始まりの神社(sideシュン) 15
「ミツさん、もうすぐ目標の額が貯まりそうです。今、友人の勧めで投資しているものが、もうすぐ換金される予定なんです。それが返ってくれば、おハツちゃんの見受けに必要な金額まで貯まるんです。」
徳兵衛は興奮気味にミツに話をしていた。
「そうなんですね。もうすぐハツに会えるんですね。」
徳兵衛が帰った後、一人部屋の中で考え事をしていたミツは、気分転換をするため、境内を散歩していた。境内の中を歩いていると、境内の隅の木の根元にタバコが落ちているのに気が付いた。
(こんな所で喫煙をするとは罰当たりな人もいるものですね。)
ミツは、タバコを拾い上げごみ置き場に持って行こうとした。
(え、この情報は・・・。まさか、神主様が・・・)
ミツは、呆然としながら、自分の部屋に戻っていった。
(過去は過去、今は徳兵衛さんが頑張ってくれているんですから、この話は忘れて、ハツの見受けを待つしかない。)
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数日後、突然、徳兵衛がミツのところにやってきた。
「徳兵衛さん、そんなに慌ててどうされたのですか。お茶でも飲んで落ち着いてください。」
徳兵衛は、ミツから手渡されたお茶を一息に飲むと、挨拶もそこそこに話し出した。
「先日、友人の投資話をしたと思うのですが、その友人が行方をくらませてしまったのです。」
「え、それじゃあ徳兵衛さんのお金は?」
「そうなんです。私の投資したお金もその友人が持ったままだったんです。」
徳兵衛は消沈した様子で手元を見つめていた。
「行方をくらませたのは、なぜ分かったのですか。」
徳兵衛は懐から紙を取り出すとミツに渡した。
「この手紙が、今朝私の家の前に置いてあったのです。中を読むと投資が失敗したので、遠くにいくとだけ書いてあって、慌てて友人の家に行ったのですがもぬけのからでした。」
ミツは手紙をとり内容を読もうとしたとき、頭の中にある男の顔が浮かんできた。
(この顔は・・。まさかこの件にも神主様が関わっているということなの。少し、深く視る必要がありそうね。)
「徳兵衛さん、この手紙を預かってもよろしいでしょうか。」
「ええ、もちろんです。」
「そのご友人の手がかりがないか、調べてみますね。」
ミツは、手紙をじっと睨みつけていた。
徳兵衛が、友人の行方を捜しに行くと言って出て行った後、ミツは誰も部屋に入ってこないように言い、部屋の扉を閉めて過去視の準備を始めた。
ミツは、正装に着替えると、神事用の蝋燭に火をつけ、手紙を小さな祭壇の上に置いた。祭壇の前に正座し精神統一をすると静かに手紙の上に手を置いて過去視を始めた。
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「ミツの娘の件はどうなった」
「娘を預かっている老夫婦に借金を背負わせて、娘が遊郭に売られるように措置しました。」
「そうか、これでミツも娘のことをあきらめるだろう。あいつの過去視の能力は、この神社のためだけに使わせないとな。万が一、娘に会ったりすると巫女を辞めるとか言い出しかねないからな。」
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「ミツの部屋に出入りしている男の素性は分かったのか。」
「ミツの娘の想い人でした。娘の身受けの話があるようで、その男が引き受け人になるために動いているようです。」
「その話を潰すことはできないのか。」
「前と同じ手でいきます。その男の友人に金をつかませて、徳兵衛に投資話を持ちかけるようにさせているところです。」
「そうか。しかし、友人となると後々、足がついたりしないのか。」
「そこは、大丈夫です。徳兵衛に最後の手紙を書かせた後に始末しておきますので。」
「そうか。これで、ミツをこの神社で死ぬまで働かせることができるな。」
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ミツは、過去視が終わると、祭壇の前で憔悴しきって倒れこんだ。しばらくして、起き上がったミツは、過去視用の装束を着替え、部屋を出ていった。
ミツは、街はずれで徳兵衛と落ち合うと、自分の能力を説明した後、事の顛末を徳兵衛に伝えた。その後、二人はハツを身受けすることを諦め、遊郭から連れ出すための算段を考え始めた。




