0979
「各部隊なかなか奮闘しているようだな。戦線を離脱しそうな部隊は?」
各部隊の戦闘状況を確認している上層部を含めた審査側の人間はそれぞれの戦闘区域で行われている戦闘を見て感心し、同時に同情していた。
その部隊も自分たちが苦手とする敵が相手なのだから無理もない。それを一時間も戦えと言われれば心が折れそうになってしまうのも仕方がないことだとわかっていたからこそ、戦線離脱しそうな部隊を探していた。
「現時点で戦闘不能になった部隊は三部隊。戦闘不能になりそうなのは……ビルド隊とアカシャ隊です」
「ビルド隊はまだしも……アカシャ隊が……?」
最も戦闘不能とは遠い部隊だと思っていただけに、上層部の人間はアカシャ隊の戦っている区域を確認していた。
そこは遮蔽物がとにかく多く、ビル、いや、直立する立体がいくつも存在する区域だった。
その遮蔽物に入ることはできないただの立方体であるうえに、その密度がかなり多い。十メートル先も見渡せないほどの密度で、とにかく視界が悪い場所だった。
立体の高さはおよそ十メートルから二十メートル程度。太さも高さもばらばらで、高い密度に加えて不規則な遮蔽物のせいでまともに辺りを見渡すこともできなかった。
唯一アカシャ隊でこの状況を打開できそうな変換を行える人間は既に気絶している。いや、最初にその人間を狙い撃ったというのが正しい。
そう、アカシャ隊の敵として戦闘をしているのはミーティア隊だった。
ミーティア隊は遠く離れた場所からとにかくアカシャ隊目掛けて狙撃していた。とはいえその狙撃は一直線に行われるものではない。知与がそうしていたように、上空へ弾丸を打ち出し、大きく弧を描いて直上から隕石の如くアカシャ隊を狙っているのだ。
元々長距離の射程、そして遮蔽物があろうと問題がない、射撃後の軌道修正が行える能力を有しているミーティア隊にとって、アカシャ隊は一方的に攻撃できる相手だった。
アカシャ隊の攻撃手段はいくつかある。その中でも最も威力を有しているのが火炎の攻撃だ。当然、この攻撃を受けてしまえば防御手段のないミーティア隊は間違いなく戦闘不能に陥るだろう。
だがこれほどの広範囲、それに加えてこの遮蔽物の多さ。高威力の炎をまき散らし続ければ、自分たちも熱でやられてしまう。
他にも風、水、雷と、いくつもの属性系の攻撃能力を有しているアカシャ隊だが、防御面に関してはほとんどないに等しい。超火力を有していると同時に防御能力に欠点を持っているのがアカシャ隊の特徴だ。
さらに言えば、その威力が高すぎるのも問題である。
自らの能力で味方をも攻撃してしまう。これがゲームなどであればフレンドリーファイアなどはなくなるのかもしれないが、現実ではそう都合よくはいかないものだ。
強すぎる能力であるが故に、攻撃方法が限られてしまう。強すぎる能力であるが故に今まで大雑把な能力の使用でも活躍してこられたが、相手の位置もわからず、味方を巻き込まないようにしなければいけない。だというのに相手は正確にこちらを一方的に攻撃できる。
苦手な状況、苦手な相手にぶつけられるということは誰もが言われていたことではあるが、同じ射撃系、同じ長射程の能力者部隊でもこうも違いが出るとはアカシャ隊の人間も予想していなかった。
これで場所が平地であったのであれば、逆にアカシャ隊が有利であっただろう。見える限り広範囲全てに攻撃を当てるだけでよかったのだから。
だが条件も相手も苦手な条件でどれだけ立ち回れるか。この試験の本質が問われている中で、アカシャ隊の苦戦は審査をしている人間の中で意外でもあり、また必然と思われてもいた。
攻撃されっぱなしの状態でもうかなり時間が経っている。集中が切れるか、あるいは自棄になるか。どちらを取ったとしてもアカシャ隊の敗北は濃厚だった。
「アカシャ隊は何か対応はしなかったのかね?」
「いえ、最初こそ、高火力で周辺の障害物を破壊しようと試みていましたが、その被害が自分たちに及ぶことを考慮し、中断しています」
「破壊そのものはできなかったと?」
「あれらは製作班の特注品だそうで……さんざん鬼怒川に壊されたから障害物も特注品を作り始めたようですよ?」
「……まぁ、簡単に壊されない障害物もあっていいとは思うが……」
鬼怒川に壊されたというのが上層部は引っかかっていた。実際その現場を見たわけでも、映像を確認したわけでもない。
その原因が周介との訓練にあるなどと誰が思うだろうか。実際に訓練を良く行っている大太刀部隊などでなければその実情は知らないだろう。
上層部の何人かは周介の訓練の映像まで見ているため知っているが、知らないものがほとんどだった。
「それにしても……さすがはミーティア隊。攻撃に容赦がないな」
「えぇ、残弾制限がないこともありますが、実に多彩な攻撃です。アカシャ隊には同情しますよ」
ミーティア隊が行う攻撃は単純な弾頭だけではない。以前それをやったことがあるように手榴弾などを弾丸とし、至近距離で爆発させるような遠距離の狙撃爆破なども行ってくるのだ。
それに加えて、非殺傷武器まで多種多様に使ってくる。スタングレネード、フラッシュバン、催涙弾、ペイント弾、スモークグレネード。
もちろん殺傷用の武器も使ってくる。弾の数もその種類も、底がない。当然だ、福島の能力によって複製された弾丸を放ち続けているのだから。
集中的に爆撃されているような状況で、むしろよく堪えている方だろう。ミーティア隊のその名の通り隕石の如く降り注ぐ攻撃に、アカシャ隊の全員が戦闘不能になるまで戦闘開始からおよそ三十九分かかることになる。
「他の部隊はどうなっている?ビルド隊が戦闘不能になりかけていると聞いたが、他の小太刀部隊は?」
上層部、及び審査を行っている面々の意識が小太刀部隊に向く。その中で特に奮闘しているのがラビット隊だった。
「アイヴィー隊は時間の問題かと。すでに二人が落ちています。ラビット隊は、BB隊と未だ交戦中。戦闘不能人数はありません」
「なるほど、なかなかどうしてやはり逃げる、生き残る能力は高いのか……だが、BB隊の動きがよくないな。まだ本気で戦っていないと見える」
「それでも既にかなりギリギリといった感じですな。人数差があってもやはりBB隊相手では手加減されても勝てないと……本気を出したらすぐに終わりそうといったところか」
上層部の意見はおよそ統一されていた。BB隊との戦闘が始まってもうすぐ三十分が経とうとしている中、未だBB隊とラビット隊は戦闘を続けられている。
「ビルド隊、全員戦闘不能。これで脱落した部隊は四部隊になりました」
「あと残っているのは……アカシャ、トータス、ビーハイブ、アイヴィー、ラビットか……次に落ちそうなのは?」
「アイヴィー隊でしょう。その次にラビット、アカシャ隊などが上がるかと」
「ビーハイブとトータスはどうだ?」
「ビーハイブ隊は一人脱落していますが持ちこたえています。トータス隊は未だ脱落者ゼロ。脱落者のいない部隊はトータス隊とラビット隊だけです」
相手が本気を出していない状態であるため、肩を並べているという表現が適切かどうかはわからないが、現時点で誰も欠けていないのはラビット隊トータス隊だけ。この状況を見て多くの人間がラビット隊への評価をさらに改めることになる。
トータス隊はもとより高い耐久力を有した部隊であるためこのような状況になっても不思議はないが、同じくラビット隊も全員生存しているというのが気がかりだった。
一昨日行われた集団戦闘訓練においても、ラビット隊は全員生存している。今回もまだ終わっていないしBB隊も本気を出していないとはいえ、三十分大太刀部隊の一つの部隊と戦闘し続けていられる集中力、そして戦闘能力は小太刀部隊の中ではかなり稀有な存在だといえる。
「アイヴィー隊が落ちました。これで残りは四つの部隊です」
残りの部隊は大太刀部隊が三つ。小太刀部隊が一つとなっている。トータス隊は初日は高い評価を得たが二日目は真ん中よりやや下の評価だ。ビーハイブ隊は初日の評価がやや低く二日目に高い評価を得た。アカシャ隊は初日こそトータス隊と争ったのだが二日目の評価がやや低い。ラビット隊は初日二日目共に高めの評価こそ得ているが、どちらもトップには立てていない。
戦闘、救助、そして苦手分野への対応。この三つの分野での試験ですべて高い評価を得ることは普通は不可能だ。
人間得手不得手があるのだからそれが仕方がないということはわかる。だからこそラビット隊が三つの試験全てで比較的高い評価を得ていることが上層部としては気がかりだった。
だがそれもここまでだろうと、上層部の人間はわかっていた。
BB隊に動きがあったからである。
先ほどまで雨戸と均衡を保っていた猛が、一瞬のうちに殴り飛ばされてしまう。そこからはあっという間だった。前線を切り崩された後衛に雨戸が襲い掛かる。人形たちが立ちふさがり、射撃などをしたものの、雨戸にその程度の攻撃が効くはずもなかった。
玄徳がとっさに間に入り、蹴りかかるも、雨戸はそれを難なく回避して逆にその体を掴み地面に叩きつける。
決して玄徳を死なせないように加減をしているのがわかる程度にはゆっくりとした叩きつけだったが、しっかりとその後に首を絞めて気絶させている。
後衛が崩壊しそうになっているのだが、周介は大門にかかりきりになってしまっているために反応することができていない。
とっさに後衛に残していたγを起動させるも、先ほどまでも捉えられなかった雨戸の動きについていけるはずもなかった。
「ラビット隊もそろそろ終わりだろう。BB隊が本気を出してきた」
吹き飛ばされていた猛が戻ってくるが、再び雨戸に一方的にたたき伏せられる。先ほどまで拮抗していた戦力が一気に雨戸の方に傾いていた。
そして地面に叩きつけられると、周辺のアスファルトに亀裂が入るほど強くその体に何度も拳を叩きつける。猛が動かなくなるまで。
猛がやられるのと同時にγの銃砲が襲い掛かるが、雨戸はそれを尾で振り払い受け流していた。
BB隊の本気が発揮されているという事実はその映像に残っていた。前衛である猛は叩き伏せられ、後衛に残っていた瞳も知与も、即座に捕まえられ、しっかりと首を絞めて気絶させられる。
殺さずに無力化されているという意味ではかなり加減はされているのだろうが先ほどまでとはレベルの違う戦力へと変貌しているのだ。
雨戸の視線は大門と戦っている周介の方に向けられる。
既に後衛は崩壊。異空間に引きこもっている言音を除き、周介以外のメンバーはすべて倒されたことになる。
ここまでだろうと、上層部の興味はラビット隊から他の部隊に移っていた。大門に加え雨戸が本気を出してしまえばもうラビット隊に勝機はない。あと少しで全員がやられたという報告を聞くことになるだろうと、トータス隊とビーハイブ隊、そしてアカシャ隊の評価をする方向に意識が動いていた。
「トータス隊とビーハイブ隊は時間制限いっぱいまで戦闘しそうですね。特にトータス隊はさすがというべきでしょうか」
「ビーハイブ隊二人目が落ちました。トータス隊も一人落ちています。このペースなら確かに二部隊とも最後まで残りそうですね」
既にこの二つの部隊の一騎打ちの形になりそうな最終試験に、上層部の人間と評価をしているメンバーの意識はその二つの部隊に集中している。
そして戦闘開始から四十分となる寸前、三十九分時点でそれが告げられた。
「アカシャ隊、全滅しました。残りは三部隊です」
「うむ、やはりこの二つの部隊が……」
あとはトータス隊とビーハイブ隊だけだと考えていた上層部の人間だったが、違和感に気付く。
「ん……?三部隊?ラビット隊はどうした?」
すでにBB隊が本気の状態になってから十分程度が経過している。だがラビット隊が全滅したという報告は届いていない。
「異空間の中に隠れている隊員がいるから全滅扱いにはならないのでは?少し卑怯な気もしますが」
「あぁ、そういえばそういう能力を持っているものがいましたね。であれば全滅扱いにはならないのか……さすがにそれを生存と認めるのもどうかと思いますが」
「……いいえ、まだラビット隊の隊長が健在です」
「なに?」
残り三部隊。既に決着がついたと思われていた状況で今だラビット隊の隊長が健在という事実にその場の人間の視線がラビット隊の戦闘が映し出されている画面へと向かう。
映像には、一見すると何も映し出されていないように見えた。だが、時折画面に何かが高速で通り過ぎる。
「もっとロングの映像を頼む」
「映像切り替えます」
もっと遠くから、戦場全体を確認できるような画面に切り替わった時、その場にいた全員が息をのむ。
平地での戦闘において不利だと思われていた周介が、大門と雨戸を相手に攻撃を回避し続けていたのである。
BB隊の機動力は既に先ほどまでのそれとは全く異なっている。どうやったらあれを回避できるのかと、周介の普段の訓練の様子を知らない人間は目を丸くしてしまい、開いた口が塞がらない様子だった。
だが周介が鬼怒川とよく訓練していることを知っている人間からすれば、あのくらいは動けて当然だろうという感想を持っていた。
高速かつ高威力の攻撃は鬼怒川との訓練で慣れっこだ。足場がないことが非常につらいところだろうが、近くには動かせる足場であるラビットβとγを控えさせている。まだアームに仕込んである推進剤も尽きていないためか、比較的余裕を持って攻撃を避けることができている節さえもあった。
ただそれはあくまで見ている側からの感想だ。当の本人は鬼怒川二人を同時に相手しているような錯覚さえ覚えるほどに緊迫している。
平地であることを利用してローラーなども総動員して大門と雨戸の攻撃を避け続けている周介のその表情は鬼気迫るものがある。
当然といえば当然だ。何せ一撃でもまともに当たれば死ぬのだ。猛が真正面から倒された時点で、雨戸の変貌能力の性能が一気に上がったのは周介も理解できていた。単純に雨戸が加減をしていたという可能性もあるが、周介はその可能性を否定する。
雨戸は確かに甘い部分もあるが、決してこういう状況で手加減をするような人間ではないとわかっていたからである。
周介が考えられる戦況が大きく傾いた原因は、猛の言っていた笹江の能力だった。
そしてその推察は当たっている。周介からすれば詳細こそ不明ではあるものの、雨戸の背負う笹江の能力がこの状況を作り出したのだ。
ただ、それでも周介の回避能力は決して衰えていない。むしろ自らの命を脅かす存在が強烈に自己主張するせいで回避のための脅威への察知は常に周介に警鐘を鳴らし続けていた。
高い集中力を常に発揮し続ける周介だったが、周介の集中力が切れるよりも早く、周介の装備が限界を迎えていた。
そう、アームに備えていた推進剤が底をついたのである。
この足場の少ない空間において、アームの推進剤は周介の生命線といってもいい存在だった。
空中での回避に加え急激な方向転換、攻撃に対する回避用の道具としても使っていた推進剤が無くなればどうなるか、火を見るよりも明らかだった。
空中での回避能力を失った周介は、ローラーを軸にした高速機動を行おうとするが、強化のかかっている人間相手にそれでは逃げられないことは周介自身よくわかっている。
攻撃を回避するためにはどうしてもアームに頼るほかなく、そのアームの回避も、水平方向では避けきることもできず空中に活路を見出すほかなかった。
一対一ならともかく、二対一の状態では空中も安全というわけではない。先回りするような形で追い詰められた周介は、空中にいる大門の体を足場に回避しようとするが、その先すら雨戸に先回りされ、あっという間にピンボールのように何度も攻撃され続ける。
アームを器用に使って防御しているが、それにも限界がある。何せ周介の体自体には何の強化もかかっていないのだ。
強烈な攻撃の繰り返しに、周介はやがて意識を喪失していく。
だが意識を喪失しても約数分間、周介は動き続けた。危険を察知し、回避し続けた。
やがて、既に意識がなくなっていると気付いた大門と雨戸が攻撃をやめた瞬間、崩れ落ちるように周介はその場に倒れ、動かなくなっていた。
そして、あらかじめ決めていたように、言音が異空間から腕だけ出して白旗を挙げている。
戦闘を開始して四十七分。周介達ラビット隊は全員戦闘不能となっていた。




