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「……ん……ぁ……」
周介はゆっくりと目を覚ましていた。
僅かに響くように残る頭痛を感じながら目を開けると、そこは白い天井と小さく仕切られたカーテン。そして周介を心配そうにのぞき込んでいる瞳と目があった。
「よかった、起きた。周介、大丈夫?」
「……ぁぁ……頭痛い……」
「ちょっと待ってて、先生呼んでくるから」
瞳は握っていた周介の手を離すとその場から小走りで離れながら少し遠くにいるであろう先生とやらを呼びに行っていた。
それを見送ったところで、周介はここが医務室か何かで、瞳が呼びに行ったのが医者のことを指していることを何となく理解する。
自分はどうしてここにいるのか、周介は思い出そうとしてゆっくりと今日の一日を振り返っていた。
鬼怒川との訓練の後でよく行っている記憶のリプレイ。この作業にも慣れたものだと、周介は朝起きてからのことを一つ一つ思い出していく。
そしてBB隊と戦闘していたということを思い出したところで瞳が先生、初老の医者を連れて戻ってきた。
「先生、お願いします」
「はいはい。えー、百枝周介君。私の言葉が聞こえるかな?」
「……はい、聞こえます」
「目をしっかり開けて。ん……右目はさておき視覚も正常。今日、何があったか覚えているかな?」
「選抜試験で、BB隊と戦闘していました。ただどうなったのかが思い出せません」
「ん、戦闘後のよくある軽度の記憶障害だね。まぁ大丈夫だろう。自覚症状は何かあるかな?」
軽度の記憶障害と言われて本当に大丈夫なのだろうかと脳裏に不安がよぎるが、少なくとも問題はない。あとで映像記録などを見直せばいいだけの話だ。
現段階でもっている自覚症状としては頭が痛い程度である。
「若干ですけど頭が痛いです」
「それも戦闘後にはよくあるね。毛細血管が切れてる可能性があるから、今日はもうこれ以上激しい運動はしないように。あとでエイド隊の人に治してもらいなさい。これだけしっかり喋ることができれば問題はないよ。お大事に」
そう言って初老の医者は足早にその場から離れていく。能力などを使う素振りがなかったことから一般人なのだろうかと考えながら周介は上半身を起こす。自分がベッドに横になっていたことも、この時初めて理解していた。そしていつの間にか自分が装備を脱いでいることにも気づく。今着ているのはTシャツに短パンという随分とラフな服装だった。こんな服に着替えた覚えはないがどうしたのだろうかと周介は痛む頭を押さえながらゆっくりと周りを見渡す。
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。あとでエイド隊の人に治療を……っていうか瞳、俺戦闘始まって少ししてからのこと覚えてないんだけど、何がどうなった?確か……そうだ、猛が雨戸さんに吹っ飛ばされたところまでは覚えてる」
周介の記憶の最後の部分は、雨戸を足止めしていた猛が雨戸に吹き飛ばされていたところである。そこから先のことがどうにも思い出せなかった。
「私も似たようなものよ。気づいたらベッドの上だった。たぶん瞬殺されたんでしょうね」
「マジか……途中まで雨戸さんが手を抜いてたとは思えないし……背中にいたおひめ先輩の能力か?どっちにしろ瞬殺かぁ……そりゃそうだよなぁ……」
小太刀部隊である周介たちからすれば大太刀部隊の中でもトップクラスの実力を持つBB隊を相手にすればそうなることは容易に想像できる話だ。
すぐに本気を出さなかったのは周介たちを殺してしまわないように能力の調整の意味も含めての手加減だったということかもしれない。
どちらにせよ、周介達ラビット隊はBB隊にとって戦う相手にすらならなかったということでもある。
それが少し情けなく、同時にそれが自分たちの立ち位置なのだということを再認識してしまう。
どう足掻いても小太刀は小太刀。決して大太刀にはかなわないのだということを突き付けられているようだった。
「っていうか他のみんなは?」
「玄徳はもう起きて片付けの手伝い。知与と言音も一緒。猛はかなり手ひどくやられたみたいで今エイド隊のところで治療中」
「あー……猛はボッコボコにやられてたのか……あんだけ殴り合いさせてたもんなぁ」
いくら猛が耐久力に秀でた能力を持っていたとしても、ほとんどの時間を大門や雨戸との殴り合いに費やしたのだ。
そして強力になった雨戸の攻撃を一身に受け止め、なおかつ叩き伏せられたのだろう。周介以上に負傷していても不思議はない。
そこまで考えて周介は自分の体があまり傷ついていないことに気付く。いつも通りアームを使ったことによる痛みはあるものの、怪我らしい怪我はしていなかった。
「随分と優しく倒されたんだな。鬼怒川先輩とやる時と比べるとずっと傷が少ない」
「どういう風に倒されたのかもわからないけどね……本当に大丈夫なの?」
「痛みは少ないから大丈夫だろ。あとでエイド隊に見てもらうとして……試験の結果は?」
「まだ聞いてない。というかそれどころじゃない。私達も含め、ほとんどの部隊が治療中だから」
「……全員がボロボロってことか」
周介たちだけではなく他の部隊も自分たちの苦手な状況と苦手な相手をぶつけられたのだから仕方のない話かもわからない。
先程の医者が妙に急いでいたのはそのせいかと周介は納得していた。




