始まりの神社(sideシュン) 07
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「会長、知ってます?日本酒を飲むときに口に少し空気を入れて、鼻から抜くと、より香りが楽しめるんですよ」
「例えば、この酒だと、芳醇な香りがよくわかりますよ。」
「そうなのか、今日はビールの気分だから、今度やってみるよ。」
「ええ、是非、試してみてください。日本酒の美味しさがより一層、分かりますよ。」
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「これを試してみようと思うんだ。お前たちも試してみてくれないか。」
会長は目の前の盃を持ち上げ、再度、御神酒を口にした。
僕たちも会長に教えられた方法で、再度、御神酒を試飲した。
(酒を口に含んだ状態で息を吸い鼻から吐き出すだったな・・・。)
僕は、会長のアドバイスに従って再度、御神酒を口にした。
これは!香りがさっきと格段に違うぞ。頭の中で香りのイメージが鮮明になってきている。これなら、イメージを伝えれるかもしれない。)
「二人とも、何か違いはわかったか?」
会長も何かに気付いたのか、少し自信を取り戻したような顔をしていた。
「よくわかりました、これなら、大丈夫です!」
うまく言えないが、これで何とかなりそうな気がしてきた。
「ユウは、どうだった?」
ユウの返事がないことを、訝しんだマナブは、確認するようにユウに話かけた。
「とっても美味しいです~」
ユウは、呂律の回らない様子で答えるとその場に座り込んでしまった。
「どうした、ユウ大丈夫か。」
ユウが座り込んだのを見た僕は慌てて、駆け寄っていった。
ユウの傍にくると、「すぅ・・」とユウの寝息が聞こえてきた。
「もしかして、寝てるのか?」
僕は、何もなかった事にホッとしつつも、神前試合の事を考えると眠りこけるユウを見て頭を抱え込んでしまった。
僕たちの様子を心配そうに見ていたヨシ先輩は、急にユウが座り込んだのを見て、立ち上がりかけたが、僕の呆れた顔を見て、事情を察したのか、座り直していた。
その様子を見ていると(おそらく、寝落ちだな。はぁ~、あいつは、いったいどれくらい飲んだんだ)というヨシ先輩の心の声が聞こえてくるようだった。
僕と会長は顔を見合わせ、ユウの様子を眺めていた。
「起きそうにないか。仕方ない、シュン、俺たちだけでも正確な情報をヨシに伝えるぞ。」
「はい、分かりました。」
僕は、二人だけになったことで難易度の上がったこの試合をクリアすべく気合を入れなおした。
「シュンの酒はどんな感じだった?」
会長は自らの盃を置くと、僕と向き合った。
「僕が飲んだのは、すっきりした感じで柑橘系というかさわやかな香りがしました。」
僕は、会長に教わった方法で感じたままを伝えた。
「そうか、俺のは芳醇な味わいだったな。」
僕たちはお互いの盃を見つめたが、見た目では何も情報を得られるはずもなく再び、情報交換を始めた。
「シュン、他に感じたことはないか。」
「そうですね。なんとなくなんですが、女性向けな印象があります。」
僕は、会長の問いかけに改めで先ほど感じた香りを思い起こした。
「そうか、最近は、色んな蔵元で女性を意識した酒造りがされているから、その中の一つなのかもしれないな。俺のは、王道の日本酒って感じだった。おそらく、ヨシなら、この情報だけで二人のうちのどちらが自分の酒と違うのかは分かるだろう。問題は、ユウの分をどう考えるかだな。」
「そうですね。代わりに飲んでコメントするわけにもいきませんし、何かいい手はないですかね。」
僕は、気持ち良さそうに寝ているユウを見つめ、ため息をついた。
自分の利き酒をしながらも僕たちの様子が気になるのか、ヨシ先輩は、寝ているユウをじっと見ていた。
「そういえば、僕たち全員が揃って日本酒を飲むのって珍しいですよね。」
僕は、ふと思ったことを会長に告げた。
「そうだな、みんなその時の自分の気分で好き勝手に注文してるから、同じ種類の酒を飲むことは、めったにないな。」
僕と会長は、少し酔いを冷ますため、口直し用に用意されていた水を口にした。
「覚えてるのだと、去年の夏に新潟に行ったときには、酒どころだってことで、みんなで日本酒を飲みましたよね。」
僕は、これまでに同好会のメンバーでいった飲み会を思い出していた。思い返せば、色んな場所で色んな酒を飲んでいたものだ。今までに飲んだお酒を順に言えと言われても不可能だが、印象深い飲み会のことは思い出せる。
「そうだな。あれは確か、白山神社に行ったときだったかな。」
会長は、記憶を探るように遠くを眺めながら言った。
「恋愛成就で有名な場所でしたから、ユウのテンションがおかしかったですね。」
僕もその時の事を思い出していた。
「そうそう、御朱印をもらった後にやたらとお守りを買いこんでいたな。」
「そうでしたね。そういえば、この露天神社も恋愛成就で有名なんですよ。」
会長は、周りを見渡したが、木々に囲まれているため、境内の様子は見えなかったが、ここまで来た時の様子を思い浮かべているようであった。
「確かに、境内のいたるところが恋愛っぽい仕様になってたな。ユウのやつ、ここでもお守りを買いこむんじゃないか。」
会長は、眠りこけているユウを見ながら微笑んだ。
「あの時に日本酒を飲んだのは、どんな店だったかな?」
「確か、白山神社の近くにある地元の穴場的な小料理屋でしたよ。」
僕と会長は、盃を置き、昔話に花を咲かせていた。
「そうそう、新潟の地酒、色々飲んだなぁ。八海山、上善水如、越乃寒梅、〆張鶴・・」
「どれも美味しかったですね。」
あの時は、僕もユウも普段あまり飲まない日本酒を色々飲んでいた。もちろん、次の日の結果は言うまでもないことになったが。。
「1年もたってないのに、だいぶ昔の話のように感じるな。それだけ、お前たちと色んな時間を過ごしてきたってことか。」
会長がしみじみと言っていた。




