0989
周介はラビット隊の部屋にいる時、発電をしているときなど不意に瞳の方に視線を向けていた。
発展してしまった話はともかくとして、旅行に連れていってやりたいという気持ちは嘘ではないのだ。普段迷惑をかけているのだからねぎらってやることも必要だと理解している。
だがあんな話をしてしまったせいだろうか、瞳の方を見てどこに行こうかと考えていると、旅行中にそういった行為に及ぶ妄想に至ってしまう。
そしてそんな妄想を頭に浮かべた瞬間にその妄想を振り払うのだが、そんな事を何度も繰り返していたせいか、いつもであれば見られていたとしても特に気にしない瞳が不審な表情を浮かべて周介の方を睨む。
「なに?さっきからどうしたわけ?」
「え?あ、いや……なんでも」
「ないわけないでしょ。さっきから挙動不審すぎ。なに?今度は何を悩んでるわけ?落ち込んでないんだからしょうもない事なんでしょうけど」
「しょうもなくないぞ!結構大事な……うん、大事なことというか……気になることというか」
周介が悩んでいるときに妙な態度に出るのはいつものことなのだが、こういう反応をするのは珍しいなと瞳は小首をかしげる。
いつものように机に突っ伏しているだけならばそこまで気にしないのだが、周介は先ほどから瞳の方を向いてはその視線を外している。何とも奇妙な動きだ。
「ひょっとしてなんかついてる?そういうことなら言ってよね」
自分の体に何かがついているのではないかと瞳は自分の体を見渡すが、残念ながらそういうことではない。周介が勝手に妄想してしまっているのがいけないだけなのだから。
「いや違う。瞳は特に問題はない。何も問題はないんだけど……」
「じゃあなに?あたしになんか言いたいことでもあるわけ?」
誰かの視線など気にしない瞳だったが、周介の視線だけはどうしても気にしてしまう。その心の内に秘めている感情が原因であるということは瞳も理解している。だがどうしても一歩踏み出すことができないのが現状なのだ。
周介も瞳に対して少なからず好意に近い感情は抱いている。だが、それを今だ自覚できていない。そんな状況でつい先日した話はあまりにも強烈すぎる。それが故に周介は迷うというか、口に出すことを憚っていた。
だがいつまでもこうしているわけにはいかない。周介は覚悟を決めて瞳の方を向く。
「いや……その……年末の話なんだけどよ」
「あぁ、もう今年も終わるもんね。あんたは実家に帰るんでしょ?」
「それはそうなんだけどさ……その……あれだ、旅行にでも行かないかなって思って」
旅行。普段いろんなところに行っているラビット隊からすると少しだけ、本当に少しだけ似合わない単語だった。
そんな単語を聞いたことで、先ほどまで呆れたように細めていた瞳の両目が大きく開かれる。
「りょ……こう?」
「ん……慰安ってわけじゃないけどさ……普段いろいろと世話になってるだろ?だから……お疲れ様的な。忘年会ってんじゃないけどさ」
「それってラビット隊で?」
「いや、他の奴らはそれぞれ実家に帰るだろ?瞳は実家に帰らないだろうからさ。それでどうかと思って」
「……二人で?」
「二人で」
周介の言葉を聞いて瞳は表情がすべて抜け落ちてしまう。開いた口が塞がらない、放心してしまい、数秒言葉を出すことができなくなってしまっていた。
そしてそんな様子を窺っていた知与は小さく、誰にも気づかれないようにガッツポーズする。
年末年始は玄徳や言音、猛の邪魔が入らないようにしなければならないと意気込んでいた。
「それでさ、旅行っていっても全然思いつかなくて……キャンプとか北海道とか京都とか、いろいろと考えたんだけど、どこがいいかなって」
「……あたし、まだ行くって……言ってないんだけど……」
「あー……悪い。お前なら行くって言ってくれるって勝手に思ってた。それもそうだった。年末旅行いかないか?慰安も含めて、お疲れさまってことでさ」
周介は瞳ならば誘えば来てくれると勝手に考えていたが、確かに瞳の言う通り、まだ行くなどと言ってもいない段階で悩むべきではなかったと改めて反省していた。
もっとも、瞳からすれば断るつもりなどさらさらないのだが。
「……キャンプはヤダ。寒いじゃん。旅行なら、どっか……ゆっくりしたい」
「じゃあどこに行く?この間京都がいいんじゃないかって思っていろいろと相談してたんだけど」
周介は自分が妙な妄想をしないようにとにかく調べたことを瞳に話し始める。先ほどまでは瞳の方が視線を向けられて困っていたが、今度は瞳が周介の方を見られなくなってしまっていた。
まさか二人きりで旅行に行くとは思ってもいなかったのだ。最近仕事のことばかりで一緒になれていなかった。
せっかくだからこれを機に意識させてやろうなどと考えたのも一瞬だ。
一緒に旅行に行くのであれば部屋も一緒だろうか。同じ部屋で一緒に寝るのだろうか。そんなことを考えて今度は瞳の方が妙な妄想に浸ってしまっている。
そんな様子を感知して知与のテンションが非常に上がっていたのは仕方がない話だろう




