祈祷スキルを求めて(sideヨシ) 03
工藤さんと再会してから3日後、工藤さんの秘書から連絡がきた。俺たちはすぐに大阪を出発し薬師親愛教団のある琵琶湖の畔に向かった。
教団の入り口に着くと、門の前に先日の警備員と工藤さんが立っていた。
「お待ちしておりました。」
工藤さんは、俺たちに気がつくと自ら出迎えるように近づいていった。
「工藤さん、このたびは、ありがとうございます。」
改めて工藤さんにお礼を言うと頭をさげた。
「こんなところで立ち話もなんですし、さっそく中に入りましょう。教祖に相談できるようにアポを取ってますので、さ、どうぞ。」
そう言うと工藤は、教団本部の中に入っていった。
「教祖にアポ?!」
「工藤さんって、もしかしてものすごく偉い方なんでしょうか?」
工藤さんの言葉に驚きつつも、意を決して後についていった。
案内されたのは、非常に大きな部屋だった。部屋の中には絵画や壺などが置かれていた。
「すごい部屋だな。全然価値は分からないが、見るからに高そうな物が溢れているな。」
部屋の真ん中には大きなソファーがあり、工藤さんに勧められるまま、そこに腰かけて教祖を待つことになった。しばらくすると、恰幅のいい年齢不詳の男が部屋に入ってきた。男の後ろには二人の美女が付き従っていた。男が入ってくると工藤さんは、笑顔で近づいて行った。俺たちも慌ててソファーから立ち上がり、男の方を見た。
「おー、あなた方が工藤さんの命の恩人ですか。工藤さんは私にとっても大切な友人です。私からも改めてお礼を言わせていただきます。ありがとうございました。」
男の圧力に圧倒された俺たちは、黙ってうなずくことしかできなかった。男は、俺たちに座るように促すと、工藤さんと並んで俺たちの正面に座った。二人の美女は男の後ろに静かに立っていた。
「私は、この薬師親愛教団教祖の薬師寺と申します。我が教団は、人生と生命を正しくあるべき姿に導くため、日々精進しております。今日は、お二人のご友人のことで相談があると伺っていますが、どのような症状なのですか。」
薬師寺と名乗った男は、柔和な笑顔で二人に語りかけた。
「ご教祖様に直接、相談させていただき、ありがとうございます。その友人はアヤと言うのですが、XXXによる昏睡でずっと入院をしているのです。」
シュンは、病院で聞いたアヤの症状について説明をした。
「XXXの昏睡ですか。あれは身体的な原因によるものではなく、精神の部分に原因があるのです。身体的なものなら、私の力でなんとかなったのですが、精神的なものとなると祈祷スキル使いの力が必要になります。残念ながら、現在、この教団に祈祷スキル使いがいないのでお役にたてないですね。」
教祖がそう説明すると、隣に座った工藤が一瞬、教祖の方に視線を向けたが、すぐに元の態勢に戻った。
「そうですか。」
シュンは、期待が大きかった反動か、大きく落ち込んだ様子を見せた。
「工藤さんの命の恩人なので、何とかしてあげたいのは山々なんですが、力になれなくて申し訳ないです。アヤさんの力にはなれませんでしたが、身体的な不調があれば、いつでも力になりますよ。せっかく来られたのですから、よければ教団の中を案内しましょうか。」
教団に非があるわけでもないのに、目の前で落ち込んだ姿を見せたことに反省しながら、俺たちは、教祖の後ろに立っていた茅野と名乗る女性に教団内を案内してもらうことになった。教団の敷地は、東京ドーム5個分ほどあるようで、全てを見ることはできないので全体の概要の説明を聞いたうえで本館の中を案内してもらうことになった。
「この教団本部には、現在約300名の信者が生活をしております。信者には、初級、中級、上級とランクがありランクに応じたお務めをおこなっております。」
「ここに300名も信者がいるんですか!」
思った以上に大きな組織のようだ。
「他にも、入信したばかりの人は見習いとして、毎日通って来られる信者もいらっしゃいます。ここで生活できるようになるのは、初級からなんですよ。」
通いもいれるといったいどれほどの規模になるんだろう。
「ヨシさんとシュンさんは、工藤さんの恩人でもあることから、教祖様より、入信される場合は初級から始めていただいてもよいとのお言葉をいただいております。」
「ありがとうございます。」
俺たちは、まだこの後の事を決めていなかったが、とりあえず礼を言っておくことにした。
「それでは、実際のお務めの様子をみていただきますね。」
そういうと茅野さんは俺たちの前に立ち歩きだした。俺とシュンは、茅野さんの後ろからついて歩きながら少しでも情報を得ようと、辺りをキョロキョロしながらついていった。
「さ、ここですよ。ちょうど今は、瞑想の時間のようですね。この部屋では、見習いの信者がお務めをしています。彼らはまだお務めを始めたばかりなので集中力がそこまではないので、後ろから静かに見てていただけますか。」
茅野さんはそういって、俺たちを部屋の一番後ろの壁際に案内した。
部屋では、40人くらいの信者が瞑想をしていた。一番前には指導者と思われる人がこちらがわを向いて、同じように瞑想していた。
うまく言えないが指導者の瞑想は信者に比べ、レベルが高いのが見ただけでわかった。
俺たちは、しばらくお務めの様子を見たあと、部屋を出ていった。
「教団本部には、他にも色々な場所がございますが、今日は時間もありませんので、この辺にして最後に食堂で昼食を召し上がっていただこうと思いますがよろしいでしょうか。」
俺は、シュンとしばし顔を見合わせたあと、頷きあうと、茅野さんの方を振り返った。
「ありがとうございます。ちょうど空腹を感じていたところだったので、お言葉に甘えさせてもらいます。」
「では、こちらにどうぞ。」
俺とシュンは、茅野さんの後から食堂に向かって歩き始めた。
「こちらが、教団の食堂になります。信者は無料でどんなメニューでも食べることができるんですよ。また、メニューは信者の健康にも配慮されたものになっています。」
入り口に張り出されているメニューを見るとランチだけで10種類ほど用意されていた。しかも毎日、内容が変わっているようだ。本日のランチは野菜ラーメン、五穀米と酢豚、豆腐ハンバーグなどどれも栄養のバランスを考えたものになっていた。ほかにベジタブルバーガーセットなんてのもあった。
ユウならランチ目当てにここの信者になるといいそうなくらいメニューが充実していた。
結局、俺は具だくさんシチューと胚芽パンのセットにし、シュンはスープパスタとサラダのセットにした。
カウンターで料理を受け取った俺たちは窓際の外が見える席に座った。
茅野さんは、用事があるとのことで席をはずしていた。
「このメニューが毎日、無料で食べられるって驚きですよね。」
「そうだな。このシチューの肉、めちゃくちゃ美味しいぞ。口に入れたらほとんど噛まなくても崩れるくらい柔らかくなってる。しかも肉の甘味がシチューと相まって、旨すぎるぞ。」
俺はシチューのあまりの旨さにグルメレポーターのように語ってしまった。
「このスープパスタも凄いですよ。スープはコンソメ系だとは思うんですが、ほかにも色々入っていて僕の知識では説明しきれない美味しさです。サラダも新鮮で、このさっぱりとした柑橘のドレッシングでなら、いくらでも食べれそうですよ。」
俺たちは、ここに来た目的も忘れ、食事を大いに堪能した。食後に珈琲も付いてるとのことで、食器を下げた時に珈琲を受け取った俺たちは、今度は庭のテラス席に移ることにした。
「先輩、これだけご馳走になっていうのもなんですが、ここ怪しくないですか?」
「俺も同じことを考えていたんだ。あまりにも羽振りが良すぎるよな。何か裏があると思うんだ。それに教祖が祈祷使いはいないと言った時に一瞬、工藤さんが教祖を見たのも気になるんだ。」
「そうですよね。ちょっと怖いですが、ここの信者になって、もう少し調べてみませんか。」
シュンの提案を聞きながら外の景色を眺めていた。食堂の外は、木々にかこまれており、テラス席では気持ちのいい風を感じることができた。こんな自然豊かなところでする会話ではないなと、どこか他人事のように頭のどこかで考えながら、俺は決断をした。
「シュン、危ないと思ったらすぐに逃げることを前提に潜入してみるか。」
こうして、俺たちは薬師親愛教という教団に入信することを決めた。




