始まりの神社(sideシュン) 10
この時代では、特定の高スキルを保有している人は、幕府が定めた職業に半強制的につかなくてはいけないという決まりがありました。
当然、それを喜ぶ人もいれば、嫌がる人もいましたが、当時の幕府に逆らうことは死を意味していたため、高スキルの保有が明らかになった人たちは、自分の気持ちを封じ込めて幕府の指示に従っておりました。
摂津国(今でいう大阪市北部)にある小さな村がありました。そこには、ミツという気立てのいい娘が暮らしておりました。
ミツは、早くに両親を失くし、一人で暮らしていましたが、誰にでも優しく接し、子供たちの面倒見もいいことから、村の人気者でした。しかし、彼女には、他の村人に秘密にしていることがありました。
ミツは、本来なら村を出て幕府の指定する職業に就くことが定められた高スキル保有者だったのです。しかし、この村を離れたくないという思いから、高スキル保有者であることを隠して暮らしていました。
そんなミツには想いを寄せるヒデという若者がいました。ヒデはミツの幼馴染みで、村中の誰もが羨む仲の良い二人でした。二人は、お互いが十八になった年に結婚を約束しておりました。
「次に桜が咲く頃には二人も夫婦になるんじゃな。」
「お婆様、ありがとうございます。」
ミツは、幼くして両親を失くした後、同じ村に住む子どものいない老夫婦に何かと面倒をみてもらっていました。両親のいないミツにとって老夫婦と幼馴染のヒデだけは、数少ない心を許せる者だったのですが、自らが高スキル保有者あることだけは、伝えていませんでした。
桜の季節になり、ミツとヒデは、祝言をあげ晴れて夫婦となりました。その後、しばらくして赤ちゃんを授かり、二人は益々、幸せな時間を過ごしていました。
「頑張るんだよ!もうすぐ産まれるからね。」
「はい!」
「ミツ、がんばれ。」
村の産婆の家では、今まさに新たな命が誕生しようとしていました。
「おぎゃ~。」
「可愛い女の子だよ。よく頑張ったね。」
産婆が取り上げたのは、元気に泣く女の赤ちゃんでした。ヒデとミツは、二人の子どもにハツと名付け、大切に育てていました。
・・・・・
ミツは、家族三人で幸せに暮らしていましたが、小さな村の中では仕事も少なく生活は苦しい状態が続いていました。そんなある日、ミツの元に村長の娘がやってきました。
「ミツさん、嫁入りの時に持ってきた簪がなくなってしまったの。探してもらえないかしら。」
「お嬢様、なぜ、私のところに探し物の相談に来られたのでしょうか?」
ミツは、普段、接することのない村長の娘が急に訪れたことに戸惑いを感じていた。
「あなたが、探し物がお上手だけと聞いたのです。」
ミツは、一度、近所の人に頼まれて探し物をした際に、いち早く見つけたことがあり、それ以降、近所の人から偶に探し物を頼まれることがあった。ミツは、本当は断りたかったのだが、お礼に貰える食料品などをハツが喜んでいたため、断り切れず何度か依頼にこたえていた。できるだけ、隠していたつもりだが村長の娘の耳にまで入ってしまっていたようだ。
「ええ、分かりました。お宅に上がらせてもらってもいいですか。」
ミツは、断ることができるかしばし悩んだが、諦めて村長の娘の家に伺うことにした。
ミツが家に入り、しばらくすると手に簪を持って戻ってきた。
「これですか?」
ミツは、簪を村長の娘に手渡した。
「ミツさんは、探し物がお上手ですね。」
「いえ、普段、簪ならどこに仕舞うのかを考えただけですよ。」
「でも、この事はあまり他の人には言わないようお願いいたします。」
ミツは、大したことがない素振りを示すと家の前で遊んで待っていたハツの手を引いて、帰っていった。




