スタンピード①
アーサー王国王城
ゴブリンスタンピードの情報はすぐさま王に伝えられた。
「ゴブリンスタンピードが確認されました!数は約10万!ゴブリンキングの姿も確認されました!」
「なんだと!魔物の位置はどこだ?」
「国の南東部です。南の町に向かっています!それと他にも報告が・・・」
「なんだ?申せ!」
「南西の検問所でスタンビードに先行する形でデイブックの勇者ブレイブの姿が目撃されています!ブレイブは検問所を突破し、南の町へと走り去ったようです!」
王は頭を抱えた。
「またデイブックか・・・この国を亡ぼす気か。」
「南の町の住民は避難可能ですか?」
ルナは冷静に状況を分析した。
「可能です。」
「お父様。住民を王都まで避難させましょう。そうしなければ南の街は全滅です。時間を稼いで、戦いの態勢を整えてから応戦しましょう。それと、ディアブロ王国とウイン様に協力をお願いしましょう。」
アーサー王国の中で一番防御力の高い都市が王都だ。南の街は、防壁の高さと強度に問題があり、常駐させている戦力だけでの防衛は出来ないのだ。
「そうだな。ウォール隊長はいるか!」
「今魔物討伐で遠征中です!」
「すぐ呼び戻せ!それと今いる騎士と兵士、冒険者ををすべて集めよ!時間が無いぞ!」
◇
スタンピードは、一番防壁の能力が高い王都で迎え撃つこととなった。
全ての兵士・騎士・冒険者が王都へと集結したが、ウイン一行とディアブロ王国の援軍の到着が間に合わぬまま絶望の開戦を迎えた。
アーサー王国全軍18000
ゴブリン全軍 92000
兵力差5倍強
ゴブリンの進軍が始まった。
後方に1000の精鋭を残し、残り全軍での進軍だった。
後方のゴブリンキングを含む精鋭は王都を見つめる。
メアとウォールは防壁の上からゴブリンキングの様子を観察していた。
「怖いですねー。後ろのゴブリンキング。こちら側の隙が出来たら一気に突撃してきますよー。」
「そうだな。だが今は、やれることをやるしかない。」
「守り切れますかね?」
「守り切るしかない。っと言いたいところだが、正直厳しいな。頑張っても時間稼ぎくらいにしかならんだろう。相手は今日中に城を落とすつもりだろうが、一日は持たせたい。」
「ゴブリンたちは精鋭1000を残して全軍で詰め寄って来てますもんね。一日で落とす気ですよ。」
「一気に王城の南側城壁に攻めよって来る気か!はしごまで用意しているな。城門の破壊と、はしごによる城壁の制圧を同時にやってくるつもりだな。」
「厄介ですね。向こうが消耗戦を仕掛けてきてくれれば、まだ援軍を待って時間を稼ぐだけで良かったんですが、ゴブリンたちが全力でつぶしに来たせいで、こちらが打てる手をほとんど潰されました。」
「後2年、いや、後1年遅く来てくれれば、兵の量・質・装備すべて強化することが出来た。それ以前に南東部の住民をもっと北西に移民させることで、デイブックからゴブリンを押し付けられることもなかったかもしれんな。」
「全くですよ!こうなったら、ゴブリンがまとまった所で、魔法をお見舞いしてやります!」
「メア、手はず通りMPは3割以上温存しておいてくれ。」
「大丈夫です。あ、ゴブリンが弓兵の射程まで迫ってきましたよ。」
王が合図を出す。
「矢を放て!」
防壁の上から兵士が一斉に矢を放つ。
矢がゴブリンに突き刺さるが、向こうは数に物を言わせて突撃し、ゴブリンも矢を撃って来る。
矢の撃ち合いではこちらの方が優勢ではあったが、ゴブリンたちの勢いは止まらず、突撃を続けた。
「魔法を撃てー!」
ゴブリンの距離が近くなってきたタイミングで魔法攻撃も始まった。
一番射程が長いのが弓で、次に魔法となる。
基本に即した戦い方だった。
魔法と矢の雨の攻撃でゴブリン部隊を順調に倒していったが、ゴブリンの勢いは止められない。
ゴブリンは、南門への攻撃と、はしごによる南門周辺の城壁への進行を同時に行った。
「わが軍の魔法攻撃部隊、MPが切れつつあります。」
「分かった。」
王は焦る。
く、やはり数が多すぎる。戦闘の準備をする期間が短すぎた!
MPポーションの出し惜しみはせず、後先考えず使っていた。それでもゴブリンの勢いを止められないか。
「弓兵部隊の損害、3割を超えました!」
防壁の弓兵部隊は、ゴブリンに真っ先に狙われていた。
ゴブリン部隊にとって一番厄介なのが弓による攻撃なのだ。
矢さえあれば一人の弓兵だけで何百本も矢を放ってくる。
ゴブリン部隊は効果的に人間の戦力を削いでいった。
「援軍の到着はまだか!?」
「いえ、まだ到着していません!」
「南門!集中攻撃を受けています!」
「やはりそうなるか!ウォール率いる精鋭部隊を集結させよ!」
メアは南門の上で魔法を唱えた。
「サイクロン」
メアのサイクロンで、南門に集まるゴブリンをまとめて倒した。
「サイクロン!・・・・・・サイクロン!」
メアの魔法攻撃で城門に集まるゴブリンを倒していったが、ゴブリンの勢いを殺すことは出来なかった。
「MPが3割を切りましたが、魔法攻撃を続けた方が良いんじゃないですか?」
「ダメだ!」
「我慢しろ!早くMPポーションを飲め!そして待機だ!」
王とウォールが同時に叫ぶ。
メアは魔法による範囲殲滅の切り札、ウォールは対ボス戦の切り札だった。
この2人だけは温存する作戦だった。
南門に群がるゴブリンに向けて、矢の雨を降らせるが、城門はどんどんボロボロになっていった。
そして、ついに南門に穴が開いた。
空いた穴からゴブリンがなだれ込んだ。
ゴブリンが城門を抜けまっすぐ進み、道なりに左に曲がると、そこは行き止まりだった。
壁の上には弓兵が構えていた。
「弓を放てえええい!」
南門内に侵入してきたゴブリンは、混乱状態に陥り、後退しようとした。だが、後ろから南門内に侵入してくるゴブリンとぶつかり、さらに混乱状態に陥った。
「よーし!罠にかかったぞ!数を減らせ!」
◇
その頃ゴブリンキング率いる精鋭部隊
ゴブリンキングは異変に気付いた。
「おかしい!城門内で進軍が詰まっている!」
「俺!見てくる」
「おれがみる!」
「俺だ!」
「おれがみる!」
2体のゴブリンが喧嘩を始めそうになったタイミングでゴブリンキングが指示を出す。
「お前ら2人で見てこい!部下も一緒にだ!」
「お前ら!」
「でばんだ!」
「うおおおおおおおおお!」
ゴブリンの精鋭300体による攻撃が始まった。




