始まりの神社(sideシュン) 14
ミツは、神社に戻ってくると、時間を見つけてはハツの行方を捜していた。ハツに繋がる物品が何もないため、ミツの過去視を使うこともできないまま、時間だけが過ぎていった。
ある時、神社にお参りに一人の男がやってきた。ミツは、いつもどおり男を本堂に案内したが、その時に偶然、男の荷物に手が触れた際に、ハツの情報が頭の中に流れ込んできた。
ミツは、思わず男の方を見たが、見覚えのある顔ではなかったため、その場は、何も尋ねることはせず、本堂に案内した。
ミツは、参拝を終えた男が本堂から出てくると、男の素性を確かめるためにさり気なく、男の袖に手を触れた。
男は、ミツに礼をするとそのまま立ち去っていった。
(あの人は、町の問屋の関係者だった。なぜ、問屋の関係者の荷物にハツの情報が見えたのかしら。一度、問屋に行ってみる必要がありそうね。)
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ミツは、問屋の前の物陰から出入りする人の様子を観察していた。そこにあの時の男が現れたため、その後についていくと、人通りが途絶えたところで話かけた。男は急に話しかけられたことに驚いていたが、相手が神社の巫女であることが分かると警戒を解いた。
「巫女さまが、私にどのような御用でしょうか。」
男は、ミツを見つめたまま優しく問いかけた。
「このような場所で、突然お声がけをしてもうしわけありませんでした。実は、ある人を探しているのですが、あなた様が何か情報をお持ちではないかと思い、お声がけいたしました。」
ミツは、相手が戸惑うことを覚悟のうえで話を始めた。
「人を探している?それは私が知っている人なのでしょうか?」
男は怪訝に思いながらもミツの必死の様子を見て、話を聞いてみることにした。
「年の頃は、十代後半で、名前は、ハツといいますが、もしかしたら違う名前を名乗っているかもしれません。背格好は私と同じくらいで、色白の優しい目をした女性です。」
ミツは、男の荷物を過去視した際に得た情報を男に伝えた。
「ハツ・・もしかして、あなた様は、おハツちゃんの母上ですか?」
「え、ハツをご存じなのですか。」
ミツは、男の返答に驚きを隠せないようすだった。
「ええ、ただこんなところでこれ以上の話はできませんね。残念ながら、今日はこの後、急ぎの用事を言付かっていますので、日を改めていただけないでしょうか。」
「わかりました。では、ご都合のいい時に神社に来ていただくことができますか。神社には私の部屋がございますので、そこであれば他の人は誰も入ってこれないんです。」
「では、後日、お伺いいたします。本日は、これで失礼します。」
男は、ミツに頭を下げると早足で立ち去って行った。
(まさか、こんなにうまくいくなんて。あの人はハツの何なんだろうか。ハツに早く会いたい。。)
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数日後、ミツの元を先日の男が訪れてきた。
「こちらです。」
ミツは、男を自分の部屋の中に案内した。境内の木の陰から一人の男がその様子を見つめていた。
「本日は、お忙しい中、お越しいただきありがとうございました。さっそくなんですが、ハツの話をきかせていただけないでしょうか。」
ミツは、男が畳の上に腰を下ろすやいなや、話かけた。
「わかりました。ただ、その前にまず自己紹介をいたします。」
その瞬間、ミツは自分の名も名乗っていなかったことに気付き、顔を赤らめた。
「申し訳ございません。気が急いてしまい、名も名乗らずにいてしまいました。私はこの神社で巫女を務めさせていただいておりますミツと申します。ハツというのは、私の娘の名前なのですが事情があり、生き別れになっており、行方を捜していたのです。」
そういうと、ミツは用意していたお茶を男の前に置いた。男はお茶を一口飲むと話を始めた。
「私は、問屋で丁稚をしている徳兵衛と申します。おハツちゃんとは、遊郭で出会ったのですが、そこで恋仲になり、彼女を身受けするため、今、お金を貯めているところなんです。この根付も彼女からもらった贈り物なんです。」
(あの時に触れたのはこの根付だったのですね。)
ミツは、偶然、根付に触れた幸運を感じながら徳兵衛の話を聞いていた。
「私の力では、まだ彼女を身受けできるだけの額は、貯めれてないのですが、近いうちに必ず、貯めてみせます。」
徳兵衛は、ミツの目を見て力強く宣言した。
「そうなんですね。お金のことでしたら私にも多少の蓄えはありますので、協力させていただきます。もう少しハツのことを教えていただけませんか。」
その後、ミツと徳兵衛は夜が更けるまで、ハツの話を続けていた。
「気が付けば、もう、こんな時間ですね。遅くまで申し訳ありませんでした。」
「何をおっしゃいます。私がお願いして話をしていただいたんですから、こちらこそこんな時間まで申し訳ありませんでした。また、来ていただくことはできますか。」
「もちろんです。おハツちゃんの母上なんですから、いずれは私にとっても・・、いや、すいません、今のは忘れてください。本日はこれでお暇させていただきます。」
ミツは、徳兵衛を見送ると自分の部屋に戻ってきた。
(女の私が遊郭に行くのは難しいので、徳兵衛さんが身受けするのを待つしかないですね。身受けに幾らかかるのか分からないですが、これまでの蓄えを使ってもらえば、もしかしたらすぐに出てこれるようになるかも。それにしても、徳兵衛さんと神社で出会えたのは幸運だったわ。これも神様のお導きかもしれないですね。)




