始まりの神社(sideシュン) 09
「ヨシ先輩、感想の続きです。一人より仲間と飲みたいなって思う味でした。」
僕は、思いを込めて、最後の感想を伝えた。
「仲間と飲みたい味・・」
ヨシ先輩は、僕の感想を聞いて少し考えた後、何かに気付いたのか顔を上げアオイさんの方を見た。
「俺が飲んだ御神酒は、『久保田の萬寿』だと思う。」
ヨシ先輩は確信をもってアオイさんに答えていた。やはりヨシ先輩はすごいな。一人で銘柄にまでちゃんとたどり着いている。
「なるほど、なぜそう思われたのか伺ってもよろしいですか。」
「最初に、この酒を盃に注いだ時、お猪口からは、芳しい香りがしており、すぐにかなり上等な酒であるかは分かった。しかも一口飲むと芳醇な味わいとさわやかな香りがしていて、しかも熟成されたうまみも感じられた。ここまでのものは、めったに飲めるもんじゃないので本当はこんな試合ではなく、うまい肴と一緒に純粋に酒を楽しみたいと思ったくらいだ。だが、これだけではまだ候補が多すぎで銘柄を当てるまでにはいかない。そこで、俺はこの日本酒のさらに感じるために鼻に抜ける香りを確かめた。そうして、過去に飲んだ様々な日本酒を思い出していった。純米なのはすぐに分かった。後、酒の雰囲気が北国の感じだった。」
(北国の感じの酒って・・どれだけ飲めば日本酒を飲んだ時にそんな感想が出てくるんだ。)
僕は、ヨシ先輩の酒の表現の奥深さに感心させられた。
「ここまでくると具体的な銘柄の候補が絞られてくることになる。〆張鶴、男山、久保田、一ノ蔵、八海山、越乃寒梅など幾つかの候補が出てきた。だが、最後の決め手がなかった。それで俺は、改めて過去に飲んだ日本酒を思い起こしてみた。そうして、最後に行きついたのが、新潟の朝日酒造で造られている銘品、『久保田の萬寿』ということだ。正直、これで間違いはないと思ったが、世の中には、ものすごい数の日本酒がある。当然、俺の飲んだことのない銘柄もたくさんある。自信はあったが、一発勝負に絶対勝てるかとなると正直半々の気分だった。」
(ヨシ先輩、自信ありそうに見えたけど、葛藤もあったんだ。)
僕たちは、ヨシ先輩の説明を固唾を飲んで聞いていた。
「だが、会長とシュンの感想を聞いた後、この銘柄で正解だという思いは確信に変わった。今回の神前試合に使われた酒は、俺たちが四人で飲んだことのある酒なんだと。しかも去年、御朱印巡りで行った白山神社の近くで飲んだ酒だと気付いた。あの日に飲んだ酒の味は全部覚えている。だから確信をもってこの酒は『久保田の萬寿』だと言えたんだ。」
「お見事です。確かにヨシさんが飲まれた御神酒は『久保田の萬寿』で間違いありません。では、もう一つのお題である誰が同じ御神酒を飲まれたのかについてお答えお願いします。」
大丈夫と信じていたが、アオイさんの口から正解を聞くとホッとして肩の力が抜けてきた。さっきの先輩の説明を聞いたらもう一つのお題も大丈夫だろう。
「その答えを言う前に、なぜ白山神社が出てきたのかを説明しておく。会長とシュンの様子を見ると二人とも自分が飲んでいる御神酒の銘柄に気付いたようだった。会長はともかく、普段、日本酒を飲まないシュンが、正解にたどり着いたのは正直驚きだった。だが、二人の感想の中に出ていたキーワード「恋を予感させる味、雪国のような、仲間と飲みたいなって思う味」を聞いたときに、白山神社が思い浮かんだんだ。」
(あのキーワードだけで気付いてくれるなんてさすが、先輩だ。)
僕と会長は、顔を見合わせると二人の作戦が上手くいったとばかりに机の上で小さく拳を握りしめた。
「白山神社に行った後に寄った小料理屋で飲んだのは、全員、日本酒だった。しかも店の店員が一杯ごとに詳しく説明をしてくれていたので、シュンもその時のことを思い出したんだと思う。今回、シュンが飲んでいたのは『上善如水』だろう。会長は、『〆張鶴』だと思う。そして、『久保田の萬寿』を飲んでいたのは確かユウだったはずだ。めったに飲めない酒があると聞いて、値段も確認せずに飲んでいたのを覚えているよ。そして、飲みなれない日本酒を何杯も飲んだせいか、ユウは気付いたら机に突っ伏して眠りこけていた。俺もあの時は、色々な種類の日本酒を飲んだがその中の一杯が、萬寿だった。今回のお題は、あの時の小料理屋の再現だったと気付いたんだ。」
「もう一つのお題の答えは、『ユウ』だ。」




