じくらい信者に慕われていた方で、詳しくは分からないが、多くの悩みを抱えた方を癒していたと聞いている。見かけなくなったのは、他の支部にでもいかれたのかと思っていたが、教祖が何かを隠しているとなると、話は違ってくるかもしれないな。」
山縣さんは、菊池さんの方を見て頷いた。
「ヨシさん、菊池、まだ憶測の域を出ないが二人の件は何らかの関係があるかもしれないな。この教団は、教団の歴史を資料に残すことを大切にしているので、過去の資料を紐解けば何か見つかるかもしれないな。菊池、今日も資料を調べていくんだろ。」
「はい。姉さんの手がかりが見つかるまで、探し続けます。」
そういうと、菊池さんは勝手知ったる様子で一つの棚に近づくと資料を取り出し、机に腰かけた。
「ヨシさん、あなたは一階の資料を調べてくれ。さっきも言ったが資料に残す習慣があるのは、手がかりの面でいえば可能性が大きくなっていいのだが、探す面でいうと調べる量が多くなり時間がかかるということになる。すぐに何か見つかるとは思えないが、それでもいいか。」
山縣さんは、再度、確認するように俺の方をみた。
「今は、ここだけがアヤちゃんを助ける唯一の手掛かりなんです。できるだけのことはやらせてもらいます。」
「アヤちゃんというのか。その子は彼氏だけでなくその友人にも慕われてる子なんだな。俺の方でも祈祷使いの情報は調べてみるよ。」
山縣さんに軽く礼をすると一階に向かって駆け出した。一階に降りた俺は、まず倉庫の状況を確認するため全ての部屋を見て回ることにした。倉庫の中には、幾つもの部屋があり壁一面に資料が並べられていた。ある程度は、倉庫の管理人の手により整理されているようだが、大量にある資料の全てを整理するまでにはいたっていないようだ。やみくもに資料を見ていっても時間が無駄に過ぎるだけなので、どのように調べていくべきなのか。
とりあえず一つの部屋に入り書架から1冊の資料を取り出し、机に腰かけた。資料を開くとこれは、約20年前の資料のようで、ちょうど今の教祖になった直後の頃のようだ。教祖が新たに変わった際に、全国にいる関係者への挨拶周りがあったようで、その時のスケジュールが記載されている。挨拶周りには、教祖と秘書の二人で行ったようだ。ちなみにその時の秘書は、茅野さんではないようだ。まぁ年齢的にも違うのは当然だろうが。
関係者周りの相手は、全国の各州に1名いたようだが、教祖が自ら挨拶して回るということはよっぽどのスポンサーか何かなのだろう。俺はその資料を元に戻すと他の資料を取り出すため、書架を見て回った。
書架で資料を取り出しては、少し読んで元に戻すを繰り返しながら俺は、部屋の中を歩き回っていた。そうして、部屋の隅にたどり着いたとき、俺は僅かな違和感を覚えた。手にしていた資料を書架に戻すと俺は、違和感の正体を確認すべく周囲を調べ始めた。30分ほど、調べ勘違いかと諦めかけたとき、かがんだ拍子に胸のポケットに入れていたコインが落ち、書架の下に入ってしまった。
俺は、慌てて書架の下に手を差し入れてコインを探した。このコインは、2チームに分かれて行動する際に会長から御守代わりに貰ったものだから、失くすわけにはいかない。書架の下に手を入れて探っていると、手に何か引っかかった。俺は、手を元に戻し、書架の下を覗き込むと埃にまみれてよく見えないが取っ手のようなものが見えた。さらに書架の下をよく見ると、床の模様が微妙に周囲と変わっている部分があり、どうやら俺はそこに違和感を覚えていたようだ。
俺は、書架の下からコインを拾い上げると書架を動かせないか試してみた。どうやら書架に収められている資料の重量もあり、簡単に動かすことはできないようだ。
俺は、書架を動かすのをいったん諦め2階の山縣さんに報告に行くことにした。
「そんなものがあったのか。」
山縣さんも書架の下の取っ手の存在は知らなかったようで、驚きを隠せないようだった。
「ヨシさんの話からしても、今日調べるのは難しそうですね。明日、もう一度集まって3人で調べてみましょう。」
俺は、今すぐにでも調べたかったが、冷静に考えれば時間も遅くなっており、明日のお務めで教団側に怪しまれないためにも、今日のところは宿舎に戻るのが正解なのだろう。俺たちは、明日の段取りを再確認した後、解散し、宿舎に戻ることにした。
宿舎の部屋に戻った俺は、今日が初めてこの宿舎に泊るのだということに気付き、今の状況に少し苦笑いしてしまった。本当なら、まずはここでの生活に慣れるところから始めるんだろうが、初日から一気に動きがあったため、そんな気分にもなれないな。時間を見るとそろそろ日付が変わりそうだが、シュンに連絡をすることにした。
「そんな事があったんですか。こんな時間までまったく連絡がなかったので何かあったのかと心配しましたが、さすがヨシ先輩ですね。たった1日で成果をあげるなんて。」
「たまたま運が良かっただけだろう。隠し扉の取っ手も会長のコインがなかったら見つからなかっただろうし、一人で行動してても皆の恩恵を感じるよ。とりあえず、明日もう一度、調べてみるから何か分かったらまた連絡するよ。」
俺は、シュンとの連絡を終えると明日に備えて休むことにした。明日は何か手がかりが掴めたらいいんだが。
翌朝、俺は食堂で朝食を取りながら菊池さんと夜の相談をしていた。昨日の感じだと手ぶらで集まっても対処できない可能性があるので、役に立ちそうな工具を幾つか持っていくことにした。
菊池さんは、教団内での修繕担当の役割が与えられているので比較的簡単に工具を用意できるとのことだった。初級以上になると教団内での生活を維持するために様々な役割が与えられるようだ。ここの食事を作っているのも信者なのだそうだ。役割には日常的なものから重要なものまであり、重要な役割になると中級以上の信者が割り振られているらしい。
山縣さんの倉庫の管理人も重要な役割の一つのようで、彼が協力してくれているのは非常に助かっている。そもそも山縣さんがなぜ菊池さんに協力しているのかを知りたかったが、あまり繊細な話はこんな場所ではできないので、また日を改めて教えてもらうことにしよう。
夜のお務めまで終わった俺たちは、また、一般宿舎の裏手に集合した。菊池さんは、手に袋を持っておりどうやらその中に幾つかの工具が入っているようだ。俺と菊池さんは昨日と同様に倉庫に近づくと山縣さんが警備員の目を引き付けてくれている間に倉庫の中に入りこんだ。倉庫に入った俺たちは、二階の作業台の傍で山縣さんが戻ってくるのを待っていた。
「待たせたな。さっそくだが、昨日、ヨシさんが取っ手を見つけたという書架に行こうか。」
山縣さんは、戻ってくるや挨拶もそこそこに一階に向かっていった。どうやら気がせいているのは、俺たちだけでなく、山縣さんも同様のようであった。
1階に着くと俺は、二人を昨日の書架に案内し、床の状態について説明した。
「確かに言われてみれば、模様が違う様に見えるが、普通にしていたらまず気付かないな。」
「ここが違うということを意識すれば、僕の目では違い目は明確ですが、こんな所に意識を向けることがないので気付かなかったです。」
山縣さんも菊池さんも、これまでまったくこの場所には気付いていなかったようだ。
「ヨシさんは、たった1日でこれを見つけたんですよね。ものすごい幸運の持ち主ですね。」
俺は、胸ポケットに入れたお守りを軽く握りしめ、この状況を作ってくれた会長に感謝していた。
「さっそく書架の下を調べてみましょうか。」
そういうと、書架を動かすためにまず収められている資料を近くの作業台の上に積み始めた。
「そうだな。まず見てみないことには当たりか外れかもわからないものな。」
そういうと、山縣さんと菊池さんも書架の中の資料を取り出し始めた。書架の高さは3mほどあるため、上の資料は脚立に乗らないと取ることができなかった。下の取り出しは二人に任せて俺は脚立で上の資料を取り出していた。
上の資料は取り出し難いこともあり、長期間誰も手に触れていないのか埃がかなり溜まっていた。資料を取り出していると最上段の一番奥に他の資料とは異なる装丁をした文庫本サイズの資料が出てきた。俺は無意識のうちに、その資料をポケットに収めると、資料の取り出し作業を続けた。
三人で一時間以上かかって、書架の資料を空にすることができた。書架を空にすると菊池さんが書架の構造を確認した後、分解を始めた。
菊池さんが書架の分解をしている間、俺と山縣さんは積み上げられた資料を整理していた。
資料を整理していると、服に違和感を感じたので手をポケットに入れると小さな資料が入っていた。
「そういえば、上で作業をしている時に無意識のうちにポケットに入れてたんだったな。」
俺はその資料を開いてパラパラと中身を確認してみた。どうやらこの資料は、かなり昔に書かれたもののようで、文字が今とは違うため辞書がないと読めそうになかった。
小さいサイズでもあることから、俺は山縣さんにことわって、この資料を自室で調べることにした。




