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八八冒険記  作者: 夢形えいて
1章
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祈祷スキルを求めて(sideヨシ) 04

 食堂を出た俺たちは、本部の入り口に向かって歩いていた。本部の入り口には、茅野さんと工藤さんが立っていた。

 「茅野さん、どうもありがとうございました。信者の方々のお務めの様子まで拝見させていただき、貴重な経験をさせていただきました。お礼をいいたいのですが、薬師寺さんはどこかに行かれたのですか。」

 「教祖は、お忙しい方ですので、別の用務のため、先ほど出ていかれました。お見送りできなくて申し訳ないと申しておりました。」

 「とんでもないです。お忙しい中、お時間をいただきありがとうございましたとお伝えください。では、これで失礼します。工藤さんも今日はありがとうございました。」

 俺たちは、工藤さんと茅野さんに改めて頭を下げて礼を言った。

 「お役に立てなくて申し訳ないです。何かあればいつでも教団に来れるようにこのカードを渡しておきますね。次からはこのカードを入口で示せば教団の中に入れるようになります。教団の活動に関心がおありでしたら、信者のお務めに参加できるように話をしておりますので、いつでもお越しください。」

 「色々、ありがとうございます。今後のことは、一度家に帰ってから考えたいと思います。」

 教団を出て大阪に戻ると大学の部室で今後の相談をすることにした。

 「シュン、もう一度だけ確認するが、本当に信者として潜入することでいいか。そうそう危ないことはないと思うが、何があるかわからないぞ。」

 俺は、自分が不安に思っているのかどうかわからないままシュンに確認のため問いかけた。

 「ヨシ先輩、確かに危ないことがあるかもしれませんが、これまで何も手がかりがなかったのに初めて、祈祷使いに近づける可能性が見えたんです。手をこまねいてるなんてできませんよ。ヨシ先輩は大丈夫なんですか。」

 シュンの決意は固いようだった。

 「俺は、・・大丈夫だ。ここで必ず祈祷使いに繋がる手がかりを手に入れよう。」

 お互いの決意を再確認した俺たちは、今後について相談を始めた。

 「しばらく滋賀にいくことになりそうだから、色々、準備もいるだろう。3日後にここに集まろう。」

 「分かりました。」

 俺たちは、相談後、これからの準備をするために自宅に帰っていった。

 3日後、俺たちは再び部室に集合した。

 「シュン、準備は大丈夫か?」

 「今回は、何があるか分からないので、色々、小道具も持ってきました。とりあえずは教団本部の近くに宿を取らないといけませんね。」

 「そうだな。せっかくだから琵琶湖の名産を食べれる宿にしようか。」

 緊張しているシュンの気を紛らわすため、ユウの真似をして提案してみた。

 「琵琶湖と言えば、鮒寿司ですね。あの味は慣れると病みつきになりますからね。琵琶湖の湖畔の蔵元の酒の不老泉と一緒にいただきましょう。」

 シュンも意図を汲んだのか、即座に賛同している。しかし、蔵元の銘柄がすぐに出てきたところをみると、多少は、楽しむつもりもあったのかもしれないな。

 「じゃあ、そろそろ出発しようか。」

 キャリーバッグを引きながら駅に向かっていった。宿へ行くには、大阪駅に出てから、京都線で山科駅まで行った後、琵琶湖線に乗り換え余呉駅まで行く必要がある。

 ここまで来たら、移動中くらいは楽しもうと京都駅で駅弁とビールを買い、琵琶湖を眺めながら昼食を堪能することにした。

 「先日来たときは、あまり余裕がなかったので、琵琶湖をちゃんと見ていませんでしたが、こうしてみると本当に大きな湖ですね。」

 「そうだな、近畿の水がめとして、俺たちの生活を支えてくれているんだからこの景色にも感謝しないといけないな。」

 琵琶湖の風にあたりながら、京都で買った近江牛弁当を肴にビールを飲んでいた。この一瞬だけは、全てを忘れてホッとしていた。シュンの方を見ると同じく京都で買った京都牛とだし巻き弁当を肴にビールを飲みながら景色を眺めていた。 

 ちょうど、二本目のビールを空けた時に、次が余呉駅とのアナウンスがあった。俺たちは、弁当を片付けると気持ちを切り替えて、駅に到着するのを待った。

 駅に着き、改札を出ると、予約をしておいた宿の迎えの車が止まっていた。

 俺たちは、車の傍に立っていた男の人に向かって歩いて行った。

 「一週間もご予約いただきありがとうございます。スキーの季節でもないのに学生さんで一週間も余呉に滞在なんて珍しいですね。」

 宿の従業員と思われる車の運転手がルームミラーで後ろをうかがいながら話しかけてきた。どうやら話好きの従業員のようだ。しばらくお世話になる宿の従業員だし、滞在の理由は説明しておいた方がいいだろう。とはいえ、本当の事をいうとどんな反応を示されるかわからないので、それっぽい理由を説明するしかないのだろう。

 「大学の教授の研究の関係でちょっと琵琶湖で調べたいことがあって、一週間も予約させてもらいました。」

 学生の身分として当たり障りのない理由を説明すると、従業員も納得したようだった。

 「そうなんですね。琵琶湖の生物とか植生を調べに来る人は、他にも結構、来られてますよ。まぁ、今日くらいは難しいことは考えず、コアユやビワマス等の琵琶湖の名産品を堪能することだけ考えといてくださいね。」

 ここにユウがいないのが残念だな。八八が落ち着いたら、改めて四人で来るのがいいかもしれないな。 

 宿に着いた俺たちは、食事の前に温泉に入ることにした。部屋にあった温泉の紹介では、「低張性弱アルカリ性温泉」となっており、疲労回復に効果があるようだ。明日からの英気を養うためゆっくりと温泉に入ることにしよう。

 「ここは低張性の温泉なんですね。」

 シュンが、温泉の説明を見ながら呟いた。

 「低張性?」

 俺は、特に意識せず読み飛ばしていたが、意味が分からないな。

 「低張性というのは、温泉の濃度のことなんですよ。温泉の成分の濃度によって高張性、等張性、低張性に分かれるんですが、低張性だと温泉の成分は8g/kg未満になりますね。」

 シュンは、さりげなく補足してくれた。相変わらず、色んなことを知っているな。

 俺たちは、ここでも琵琶湖の景色を眺めながら、ゆっくりと温泉に浸かった。部屋に戻るとすでに食事の準備が進められており、仲居さんに勧められるまま、席についた。今日は、明日に向けてゆっくりしたかったので部屋食にしてもらったのだ。俺たちが座ると座卓の上に様々な料理が所狭しと並べられていった。

 「お飲み物はどうされますか?」

 仲居さんが飲み物のメニューを持ってきた。

 「とりあえず、瓶ビールを二本お願いします。」

 俺とシュンは、食事の用意を終えた仲居さんが出て行ったあと、ビールで乾杯すると目の前に並んだ食事に手をつけた。

 「コアユの佃煮、ビワマスの刺身、ホンモロコの天ぷらですね。後でセタシジミの味噌汁と鮒ずしが出てくるみたいですね。」

 シュンがユウの代わりに料理の説明をしてくれている。まさに琵琶湖尽くしのコースになっているようだ。

 「これは何だ?」

 気になっていた座卓の上に置かれていた小さめの土鍋の蓋を開けた。中には甘辛そうな醤油出汁が入っており、ネギや豆腐、しいたけ、人参が入れられていた。他には体長8cnくらいの小さい魚も入っていた。

 「何でしょうか?ちょっとわからないですね・・・。」

 シュンも中の魚はわからなかったようだ。

 そんな話をしているうちに、仲居さんが追加のビールを持って来てくれた。ちょうど良かったので仲居さんに聞いてみた。

 「これは、イサザのじゅんじゅんです。イサザは琵琶湖の底に棲んでいる魚です。じゅんじゅんはすき焼きって意味です。その魚は骨が柔らかいので、丸ごと食べられますよ。」

 仲居さんの説明に俺たちは、さらにテンションが上がった。

 「まずは、色んなことを忘れて琵琶湖を堪能することにしようか。何が美味しかったのか、帰ったらユウに報告しないといけないしな。」

 「そうですね。この料理を味わいましょう。」

 俺たちは、琵琶湖の名産品を肴に不老泉を飲み、存分に英気を養った。

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