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八八冒険記  作者: 夢形えいて
1章
32/51

ユウの葛藤(sideユウ) 05

 昨日と同じ道を通り、神社に着いたが、参拝客はまばらだった。境内に入り、昨日料理を作った調理場に向かうため、本殿に向かって歩いていた。本殿の手前にある拝殿の西側から良い匂いが漂ってきたので行ってみると、拝殿の西側にある絵馬堂の近くの一般の人は入れないようになっている開けた場所に神田川さんがいた。今日は、外で神前料理を作っているようだった。

 「神田川さん、おはようございます。」

 神田川さんは僕の声に気づいたようで、僕達の方を見た。

 「お前か、昨日俺が言ったことの意味がわかったのか?」

 「はい、自分なりに考えて来ました!」

 「そうか。昨日よりは良い顔つきだな。じゃあ作ってみろ。」

 「わかりました。では、ここの竈門を使わせてもらっても良いですか?」

 「あぁ、良いぞ。」

 神田川さんに確認した後、火が付いている竈門の一つにリュックの中から取り出した土鍋をセットした。

 「ユウはあんなものまで持ってきていたのか!」

 「土鍋をここまで持参しているなんて、相当気合いが入っているみたいですね。」

 ヨシ先輩とシュンさんが、僕が土鍋を持ってきたことに驚いていたようだった。会長は、静かに見守ってくれていた。

 まず、僕は絵馬堂と本殿西側の末社の間にある水場から御香水を2リットルのペットボトルで汲んできた。

 次に、家から持ってきた米をボウルに入れて研ぎ始めた。親戚から送ってもらっていて、いつも家で食べている米であり、とても美味しいと思っているものだ。ペットボトルに汲んだ御香水を、研いだ米が入っているボウルに入れて浸水させた。米に水分を吸わせるためにしばらく置いておく。米に水分を吸わせている間に、さらに手荷物からこの料理に使う食材を取り出した。これは、みんなに秘密にしていたものだ。

 「あれは、干物か?」

 「そうみたいですね・・・。あれ?あの干物はどこかで見たような気がしますね。」

 ヨシ先輩とシュンさんが、僕が使おうとしている干物に気づいたようだった。今回用意した干物は5種類ある。干物を七輪の上で焼き始めたが、脂がじっくりと滲み出てどれも美味しそうな匂いがしている。干物が焼き上がったときに、ちょうど米に水分を吸わせる時間も終了した。ボウルの水を捨てて、土鍋に米を移し、御香水を注いだ。その上に焼いた干物を適量置き、醤油、酒を風味づけ程度に加えた。準備を終えた土鍋を竈門に置き、蓋をした。ここから米を炊いていく。

 炊き上がるまでの間、僕は集中して、土鍋を見つめていた。今日のこの料理は絶対に美味しく仕上がって欲しいからだ。蒸気に乗って微かに干物の香ばしい匂いがしてきたので、竈門から土鍋を下ろして、しばらく置き、蒸すことにした。

 神田川さんもこちらを見ているようだった。

 タイミングを見て土鍋の蓋を開いた。辺り一面に干物の香ばしい匂いが立ち込めた。干物の身を慎重にほぐし、用意しておいた細切りの生姜を加え、ふんわりと炊き上がったご飯を混ぜた。

 「神田川さん、出来ました。」

 神田川さんの方を向かって声をかけると、神田川さんもそろそろだと思っていたのか、すぐに手を止め、こちらに来てくれた。ご飯をお茶碗に軽くよそい、神田川さんの前にある机の上にそっと置いた。

 「どうぞ。5種類の干物を使った炊き込みご飯です。」

 神田川さんは、黙ってお茶碗を手に取り、箸でご飯を一口取り口に運び、ゆっくり味わうように咀嚼していた。しばらくして、お茶碗を机の上に置き、そのお茶碗の上に箸を置いて、僕をじっと見た。

 「この炊き込みご飯には、5種類の干物の風味が最高になる量の組み合わせで混ぜ込まれている。何故、この料理を作った?」

 神田川さんは落ち着いた声で僕に聞いてきた。

 「炊き込みご飯が、この干物達を一番活かせる料理だと思ったからです。」

 ゆっくりと落ち着いた声で答えた。

 「そうか・・・。これらの干物を使った理由は何だ?」

 神田川さんの問いに、静かに唾を飲み込んだ。

 「これらの干物は、僕が昨日たどり着いた答えを表すのに必要だったんです。」

 「その答えは?」

 神田川さんの問いかけに対し、考えを整理するため少し間を開けた。

 「これらの干物は、僕たちが一緒に最後に食べた干物なんです。それで僕たちの思い出となる料理を作りたかったんです。」

 「僕たち・・・お前たち4人のことか?」

 「いいえ、ここにいる僕ら4人と今、病室でXXXトリプルエックスと闘っているアヤさんとの5人です。」

 そう言って僕は会長達の方を見ると、会長は静かに頷き、ヨシ先輩とシュンさんは僕をじっと優しく見てくれていた。

 「そうか・・・。お前が出した答えとは何だ?」

 神田川さんはさっきと少し違う雰囲気で聞いた。

 「それは・・・。」

 少し間を置いて神田川さんを力強く見た。

 「食べる人のことを考えて、料理を作るということです。当たり前のことかもしれませんが、どう作れば美味しいと思ってもらえるのか、喜んでもらえるのかって考えて作ること。それが一番大事だったんです。」

 僕は続けた。

 「昨日は、神田川さんに言われた通り、神田川さんに美味いと言わせるかっていう自己満足しか考えてませんでした。」

 僕は、会長達を見てから神田川さんに視線を戻した。が、目を伏せてしまった。

 「僕は小さい頃から料理を作るのが好きで、料理人になるのが夢でした。美味しいと言われるのが当たり前になり、途中から自己満足でしか料理を作っていませんでした。しかし、だんだん自分の料理が美味しいと言ってもらえなくなり、理由がわからず、そして自分のスキルが料理に向いていないからだと決めつけ、やがて料理人を目指すのが嫌になり、夢は諦めたんです。」

 僕はさらに続けた。

 「でも、料理を作るのは自己満足で続けて来ました。自分のために作るのは嫌いじゃなかったので。それから、会長達と出会い、たまたま僕が作って持ってきた料理を食べた会長達が美味しいと言ってくれたので、それからは皆さんにも作るようになりました。」

 神田川さんも会長達も静かに聞いてくれていた。

 「でも、昨日の神田川さんの言葉で思い出しました。僕が初めて料理を作ったのは家族にでしたが、その時はやり方も何も分からなくて、出来上がったものは見た目も良くなかったけど、一生懸命作っていたなってことを。だから、僕は神田川さんに美味しいって言ってもらうにはどうしたら良いか?神田川さんは何を考えているのか?とかを考えていたんですが、一番食べてもらいたいのは、僕が会長達のことを初めて真剣に考えて作った料理だと思い、この炊き込みご飯を作りました。」

 ここで、一瞬間を置いてまた僕は話を続けた。

 「さっきも言いましたが、僕達にはアヤさんという仲間がいます。この干物はアヤさんがXXXトリプルエックスにかかる前に僕達に持って来てくれてみんなで食べたものです。いつかアヤさんが元気になった時にみんなで食べたいと、食べて欲しいと思い作りました。これが今僕に出来る精一杯の料理です。」

 言い終えて、神田川さんの方を見ると、神田川さんは僅かに微笑んでいた。

 「やはりな。この炊き込みご飯を食べた瞬間に頭に浮かんだのはお前たち4人と1人の女性が楽しそうにご飯を食べている様子だった。その女性がアヤさんという人なんだろう。素晴らしい料理だ。見事だ。」

 神田川さんは、褒めてくれた。

「この炊き込みご飯を食べるのは俺じゃない。」

 そういうと、神田川さんは、箸をおいた。

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