0987
「他にも案が欲しいところだな……冬のキャンプは第一案として……他になんか思いつかねえの?」
「なんかって言われてもなぁ……んー……」
冬というのは寒くできることが限られてしまうものだ。そんな中で旅行でどこに行くと聞かれてパッと思いつくような想像力を周介たちは持ち合わせていなかった。
周介と手越が悩んでいると、そんな二人を見つけた真鍋が二人の下にやってくる。
「なんだ二人とも、また何か面白い事でも考えているのか?」
「おぉ真鍋。ちょうどいい意見をくれ。冬休みに旅行にでも行こうと思ってるんだけどさ、なんかいい案ないか?」
「今のところ冬のキャンプが一案として出てるんだ。ただ女受けするかどうか微妙なんだよ。お前そのあたり詳しいんじゃね?」
「女受けか……なるほど家族旅行といったところか?そうなると……旅行と言っていいかはわからないが遊園地なんかはどうなんだ?無難だぞ?」
「この間行ったんだよ。他で」
「んん……」
事情は分からないがとりあえず議論に参加してくれる真鍋は近くの椅子を持ってくると周介たちと同じように暖房の近くに陣取る。
「冬休みに行きたいということであれば……温泉街などがいいと思うぞ?雪が降っているがそれもまた風情がある。個人的にはお勧めだ」
「やっぱそうなるか……温泉なぁ……他には?」
「他に?んんんん……いっそのこと海外はどうだ?北半球は冬だが南半球は夏だ。ハワイなどに行くのは?金銭的な問題はあるが」
「あー……そのあたりは何とかなるかな……ただパスポートがなぁ」
「あぁそうか。パスポートはとるまで時間がかかる。さすがに簡単にはいかんか……なら、北海道や冬の海の幸を楽しめる場所はどうだ?冬の北海道は死ぬほど寒いが、それでも行く価値はあるぞ?」
やはりいくら真鍋でもそのあたりは周介たちと考えることは同じようで、周介たちが思いつくような意見しか出てこない。
唯一ハワイなどの海外の意見が出るあたりさすがは政治家の息子というべきだろうか。と言っても周介では海外に行けるような準備はできていない。簡単にはいかないのが何とももどかしかった。
「他にも冬ならではの街並みを見せてくれるところは多いぞ?例えば石川県の風景や街並み、四国には数々の寺、日光なんかもいいな。あのあたりは見るべきところも多い。京都も捨てがたい。冬の京都の寺というのはなかなかいいぞ?」
「……あぁ、京都か……そういえば京都ってあんまりいったことなかったな」
真鍋が次々上げる旅行先の中で周介の食指に引っかかるものがある。周介は愛知県の出身で割と京都は近いところにあったのだがあまり行ったことはなかった。
「旅行っていうと結構京都って有名だけど、やっぱ良いもんなのか?」
「一番いいのは紅葉の時期だがな。十月から十一月にかけては京都の紅葉はピークになる。そのあたりの風景はまさに絶景だ。ただ、冬には冬の趣がある。雪などが降っていれば最高なのだろうが、そこまでうまくはいかんだろう。だがそれでもいいものだぞ?」
そうなのかと周介と手越はつい感心してしまう。真鍋がここまで真面目に、というか旅行に関して饒舌になるとは思っていなかったのだ。
「真鍋って結構旅行好きなのか?」
「旅行、というか見たことがない景色を見るのが好きでな。いろいろなところに連れていってくれる両親には感謝している。普段俺たちが見ることができない場所に行って、見ることのできない景色を見るというのはいろいろと見識を深めてくれるぞ?」
羨ましいと同時に周介たちからすると若干複雑な気分でもある。何せ周介たちも普段の日常生活では絶対に見ることができないような景色を何度か見ている。
非日常の中でしか見られない景色というのは貴重なのだが、そういうものを見たいとは思えないためにどうにも素直に同意できなかった。
だが綺麗な景色というのは見て損はないと考えていた。
「京都っていうと、金閣寺銀閣寺とか清水寺が有名なイメージあるけど、真鍋的にはお勧めは?」
「何を見たいのかにもよるが……まぁ伏見稲荷大社は外せないな。それと下鴨神社も捨てがたい。貴船神社なんかもお勧めだ。それと時間があるなら龍安寺にも行ってみてほしい。あそこの石庭は見事だ。紅葉の時期であれば渡月橋なんかもいいんだが、冬だと少しわびしいかもしれないな」
「どんどん出てくるじゃん。しかも寺とか神社ばっかり……お前結構渋い趣味してるな」
「他にもあるぞ?渓流下り、と言ってもラフティングのように激しいものではなく、船の上から景色を見るようなものもある。ゆったりした時間を過ごしたいならお勧めだが……冬だと寒いかもな。正直に言えば京都はいくらあっても時間が足りん。少なくとも日帰りや一泊程度で行く場所ではない。最低二泊三日だな。エリア別に分けて移動しないとあちらこちらへ何度も往復することになる」
「お前結構そういうところ詳しいんだな。意外だわ」
「普段あんな話ばっかりしてるのにな。想像できんかった」
「ふふん。俺だって常に頭の中を桃色に染めているわけではない。とはいえあちらの女性陣の和服姿などはそそるぞ?コスプレというのとはまた別格の、何というのかな……風格のようなものを感じる」
和服をコスプレと同列に扱っていいのかはともかく、和服などは確かに周介も興味はあった。体のラインがはっきりと出る服装は周介の好みでもある。
「でもそんなにいろいろあるんだとさすがに迷いそうだな。っていうかどれを見ればいいのかって感じ」
「ふむ。であれば目的をいくつか考えればいい。神社は特定の目的があるものだ。勉学、健康、縁結び、厄除けなどなど目的に応じた神が祭られている。それを基準に巡るというのも悪くないだろう。食事処はそういった場所に付随して存在しているからどうとでもなる」
「確かに。どっかしらに飯屋はありそうだ。向こうだと何が有名なんだ?お好み焼き?」
「あぁ、あとたこ焼きとか?」
手越の考えに周介は同調するが、真鍋は小さく首を横に振っていた。
「それは大阪のあたりだな。粉物は京都の領分ではない。京都料理で多いのはやはり和食。蕎麦なども有名だ。菓子などであれば八つ橋などはお前たちもよく知るところだろう?」
「あー……あのニッキ?だかなんだかの匂いがする奴な。あれ?シナモンだっけ?」
「どっちにしろ普通の餡子の方が俺好きだわ」
「まぁとにかく、そういうものが大抵近くにはある。その場でレビューなどを見るのもいいが、行く場所に応じていきたい店をあらかじめチェックしておけば混み具合などを確認して参拝してから食事をするか、食事してから参拝をするかを選べるだろう。あらかじめ情報を持っていれば迷うことも少なくて済むぞ」
真鍋の至極真っ当な意見に周介と手越は目を丸くしてしまっていた。まさかここまで的確なアドバイスをもらうとは思っていなかったのである。
というか真鍋がここまでまともなことを話すとは思ってもいなかったのだ。
「なんだよ真鍋、お前今日どうした?熱でもあるのか?」
「お前が真面目なこと言ってると調子狂うんだけど……やめろよお前なんか変なもんでも食べたのかよ」
「たまに真面目に話をしてみればこれだ!ともかく、旅行に行くというのであれば下調べが第一だ。それに、泊まる場所などもな。ただのビジネスホテルでも問題ないかもしれないが、良いところに泊まるとやはり気分もよくなるものだ。予算によっては検討しろ」
せっかく真鍋が真面目に話してくれているのだからここはたまにはまじめになるべきだろうと周介と手越は少し戸惑いながらも真面目な方向に話をすることにしていた。
「完全に俺のイメージだけど、京都って旅館とかの方が有名な気がするけど、そういうのはあるのか?」
「ないわけじゃないが……少なくとも敷居は高いぞ?それなら普通のホテルでもいいところはたくさんある。ビジネスホテルなどではなく普通の宿泊のホテルだ。当たり前だが、良いところになればその分金も高くなる。そのあたりはさっきも言ったように予算と相談するべきだな」
「泊まりじゃないとやっぱりきついか?」
「きついなんてもんじゃない。例えばだぞ?仮に朝一の新幹線に乗って京都に向かったとしよう。現地に到着するのは八時前後だ。そこから行動開始して、帰る時間は終電としても二十一時半。十三時間程度しかいられないうえに、店が開くのも案外遅かったりする。閉まるのもまた然りだ。そうなると無駄な時間が多すぎる。まず泊まれ。一日はフリーの日を作れ。そういう意味で二泊三日だ」
京都に対する旅行に関しては真鍋はなかなか熱意を持っているらしく、二泊三日は絶対の条件であるらしい。
ここまでプッシュしてくるのだからそれだけ楽しいのだろうと思うのだが、今のところ周介はその楽しさを見いだせていない。
「それにだ、先にお前たちが言っていたお好み焼きやたこ焼きなどは大阪にある。京都からであれば三十分程度で到着できるだろう。場合によってはそっちを見に行く手もある。そういう意味でも宿泊して損はないと思うぞ?」
「なるほど。そっちの方に足を延ばしてもいいわけか。食い倒れツアーみたいな感じにできるわけだな?」
「京都よりは比較的手を出しやすいグルメもあるだろう。そういう意味でも行ってみて損はないと思うぞ?少しは参考になったか?」
「あぁ、思ったより真鍋が旅行好きでびっくりした」
「ふふん。これでもいろいろなところに行っているからな。そのうち世界一周旅行などもしてみたいものだ」
それもうやったことあるんだよなぁと周介は心の中で考えるも、あれは旅行というよりただ飛んで回っただけだったということを思い出す。
世界一周などと言ったが、実際は漫画やゲームを楽しんでいただけの旅行、というか移動だった。
本格的な旅行を実際に体験してみたいものだと周介はBGM代わりにしていたテレビの方に目を向ける。
冬ということもあって鍋料理などを特集している。周介としても久しぶりに鍋を食べたいななどと考えている中、少し思うところもあった。
「そういや真鍋、お前は旅行って家族で行ったりするのか?」
「まぁな。基本的には家族だ。一人での旅行というのも乙なものかもしれないが、やはり誰かと一緒に行ったほうが楽しい。それに俺自身まだ金を持っていないからな。そのあたりは親に頼らなければならない」
「やっぱり先立つものは必要か……貯金しなきゃダメかな……?」
周介は未だに借金がある身だ。そういう意味では簡単に金などは使えない。とはいえ以前よりも余裕は出てきている。何せ外での活動が増えてきているため給料としても十分な金はもらえてきているのだ。
たまにはそういうものを使ってもばちは当たらないだろう。そんなことを考えていると、手越が携帯で何かを探し当てる。




