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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十八話「変わるもの、変わらないもの」

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 その煙の正体は催涙ガスだ。近距離で放たれる大量の催涙ガスは周介と大門の顔面を包んでいく。


 周介はとっさにつけていたヘルメットの遮蔽をつけるが、それでも僅かに目に付着してしまっていた。何も遮蔽のない大門は思い切りその催涙ガスを浴びてしまう。


 強化能力者の弱点は、単純に空中に打ち上げられてしまうとほとんど身動きができなくなってしまうことに加えてもう一つ。それはこういった人間の代謝に影響を及ぼす兵器に弱いというところだ。


 変貌型の人間であれば、ガスなどを能力で作り出した肉体で遮蔽できるのだが、生身の彼らはそれができない。


 そして何より、肌の硬度を上昇させられても、筋力を強化できても、骨を頑丈にできても、視力を良くできても、人間の代謝に訴えかける催涙ガスは防げない。強化の能力はあくまで強化だ。感覚を鈍らせたり代謝を一時的に切るようなことはできない。


「うわ!この!」


 周介はとっさに攻撃しようとする大門から勢い良く離れる。周介も若干催涙ガスを受けてしまい目から涙が、鼻から鼻水が止まらなくなってしまっている。視界は悪く、まともに周りを見ることもできなくなってしまっている。


 もちろんそれは大門も同じだ。いや、周介以上に症状は悪い。無理もない話だ。何せ周介と違い遮蔽もなく、周介の動きを確認するために視力や反射神経を上げていたのだから。


 もしその両腕が無事だったのなら、即座に腕を振り煙が出るよりも早く催涙手榴弾を弾き飛ばしたのだろうが、周介に両腕両足を掴まれてしまっている状態ではそれもできなかった。ほんの少し全力で力を込めればそれもできたのだろう。だがその僅かな時間で、大門は真正面から催涙ガスを受けてしまったのだ。


 催涙ガスで目と鼻が役に立たない状態だろうと、周介は大門の気配を感じ取っていた。いや、大門から放たれる脅威を感じ取っていた。


 目が見えない状態での訓練を重ねた周介にとって、大門ほどの脅威は目を閉じていても感じ取れる。目が見えていようと見えていなかろうと関係はない。


 脅威となる人物そのものも把握できるようになった周介ならば、大門の位置の把握程度は何の問題にもならなかった。


 ただ、あくまで位置の把握だけだ。どの場所にいるかが何となくわかるだけでそれ以上のことはわからない。


 だが、それで十分だった。


 周介は近くにいるβを動かすと、大門のいるであろう場所めがけて拳を叩き込む。


 細かな位置がわからないのであれば、その辺り一帯に攻撃を仕掛ければいいだけだ。雑な攻撃だが、この状況に置いて周介が取れる手段はこの程度しかない。


 ヘルメットを外し言音に水をもらうと周介はその目を洗う。目だけでも見えるようになればまだましになる。攻撃を続けているβは、間違いなく何かを攻撃している。だが攻撃の直撃する音がアスファルトを直接殴る音ではない。間違いなく大門めがけて攻撃できている。だがどういう状況なのかがまだわからない。


 単純な攻撃に加え、第二の能力『良否の恩恵』が発動しているのも感じていた。その腕から音を立てて蒸気が噴出しているのがその耳にも届いている。


 視力が回復しないことにはどうしようもない。何度も水で目を洗ってようやく回復してきた視力でβのいる方向を見ると、そこには確かに大門がいた。


 だが、そこに一方的に攻撃される大門はいなかった。大門は何度も振るわれるβの拳に対して的確に、丁寧に、一発ずつ確実にカウンターを当て続けていたのだ。


 叩きつける攻撃を知覚しているのか。いや、目はまだ見えていないはずだ。その証拠に大門は目を強く瞑っている。その目からは涙があふれているのだろう、顔を涙と鼻水が伝って落ちている。


 だがそれでも、どうしてβの攻撃の一発一発を正確に迎撃できるのか。


 目が塞がれても、鼻が塞がれても、β程の巨大な攻撃であればわかるというのか。


 周介は恐怖を通り越して感動さえ覚えていた。βの攻撃は単調とはいえ弱くはない。質量と速度頼りの一撃ではあるものの、並の人間であれば一撃で叩き潰せるだけの威力を持っている。


 大門はその攻撃に、一発たりとも当たっていないのだろう。僅かにでもタイミングを間違えればその腕も体も押し潰されるかもしれない攻撃に一歩も引いていない。その気になればその場から即座に跳躍し逃げることもできるだろうにそれをしない。


 一体どうやったらあんな風に戦えるのかと、周介は参ってしまっていた。


 どうすればあの人を倒せるのか。どうすれば大門を戦闘不能にできるのか。最早周介には分らなかった。


 だが、そんな事を考えて思い出す。そもそも、自分が大門に勝てるなどということを考えること自体がおこがましかったのだ。


 全てを試す。全てをぶつける。それでようやく大門から逃げきれるかどうかというところだというのに、勝だなどと何という自惚れだろうかと、周介は自らの頬を叩く。


 周介はβの拳を一旦止め、思い切り跳躍させる。


 拳だけの重量と速度で足りないのであれば、全重量をもって叩き潰す。


 攻撃が止まったのを不思議に思った大門だったが、即座に何かを感じたのだろう、真上へと意識を向けていた。


 そして腰を落とし、その全身に力を込めていく。


 先ほどまでの強化は手を抜いていたのだろうと確信できるほど強力な能力をかけているのがわかる。


 膨れ上がる筋肉が、固く強く握りしめられた拳がその力をありありと見せつける。


 βは落下するタイミングに合わせて、大門の体に直撃するのに合わせて思い切り足を叩きつける。


 同時に大門もまたβ目掛けて拳を叩きつけた。


 衝撃波と、大門の周辺のアスファルトが衝撃に耐えきれずに砕け、肉と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。あの人は本当に人間なのだろうかと、ほんのわずかな疑問を抱きながら、周介はその衝撃波に僅かに目を細めてしまっていた。


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