ユウの葛藤(sideユウ) 06
「さぁ、お前達、食べてみろ。」
神田川さんは、会長達に向かって声をかけた。
「すごく美味しそうだ。」
「良い香りだな。」
「ユウの気持ちが嬉しいです。」
会長、ヨシ先輩、シュンさんが楽しそうな顔をしてこちらに歩いてきた。彼らの何気ない言葉が、とても嬉しかった。お茶碗を3つとり、それぞれに炊き込みご飯をよそってみんなの前に置いた。
「みなさん、召し上がってください。」
会長達は箸を持ち、炊き込みご飯を口に運んだ。
「美味い!干物から良い風味が出ているな。」
「生姜の香りも効いて、さっぱりしています。」
「優しい味ですね。いくらでも食べられそうです。」
会長達の感想に、何故か今まで一番嬉しい気持ちになった。会長達も喜んでくれて、たくさん食べてくれていた。その様子を見ていた神田川さんがそばにやって来た。
「良い笑顔だな。美味しそうに食べているじゃないか。」
神田川さんは、会長達を見ながら言った。
「はい、今まで僕が作ったモノを食べてもらった中でも一番かもしれません。」
神田川さんの言葉に僕も答えた。
すると、神田川さんは力強く僕を見た。
「お前は自分のスキルが料理人に向いていないって言っていたが、こいつらの笑顔を見たらそんなことはないと思うぞ。」
神田川さんは僕に言い、そして続けた。
「自分の夢があるなら、向いているとか向いていないとか関係ない。やりたいことがあるなら、目指せ。お前ならきっと良い料理人になれる。」
神田川さんは僕に笑いかけながらそう言ってくれた。
「ありがとうございます。良い料理人になれるよう一生懸命頑張ります。」
新たな決意を持ち、力強く答えた。
「そう言えば、この神社の秘密を探していると言っていたな。」
「はっはい、そうです。」
神田川さんの突然の言葉にびっくりしながら答えた。
「この神社で、秘密と言えば御香水しかないだろう。昔話になるが、何もない紙に御香水を吹き掛けるだけで御祭神の姿が現れたという逸話が伝わっているくらいだからな。」
「本当ですか!」
これはもしかしたら、当たりなんじゃないだろうか。会長たちが食べ終わったらさっそく試してみよう。
「ユウは、今回は頑張ったな。」
声に振り返ると、炊き込みご飯を食べ終わった会長たちが周りに集まって料理対決をねぎらってくれた。
「今回の対決は、すごく勉強になりました。これまで諦めていた料理人の夢にもう一度、挑戦する勇気を貰えました。」
疲れ切っていたが、気持ちはどこか晴れ晴れとしていた。
「ユウの夢を叶えるためにも、早く八八を制覇しないといけないな。」
会長達も嬉しそうに僕の方を見てくれていた。
「そうだ!神田川さんにこの神社の秘密も教えてもらったんです。とりあえず試しに行きませんか?」
自分の成果をすぐにでも確認したくて、会長たちを急かして、さっき御香水を汲んだ水場に向かった。ふと神田川さんの方を見ると、神田川さんはこちらを見守ってくれていた。
水場につくと、御香水は変わらず神秘的な香りを漂わせていた。
「これが御香水か?」
「ええ、さっきの料理にも使っていたんです。」
会長の問いに、さっきの炊き込みご飯の水にこの御香水を使っていたと説明した。
「会長、先輩、せっかくだし、少し飲んでみませんか。」
シュンさんが、会長たちに提案していた。
「うーーん、俺には普通の水との違いは分からないな。ユウ、お前には違いは分かったのか?」
ヨシ先輩が、僕を試すように話しかけてきた。
「もちろんです。さっきの料理はこの水の力もあって、あんなに美味しくできたんですよ。」
僕は、自分の鼻に誇りをもって答えた。
「この水を何もない紙に吹きかけた時に御祭神の絵が現れた逸話があると神田川さんが言ってました。」
会長は、僕の言葉を確認するとカバンから『八八』を取り出した。
「水を吹きかけるって言ってもどうしたらいいのかな?」
シュンさんが、『八八』と御香水を交互に見ながら悩んでいた。
「コンビニに行って霧吹きでも買ってくればいいんじゃないか?」
ヨシ先輩の提案で僕は、近くのコンビニに行き、霧吹きを買って来た。みんなの所に戻るとすぐに霧吹きに御香水を入れて『八八』に吹きかけた。
「おっ、御朱印が現れたぞ!」
『八八』に御香水を吹きかけると新たな御朱印が現れてきた。
「これで、二か所目制覇ですね。」
シュンさんも嬉しそうに御朱印を見つめていた。
無事に御朱印を獲得できたので水場を去ろうとしたら、後ろから声をかけられた。
「御香水のご利益は、あったのか?」
「はい、ありがとうございます。」
「そうか、それは良かったな。」
詳しい説明は、何もしていないはずなのに、全てを理解してるかのように神田川さんはたたずんでいた。
「これをお前たちにやる。」
そう言って神田川さんは、真っ白な熨斗が付いた小さな箱を取り出した。
「これは?」
「開けてみろ。」
箱の蓋を開けるとそこには、真っ白な餅が入っていた。つきたてなのか、ほんのりと温かさが手に伝わってきている。
「これは餅ですか?」
「そうだ。餅は供物として良く供えられる神聖な食べ物だ。これから料理人を目指すお前へ餞別だ。これを食べて頑張れよ。」
見た目は普通の餅だが、何故か普通の餅とは違う雰囲気があった。
「ありがとうございます!必ず神田川さんに認められる料理人になってみせます。」
「おう。」
神田川さんの返事に、改めて料理人を目指す覚悟を決めた。
神田川さんに別れをつげ、御香宮神社を後にした。
「この後は、恒例の打ち上げだな。」
「いいお店がないか探してみますね。」
僕はさっそく、携帯で打ち上げ用の店を探し始めた。
「ここなんかどうでしょうか?」
携帯の画面を三人に見せた。
「いいんじゃないか。ここにしよう。」
僕たちは、今、決めた店に向かって歩き出した。
案内された席に座り、ビールといくつかメニューから料理を注文した。しばらく待っていると、ジョッキに入れられたビールが4つ運ばれて来た。その後に頼んでいたサワラの西京焼き、鱧の天麩羅、厚揚げの湯葉あんかけが運ばれてきた。
「お疲れ様でした。」
僕は、乾杯をすると、今日の疲れを癒すため一気にビールを飲んだ。今回は、自分でいうのも何だが、頑張ったと思うといつもよりビールも美味しく感じた。会長たちの方を見ると三人とも美味しそうに料理を食べながらビールを飲んでいる。
「ユウ、今回は大活躍だったな。」
「ホントですね。ユウの力がなかったら二つ目の御朱印は獲得できてなかったんじゃないですか。」
目の前に座っているヨシ先輩とシュンさんが、手放しで僕を褒めてくれた。
「今回のMVPは、確かにユウだな。ユウご苦労様。ユウの活躍にもう一度乾杯しよう。」
会長がそう声をかけると僕たちは、ジョッキをもってもう一度、乾杯をした。
「ところで、今後のことについて相談したことがあるんだ。」
乾杯の後、みんながジョッキを置いたタイミングで会長は、きりだした。
「2か所を回って、この八八の巡り方も少しわかってきたと思う。そこで提案なんだが、八八の御朱印を集めるチームと祈祷スキル使いを探すチームに分かれるのはどうだろうか。もちろん、情報交換は随時行って、どちらかが大変な時にはお互いにサポートはすればいいと思っている。どうだろうか?」
「いいと思います。」
シュンさんは、会長の提案に対して、すぐに答えた。
「僕は、祈祷スキル使いを探すチームでお願いします。」
いつもは、周りの意見を聞いて、慎重に考えてから自分の意見を言うシュンさんが三人の中でいの一番に答えた。
「もちろん、俺も賛成です。」
「僕も賛成です。チーム分けはどうしますか?」
「チームなんだが、シュンは確定として、俺は御朱印を集める方に行きたいと思っている。ヨシ、シュンと一緒に行ってくれないか。」
会長は、すでにチーム分けを考えていたようで躊躇うことなく答えた。
「分かりました。では、御朱印巡りチームは、会長とユウで、祈祷スキル探しチームは、俺とシュンってことですね。」
「ユウもそれでいいか。」
「もちろんです。」
「じゃあ、決まりだな。しばらく別行動になるが、お互いに気を付けて行動をしていこう。」
シュンさんの方をみると、いよいよ祈祷スキル使いを探せることになって顔つきが変わった気がする。ヨシ先輩もシュンさんの変化を感じているのか、少し考え込んでいるようだ。僕は、明日からはしばらく会長とふたりっきりで行動するのか、会長の足を引っ張らないように頑張ろう。
ふと、昼に神田川さんから貰った餅を思い出した。
「そうだ、みなさん。神田川さんに貰ったお餅を食べませんか?新しく目標も決まりましたし、神田川さんが言っていたとおり、これからも頑張れるように。」
「こんなときでも、ユウは相変わらずだな。」
ヨシ先輩にいじられたが、会長やシュンさんも笑ってくれていた。
「ユウもこう言ってることだし、これからに向けて食べよう。」
「そうですね。」
「では、一つ頂きます。」
ヨシ先輩とシュンさんが餅を一つずつ取った。それから会長が取り、最後に僕が取った。
「じゃあ、これからバラバラになるがお互いに気をつけて頑張ろう。」
「「「はい。」」」
こうして、食べたお餅にさすが神田川さんが作ったお餅だと感動しつつ、御朱印集めと祈祷スキル使い探しを本格的に開始することになった。




