ユウの葛藤(sideユウ) 01
駅の改札を出ると、そこにはすでに三人が揃っていた。
「おはようございます。」
すでに先に三人が来ていたことに驚きながら、みんなに挨拶をした。
「お、ユウ、やっと来たな。お前が一番最後だぞ。」
「すみません、今日が楽しみ過ぎて、昨日、なかなか寝付けなくて、結局、寝坊しちゃいました。」
ちょっと焦りながら頭を下げ、三人に駆け寄っていった。
「ユウらしいですね。」
シュンさんは、御朱印帳を見ながら、会長と何か話をしていたようだが、僕の一言に苦笑していた。
「さぁ、全員、揃ったし出発するか。」
会長は、御朱印帳をカバンに入れると僕たちに声をかけた。
「さぁ、こっちです。」
シュンさんは、地図を確認し歩き出した。
駅から西の方に歩いていくとすぐに左側に美味しそうな和食のお店があった。そのまま地図を見ながらまっすぐ歩いていくと、やはり左側に飲食店が並んでいた。今日のお昼ご飯はどうしようか考えながら歩いていると、正面に、道路の幅と同じくらいの大きさの赤い鳥居が見えてきた。近くまで行き、見上げると上に「御香宮神社」と書かれていた。
「ここが、御香宮神社かぁ。大きい鳥居ですね。」
「そうだな。これは驚いたな。」
そう呟くと、会長も同じように驚いているようだった。
鳥居の前で一礼した後、境内の中に入っていった。鳥居をくぐるとすぐ右手に石碑があった。
「あれは確か、松尾芭蕉とその弟子の一人である向井去来の俳句が刻まれている句碑ですね。」
初めて来た御香宮神社に興奮し、ガイドのようにみんなに境内の説明をした。
「松尾芭蕉・・・。まさかユウの口からそんな単語が出てくるなんて・・・」
ヨシ先輩は、僕の説明に驚いた様子を見せていたが、僕だって俳句の一つくらい知ってることをアピールできるいい機会だったかもしれない。
「反対側に見えるのが、伏見義民碑ですね。伏見義民というのは、天明5年に伏見奉行だった小堀政方の悪政を幕府に直訴し、伏見町民の苦難を救い、自らは悲惨な最期を遂げた文殊九助ら七人のことをいうんですよ。」
僕の説明に三人は、何か不思議な者を見るような目でこっちを見てきた。
「さ、早くまずは手水舎に行きましょう。」
早く目的地に行きたかったので、何か言いたそうな雰囲気のみんなを引っ張るようにして先に進んでいった。手水舎に向かう途中、右手に桃山天満宮の拝殿が見えていた。ちなみにここ御香宮神社には、桃山天満宮など16の社がある。
「ユウ、石に注連縄みたいなのが付いてるがあれはなんなんだ。」
桃山天満宮の横にあった石を見て、会長が尋ねてきた。
「あれは、白菊石ですね。伏見の金札宮に昔あったとされるもので、『白菊の翁”が姿を変えられたとされる石』なんですよ。」
「白菊の翁ってなんですか。」
シュンさんからも質問が出てきた。いつも教えられてばかりいるシュンさんに聞かれるのは、いい気分だ。
「白菊の翁というのは、『山城名跡巡行志』に出てくる人物なんです。白菊の翁は白菊を育てていたんですけど、ある年、干天が続き稲が枯れかかった時、翁が白菊の露をそそぐと、たちまちそこから清水がこんこんと湧き出たと記されています。この翁は天太玉命だとも言われてますね。」
「ユウ、お前今日はやる気が凄すぎるな。」
ヨシ先輩の独り言が聞こえて、気分を良くしながら歩いていると、白菊石を過ぎて手水舎に着いた。
「さ、手水舎に着きましたね。手を清めましょうか。」
柄杓に水を貯めて、それを手に流して手を清めた。僕の後に続くように会長達も柄杓を手に取っていた。
手を清め終わった後、手水舎を後にし、拝殿に向かった。
拝殿で参拝をした後、社務所に行き御朱印をもらってきた。御香宮神社は、日本第一安産守護之大神とされる『神功皇后』を祀っているので、御朱印帳の右肩にも『神祀神功皇后』の文字が書かれていた。露天神社の時と同じく『八八』の御朱印帳に書かれた御朱印は、時間がたつと消えてしまっていた。
「今回もやっぱり普通の御朱印は、八八には書けないみたいだな。」
「そうですね。とりあえず、境内を調べてみましょうか。」
「その前にちょっとだけいいですか。御香宮神社には、『遠州ゆかりの庭園』という立派な庭園があるんです。この庭園は、伏見奉行だった小堀遠州が伏見奉行所内に作ったとされる石庭を「昭和の小堀遠州」と言われる中根金作が復元したものなんです。せっかくだから拝観していきませんか。」
「そんなのもあるのか。ユウ、今回の意気込みは凄いな。どこに手がかりがあるか分らないし、そこにも行ってみようか。」
社務所で受付をした後、中に入っていった。庭園は、客殿を囲むようにL字型に広がり、白砂に緑や岩を配した美しいものだった。
美しい庭園に心を癒された僕たちは、『八八』の手がかりを探すために改めて、境内の中を歩いて調べ始めた。本殿の奥には、松尾社、東照宮や稲荷社などもあり順に巡ってみたが、前回と同じく手掛かりとなるようなものは見つからなかった。
そこで、僕たちは一旦分かれて境内の中を調べることにした。僕は、皆と別れ御香水に向かった。御香水は、貞観4年(863年)9月9日に境内から湧き出したものであり、良い香りが漂い、この水を飲むと病気が平癒したことから、「清和天皇」より「御香宮」の名前を賜ったと言われているものだ。
水場に着くと一礼した後、御香水を一口飲んだ。飲んだ瞬間にこれまで嗅いだことのない香りが口の中に広がった。
これが御香水か。おそらく普通の人では、気付かないほど微かだが、これまでに嗅いだことのない神秘的な香りがする水だな。この水は、軟水だからお茶や珈琲に使われることが多いらしい。この水を使うと普通の軟水以上にお茶や珈琲の香りを引き出しているかもしれないな。他にもいろんな料理の香りを引き出せそうだし、どんな料理に合うか考えてみるのも面白そうだな。
『八八』の手がかりは見つからなかったが、僕にとっては、この水を飲むことも目的の一つだったので、とりあえず満足して、集合場所に戻ることにした。
「ふぅ、何も見つからないな。みんなはどうだった?」
会長は、集合場所に集まった僕たちを見て尋ねた。
「僕も見つけられなかったですね。」
「そうですね、僕も見当たらなかったです。」
ヨシ先輩もシュンさんも何も手がかりを見つけれず、少し疲れた様子だった。
「僕も何も見つけられなかったです。」
そう報告した後、疲れてきたので、ちらっと時計を見た。
「みなさん、もう昼をだいぶ過ぎてますよ!疲れましたし、休憩ついでにお昼ご飯食べに行きませんか?」
現金なもので、時間を見た途端お腹が空いてきてしまった。
会長ら三人は少し呆れたように笑っていたが、
「そうだな。このまま探しても時間の無駄かもしれない。前回みたいに何かきっかけがあるのかもしれないし、ご飯を食べながらみんなで考えよう。」
会長もやはり疲れていたようだった。
「じゃあ、せっかく京都に来たんですし、お蕎麦にしませんか?天麩羅も一緒に頼みましょう、きっと美味しいですよ。」
ワクワクしながら、持ってきた情報誌をリュックから出して三人に見せた。
「良いな!喉が乾いたし、天麩羅で日本酒を飲みたいな。」
歩き回って喉が乾いたのか、ヨシ先輩は天麩羅と聞いて、別の意味で水分を欲してるようだった。
「昼ごはん食べたら、また御朱印について調べるんですからお酒はお預けです。」
日本酒で、水分補給は駄目でしょと思っていたら、ヨシ先輩が真面目なシュンさんに諌められていた。
「残念やけど、確かにそうやな。日本酒は夜まで我慢するかぁ。」
やはり冗談だったのか、ヨシ先輩もあまりこだわる様子は見せなかった。
「じゃあ早速移動しましょう!」
行き先が決まったので、僕が先頭に立って歩き始めた。




