二人での御朱印巡り(sideマナブ) 02
「とりあえず、今日は熊野那智大社の下見ですかね。」
食べ終わった弁当を片付けると、ユウは熊野那智大社周辺の地図をテーブルに広げた。
「そうだな、本格的な調査は明日からにするとして、今日は下見の後に那智の滝でも見にいこうか。」
地図に載っている世界的に有名な滝を指差した時に、ふと視線を感じて反対側の座席を見ると先ほどの女性がこちらを見つめていた。彼女は、俺と目が合うとすぐに視線を外し、窓の外を眺めるそぶりをみせた。
「次は紀伊勝浦です・・」
車内にアナウンスが響いた。
「そろそろですね。」
ユウは、広げていた地図をカバンにしまうと、降車に向けて準備を始めた。
紀伊勝浦駅で降りると、キャリーバッグをコインロッカーに預け身軽になりバス停に向かった。バス停で並んでいると後ろに先ほどの彼女がやってきた。
「次のバスは、15分後に来るみたいだな。」
自分の背後に意識がいきそうになるのをこらえ、ユウと話をしていた。
「熊野那智大社は、ここからバスで30分くらいみたいですね。」
ユウが、バスの案内を調べて行程を確認してくれている。
「降りるのは、那智山か。あのバスだな。よし行こうか。」
バスに乗り込んだ俺たちは、空いている席に座り、周囲を見渡した。すると俺の隣にあの彼女が座ってきた。
「あの、突然すいません。」
彼女は、いきなり俺の方を向くと話かけてきた。
「はっい。」
緊張のあまり変な返事をしてしまった。
「もしかして、今から那智の大社に行かれるんですか?」
「ええ、そうですが。」
彼女の問いかけを不思議に思いながらも、素直に返事をしていた。
「もしよかったら、一緒に行きませんか。実は、私は那智の大社が大好きで毎月のように来ているんですけど、ここの良さをもっと色んな人に知ってもらいたいと思っているんです。特に若い方に知ってもらいたいと思ってます。ですので、良ければ、私に大社の案内をさせてもらえませんか。」
彼女からの突然の申し出には、驚かされたが、この後のことを考えると熊野那智大社に詳しい人と同行できるのはありがたかった。
「ユウ、どうする?」
「いいんじゃないですか。こんなに素敵な人と一緒にお参りにいけるなんてこちらからお願いしたいくらいです。」
ユウの返事を確認した俺は、彼女の方に振り返った。
「ありがとうございます。俺たちは、大阪の大学生で、色んな神社の御朱印を巡るっていう同好会に入っているんです。熊野那智大社に来たのは初めてなのですが、御朱印をもらうだけでなく、この神社の事も色々、知りたいと思っています。是非、ご一緒させてもらえたらと思います。」
「そうなんですね。大学で御朱印巡りの同好会って珍しいですね。ここでお会いしたのも何かの縁ですので、私の知っている事を全部、お伝えしますね。あ、申し遅れました、私は島根で事務の仕事をしている竜胆リンといいます。よろしくお願いします。」
「俺は、逸色マナブです。こっちが後輩の鴇田ユウです。」
「ユウです。よろしくお願いします。」
『次は、那智山です。』
俺たちが雑談をしていると、次のバス停を案内するアナウンスが聞こえた。
「次ですね。リンさん、案内よろしくお願いします。」
「はい、お二人に那智の大社の魅力をしっかりとお伝えしますね。」
ぐっと気合いを入れて笑顔で話すリンさんのその表情に、少しドキッとしてしまった。
バスが到着すると、他の乗客が降りるのを待ち俺たちは最後に降車した。バスから降りると大きく伸びをして、大阪からの長時間の移動でこわばった身体をほぐした。
「やっと着きましたね。」
「あぁ、ここが全国に4000社あると言われている熊野神社の御本社か。」
やっと着いた熊野那智大社は、10ヶ所目ということもあり感慨深いものがあった。
「よくご存じですね。和歌山には熊野三山といって、田辺の熊野本宮大社、新宮の熊野速玉大社とここ熊野那智大社があるんです。そして、全国の熊野神社の御本社でもあるし、日本第一大霊験所根本熊野三所権現として、崇敬の厚い社なんですよ。」
「日本第一大霊・・って何ですか?」
「『日本第一大霊験所』というのは、日本でいちばんの霊験あらたかな場所という意味で、『熊野三所権現』というのは、『家都美御子大神・熊野速玉大神・熊野夫須美大神』の三神のことで、熊野三山のいずれの社もこの三神を祀っているんです。」
冒頭からのリンさんの詳しい説明に少し圧倒されていた。
「ここは、熊野古道の一つの中辺路と呼ばれるエリアにある名所の一つの大門坂なんです。ここから熊野那智大社を経て那智の滝まで歩くと3㎞弱くらいになります。」
「そうなんですね。俺たちは那智の滝にも行ってみたかったんです。」
「わかりました。立ち話ばかりしててもあれなんで、参道を登っていきましょうか。」
リンさんは、そういうと参道の入り口に向かって歩き出した。俺たちは、リンさんの話を聞きながらも八八に繋がるヒントがないか考えていた。
「リンさん、ここの石段って437段もあるんですね。」
ユウが携帯で調べた情報をもとに、リンさんと話をしていた。俺は、二人の後ろから歩きながら周囲の様子を見ていた。石段の両側は、杉に囲まれており樹の根元は緑の苔が見える。樹々に囲まれた中を歩いていると心が洗われるようだ。自然を堪能しながら歩いていると大きな赤い鳥居が見えてきた。
「ここが第一の鳥居ですね。だいたい半分くらい登ったことになりますよ。」
リンさんは、立ち止まると俺の方に振り返った。
「ここにも手水舎がありますが、境内の中にもあるのでそっちでお清めをしましょうか。」
そういうと、リンさんは鳥居の方を向き一礼した後、再び歩き出した。俺は、振り返った時のリンさんの笑顔に目を奪われており、彼女が歩き出した後もしばらく後ろ姿を目で追っていた。
「会長、行きますよ!」
俺が立ち止まったままなのを気にしたのか、ユウが振り返り声をかけてきた。
何でもないという素振りをした後、鳥居の前で一礼し、二人の後を追った。石段を登りきると今度はオレンジ色の鳥居(第二鳥居)があり、そこを抜けると境内になっていた。
「お疲れ様です。那智の大社に到着しましたよ。あそこに手水舎があるのでお清めしましょうか。」
右手に見える手水舎に向かって歩いて行くリンさんとユウの後をついて行った。手水舎でお清めをすると、俺たちはそのまま拝殿に向かった。他にも回りたい所があったが、今日は時間がないので、すぐに参拝をして那智の滝に向かうことになった。
「那智の大社には、見ていただきたい所が色々あるんですが・・・。お二人は明日はどうされるんですか?」
「俺たちは、明日もここに来ようと思います。せっかくなので、回れるところは全部回りたいですし。」
「そうなんですね。私も明日も来る予定だったんですよ。もしお二人が良ければ明日も私に案内させてもらえませんか?」
リンさんからの突然の提案に驚いたが、明日もリンさんといっしょに居られると思うと嬉しくなった。ユウの方をみるとユウも喜んでいるようだったので、リンさんのお誘いを受けることにした。
「こちらこそ、お願いしたいです。詳しい方と一緒ですと、とても勉強になります。」
俺がそう答えると、リンさんはとても喜んでくれた。その様子を見て俺は、この人はほんとに熊野那智大社のことが大好きで、いろんな人にその魅力を知ってもらいたいんだなと改めて思った。
そして、明日の待ち合わせ場所などを話していると、リンさんは、宿はいつもその日の気分で決めるので、まだ決まってないとのことだった。せっかくなんで夕食も一緒にということになり、俺たちの泊まる宿にリンさんも泊まることになった。




