二人での御朱印巡り(sideマナブ) 01
「おはようございます。」
待ち合わせ場所で、本を読みながら待っていると、ユウがのんびりと待ち合わせ場所にやってきた。
「おはよう。今日からしばらくは二人で、御朱印巡りになるけど、よろしくな。」
二人での八八巡りに緊張していることを隠すように、明るい顔でユウの方を見た。
「はい、二人でぱっぱと揃えちゃいましょう!」
いつもどおりのユウのテンションに内心ホッとしつつも、少しは緊張しろよと、つい思ってしまった。
「ユウ、しっかり頼むな。とりあえず、そこでお茶しながら、作戦を考えようか。」
俺たちは、目の前にあった喫茶店に入っていった。
店内は珈琲の香りが充満しており、髭のマスターが一人、カウンターの中にいた。店内に入るとウェイトレスが近づいてきた。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「はい、奥の席でお願いします。」
ウェイトレスに案内され、席につくとメニューを渡された。ユウは散々悩んだ結果、普通のセットに決めたようで、俺の注文を確認した後、ウェイトレスに声をかけた。
「モーニングセットを2つお願いします。」
ウェイトレスが去った後、ユウがワクワクした顔で話しかけてきた。
「ここは、珈琲専門店ですから、美味しい珈琲が期待できそうですね。僕、珈琲の香りって大好きなんですよ。」
静かな店内で珈琲豆を引く音だけが響いていた。珈琲の香りが漂ってくると
ぐぅ~・・
「ん?」
「お腹空きましたね。早くモーニングこないかな。」
「・・・ユウといると、いい意味で気持ちがほぐれるな。さぁ、今日の作戦を考えようか。」
☆☆☆☆☆☆☆☆
「ふぅ~、これで9か所目も終わったな。『八八』に表示されているのは後1か所だけか。」
二人だけで回り始めた当初は、不安や緊張もあったが、気がつけば近畿の神社も残すところあと二ヶ所になっていた。
「二人だけで巡ることになった時はどうなるかと思ったけど、おもったより順調に進めたな。」
「そうですね。次の熊野那智大社で10か所制覇ですね。ここを制覇できれば、11か所目のヒントが現れてくれるんですかね?」
「そう願いたいところだな。さぁ、明日に備えて今日は早く帰るか。」
「はい、じゃあ、また明日お願いします。」
翌朝、大学の部室で本を読みながら待っていると、ユウがやってきた。
「おはようございます。」
「おはよう。熊野那智大社は遠いから、泊りになるが用意は大丈夫か。ってか、何泊するつもりなんだ。」
ユウの大荷物を見て、呆れてしまった。
「一応、色々必要になるかと思って持ってきました。中身はお楽しみということにしといてください。」
「まあいいか、じゃあ出発しようか。」
そういうと、俺たちは、10か所目である熊野那智大社に向かって出発した。
「最寄り駅は、紀伊勝浦駅でしたよね。和歌山の最南端のさらに向こうだから、電車に乗っている時間も長そうですね。ちなみに、会長は、和歌山最南端にある太地町は、クジラで有名なのは知ってますか?」
「ああ、詳しくはないが、太地のクジラ漁は聞いたことがあるよ。」
「クジラ料理楽しみですね。大阪ではなかなか食べられないから、コロにさえずりにハリハリ鍋とかいっぱい食べたいのがありますよ。」
クジラ料理について、目を輝かせながら話続けるユウを見ているうちに、クジラ料理を食べてみたくなってきた。
「そうか、じゃあ今日の宿はクジラ料理を出してくれるところで決まりだな。宿は、任せるよ。」
ユウは、待ってましたとばかりに、宿の情報が載った雑誌を取り出し、お薦めを提案してきた。
「ここなんか、どうですか?ハリハリ鍋やクジラの唐揚げとかもあるんですよ。他だったら、こんな宿もありますよ・・」
ユウの勢いに圧倒され、任せるとだけ言ってこの話題を終えた。
「ここからだと、JRで和歌山まで出てからきのくに線だな。きのくに線に乗るのは久しぶりだな。」
「確かに、和歌山に行くときは車の方が多いですよね。」
クジラの話が終わった事で、ユウが残念そうな顔をしているのが少し可哀そうに感じたが、付き合うと話が終わらないので気付いていないふりをすることにした。
俺たちは、部室を出ると駅に向かって歩いて行った。二人での八八の御朱印巡りは、トラブルもなく順調に進んでおり、今回も大丈夫だろうと安心していたが、まさか次の神社での課題があんなに困難なものになるとは予想もしていなかった。
駅に着き南行きのホームに向かおうとした俺にユウが、後ろから声をかけてきた。
「会長、いったん、天王寺に出てから【くろしお】で行くってのはどうですか。天王寺からだと【くろしお】で四時間で紀伊勝浦に着きますよ。四時間もあるし、天王寺の近鉄で駅弁とビール買いましょうよ。」
ユウの提案は、確かに魅力的であった。
「そうだな、乗り換えなくていいし、そうしよう。」
「会長は、乗り換えより、ビールの方がメインでしょ。」
ユウのしたり顔に何とも言えず、俺は黙って北行きのホームに向かった。
天王寺に着いた後、駅弁を探すため、近鉄の食品フロアを歩いていた。
「どの駅弁にしようかな。色々あると迷いますね。」
色々な店の商品を見ながら歩いていたが、京都で有名な料亭の弁当が目に留まったので立ち止まった。
「俺は、これにするよ。美味しそうなおかずが多いのがいい感じだ。」
ユウは、その向かいにある売場が気になったようで、
「じゃあ、僕はこっちの幕の内弁当にします。さっき、横浜で有名なシュウマイをみかけたんですけど、シェアしませんか。」
「了解、じゃあ酒は俺が買うよ。好きなのを言ってくれ。」
俺たちは、両手いっぱいに弁当と酒類を入れた袋を手にホームに並んでいた。くろしおが、ホームに入ると俺たちは、自分の席を確認し、座席についた。
乗車率は少ないものの、他にも弁当とビールを手にした乗客の姿が見られた。
「そろそろ出発ですね。動き出したら乾杯しましょうか。」
ぷしゅ。。
ユウが何か話しかけてきたが、ビールに気がとられてて聞いていなかった。
「ん?ユウ何か言ったか?」
「って、会長、まだ電車動いてないのにもう飲み始めてるんですか。」
「あ、悪い。座ったからもういいかと思って開けちゃったよ。」
俺たちのやり取りをよそに、発車のベルが鳴り響くと、くろしおは、静かに動き出した。
「さ、仕切り直して乾杯しよう。」
「はい、今回もよろしくお願いします。」
乾杯をすると、さっそく弁当を広げた。座席の前のテーブルに三つの弁当とビールが並ぶと、さながら居酒屋での宴会のようであった。
ふと、反対側の座席の方を見るとそこには、ショートヘアでボーイッシュな感じたが、テレビに出てきそうな美少女が座っていた。その女性は、見たところ一人旅のようで、物憂げに窓の外を眺めていた。俺は、しばらくの間、引き込まれるように彼女を見つめていた。
「会長、どうかしたんですか?」
突然、声をかけられ驚いて振り返るとユウが不思議そうにこちらを見ていた。
「この鶏肉、美味しいな。ビールにすごく合う。一つどうだ?」
見られた事になぜかドキドキした俺は、ごまかすようにビールを一気に飲んだ。
「ありがとうございます。僕の方の煮物も美味しいですよ。さぁ、シュウマイも食べてくださいね。」
ユウは、俺の様子を見ても何もなかったかのように、鶏肉を口に入れた後、ビールを飲んでいた。
しばらくの間、お互いのおかずをシェアしながら、車内での宴会を楽しんでいた。
「この横浜の焼売は、定番の美味しさだな。ところで、今、どの辺なんだろ。」
2本目のビールを飲み終わり、ほろ酔いで窓の外をのんびり眺めながら呟いた。
「さっき、南部を過ぎましたよ。もうすぐ白浜じゃないですか。」
ユウも少し顔を赤くして窓の外を眺めている。
「南部か。南部と言えば梅干しだな、帰りに梅干しでも買っていくか。それか白浜で温泉に行くのもいいな。」
この時はまだ、これまで同様に簡単に御朱印を獲得できるだろうと気楽に考えていた。




