始まりの神社(sideシュン) 11
「ねぇ、聞いた?今度、この村の近くを領主さまのご一行がお通りになんですって。」
「なんで、領主さまがこんな田舎に来られるの?」
「いつもの気まぐれらしいけど、また、何か言い出すんじゃないかって、村長もピリピリしているらしいわ。」
「本日は、この村の近くを領主様の一行がお通りになる。皆、くれぐれも粗相のないようにしてもらいたい。領主様が来られる時間には、村の者が総出でお出迎えをすることになるので心しておいてもらいたい。」
村長は、村の広場に村人全員を集め、領主が来ることを説明していた。
「お出迎えって言っても、この村に来るわけじゃないんですよね?」
ミツが隣の女に話しかけた。
「なんでも、村の近くの街道を通り抜けるだけらしいんだけど、そこで皆でお見送りをするらしいの。」
女も迷惑そうな顔をしながら答えた。
「見送り?」
ミツが不思議そうな顔をした。
「街道沿いに並んで、跪いているだけでいいみたいよ。」
「皆の者、そろそろ街道にいくぞ。」
村長が声をかけると、村人はその後をついて街道に向かった。
街道では、領主の一行が行列をなして進んでいた。その中央には豪華な籠があり、中に領主とその娘が乗っていた。
娘は籠の中で、手に持った光輝く簪を見つめていた。
「父上、この簪、太陽の光に当てたらもっと綺麗に見えるそうです。」
「そうなのか、ではその窓を少し空けて光を取り込んでみてはどうだ。」
街道の先で砂煙が見えてくると、村人たちは村長に促されて、街道沿いに跪ずいた。
「ほら、凄く綺麗に光っている。これを付ければあの方も私のことをきっと気に入っていてただけるはずですね。」
娘が、簪を太陽に向けて見とれていると、突然、カラスがやってきて簪を咥えていった。
「きゃー」
娘の叫び声に一行は、立ち止まり、領主の籠の周りに私兵が集まった。
「私の簪が、」
娘は、何もなくなった自分の手を見て呆然としていた。
「どうなされました。」
私兵の隊長が娘のそばにやってきた。
「カラスが飛んできて、私の簪を奪っていったの。なんで、こんな所にカラスが飛んでいるの!ここは泥棒カラスの住みかなの!」
状況を把握した隊長は、部下にカラスの捜索を命じた。
領主の一行が突然、立ち止まったことに戸惑いながらも、村人は跪ずいたまま、一行が通りすぎるのを待っていた。
「あれは、なんじゃ。」
跪く村人を見た領主が隊長に尋ねた。
「この近くの村の者と思われます。」
「まさか、あのカラスはあの者どもの仕業じゃないだろうな。」
「確認して参ります。」
少し呆れ顔になった隊長は、領主の言葉と諦め、村人の方に歩いていった。
「領主さま、どうかされましたか。」
隊長が近づいてくるのを見た村長が顔をあげ、尋ねた。
「今、カラスが領主のお嬢様の簪を盗っていったのだが、お前たちの仕業か?」
隊長は内心呆れながらも、領主の手前、村人たちを詰問した。
「め、滅相もございません。簪を盗むなんて、そんな大それたことやったりはいたしません。」
村長は、慌てて否定した。
「しかし、この場で盗まれたのも事実だ。何も関係がないとは思えないのだが、お前たちは何か知らないか。」
隊長は、跪いている村人を見回した。
「ミツさんなら、カラスを探せませんか?」
ミツの横で平伏していた女が、早くこの場を去りたいのか、ミツの方を向いた。
「そんな、無理ですよ。家で失せ物を探すのと違うんだから。」
ミツは、慌てて否定をした。
「何を話している?」
隊長は、二人の方を振り向いた。
「申し訳ございません。おミツさんが、探し物が得意なのでなんとかできるんじゃないかと思って、聞いていたのです。」
女は、ミツを指差し隊長に答えた。ミツは、顔をあげることもできずに平伏し続けていた。
「女、逃げたカラスを探せるのか?」
隊長は、ミツを睨みつけた。
「滅相もございません。私にそのような事はできません。ご容赦ください。」
隊長は、ミツをじっと見つめていた。
「捕まえたぞ~」
遠くからカラスを捕らえた声が聞こえると、隊長は、その方向に走っていった。
数日後、領主の私兵が突然、村までやってきた。村人が、家の中からその様子を見ているなか、村長が広場で対応していた。
「本日は、どのようなご用でしょうか?」
「村に用はない。話を聞きたい者がいるので来ただけだ。」
隊長は、村長の方を見ず、村の中を見渡していた。
「話を聞きたい?我が村には、領主様がご関心を持たれるような者などいないと思いますが。」
隊長は、ある家に目を止めると、窓から外を見ていた女に声をかけた。
「私に何かご用でしょうか?」
声をかけられた女は、隊長の前にくると跪いて震えていた。
「ご領主さまが話をされたいのはお前ではない。先日、お前の隣にいた女だ。」
隊長がそういうと、女はホッとしたように顔を上げた後、ある家の方を向いた。
「あの家にいるのか。」
隊長は、そう言うと、女が見た家の方に歩き出した。
「こ、こっちに歩いてくるわ。」
「心配するな。俺が話を聞いてくる。」
ミツの夫は、安心させるように言うと家の前に出ていった。
「あの、我が家に何か御用でしょうか?」
「お前に用はない。あの女を連れてこい。」
隊長は、夫の方を見ることもなく、家の方をじっと睨んでいた。
「あの、私にどのような御用でしょうか?」
ミツは、隊長の前に現れると恐る恐る尋ねた。
「お前は、探し物が得意と言っていたが、もしかして過去視スキル使いなのではないか?」
「いえ、そんなスキルは私にはございません。」
「隠してもすぐに分かることだ。今から我々に付いてきてもらうぞ。」
隊長がミツを連れていこうとすると、夫が隊長の前に立ちふさがった。
「邪魔だ、そこをどけ。」
「お待ちください。何かの間違いではないでしょうか。」
「うるさい!」
隊長は、刀を手にすると夫に切りつけた。
「あなた!」
「ミツ・・」
ミツは、隊長に手をとられ、村人が遠巻きにするなか、連行されていった。




