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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十八話「変わるもの、変わらないもの」

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「やぁ、だいぶ戦闘にも慣れて来たんじゃないかな?」


 βの上に着地した周介を見て大門は笑う。背面から生えている六本の腕を動かして器用に跳躍、そして着地する様は見事というほかない。


 初めて会った時と比べれば格段の変化だ。そんな変化に大門はつい笑みを止められなかった。


「冗談やめてください。まだまだ大太刀部隊を相手にしたらすぐにやられちゃいますよ」


 周介の言葉に嘘があるとは思わない。だがそれが事実だとも大門は思わなかった。現に一昨日の戦闘のビデオを見させてもらったが、それなり以上にうまく立ち回っていた。


 継続戦闘時間こそ少ないものの、一瞬の接触と、戦う相手を常に調整することで戦場において自陣営の損耗を少なくしながら敵陣営には多大な被害をもたらしていた。


 得られた情報のおかげで視野が広く保たれていたというのもあるのだろうが、それを加味しても小太刀部隊としては十分すぎる立ち回りだ。


「そんな謙遜しなくていいんだよ。君たちはずいぶんと頑張っているじゃないか」


「……謙遜してるつもりはないんですけどね……ところで、大門さんたちはいつ頃まで手加減してくれるんですか?」


「……手加減してるってことには気付くんだね」


「そりゃ気付きますよ。準備するのに待ってくれたり、わざわざ二手に分かれてくれたり」


 大門たちが最初から周介たちを敵とみなしていれば、二人同時に襲い掛かってそれで話は終わるところだった。


 特に雨戸の機動力をもってすれば、この閉鎖された空間など一瞬で往復できてしまうのだ。


 このフェンスで囲われた空間の中で戦おうという時点で周介たちに勝算はありはしない。ただ、大門たちが手心を加えてくれたからこそ今もなお動いていられるというだけだ。


「で、いつまで手加減してくれるんです?」


「んー……今が……ちょうど開始から十五分経ったところだから……あと四十五分しかないんだね。早いもんだなぁ」


 まだ四十五分もあるのかよと周介は内心舌打ちをする。あれだけの戦闘、確かに時間にすれば短いものなのかもしれないがまだ戦闘が始まって十五分しか経過していないことに周介は辟易してしまっていた。


 集中力がいつまでもつかもわからない。見ている時計が壊れているのではないかと思ってしまうほどだ。


「じゃあ、三十分まではこの状態を続けてあげるよ。そこからは、本気で戦うことにする」


「……本気っていうのは……具体的には?」


「姫ちゃんの能力も解禁しようか。たぶんそうするとすぐに決着がついちゃうんだけど……これもいい経験だと思うからさ」


 笹江の能力を解禁する。それがどういうことなのか周介は理解できていなかった。だが猛曰く、笹江の能力こそがこのBB隊の根幹に近く、笹江がいるかいないかで部隊の戦闘能力が桁違いに変化するという。


 残り十五分。それが自分たちの命の時間かと眉をひそめてしまう。


「残り十五分。その間に、僕らを戦闘不能にすれば君たちの勝利だ」


「……できなければ、俺たちの負け……と」


「いやいや、残り四十五分を生き残るっていう手段も残っているよ?とても難しいとは思うけどね」


 先程すぐ決着がついてしまうといっておきながらそんなことを言うあたり、この人も大太刀部隊なのだなと周介は項垂れてしまう。


 だが、同時にどこか、吹っ切れた。


「あぁもう……わかりましたよ。やりゃあいいんでしょうやりゃあ!」


 周介は六本の腕のうち四本に戦闘用追加装備の『おろし金』を装着する。


 今まで生身の人間に使ったことなどなかったが、この状況で大門を打倒することができるかもしれない唯一の武器でもあるのだ。


「お?やる気になったかな?それとも自棄になったかな?」


「どっちもですよ。こうなったらできる限り、全力で挑ませていただきます」


 周介は自らのすべての腕を操っていく。そして大門の前に立つ。身体能力強化を持っている人間の前に立つことがどれだけ危険なことか理解している。だが周介の目が放つ赤い光を見て、大門は笑う。


「そうだね。じゃあ、君の全力を見せてもらおうか」


 大門が右腕を振りかぶり、周介めがけて叩きつけようとした瞬間、周介のアームが大門の顔面を捉える。

 振りかぶって周介に放たれようとしていた拳は、一本のアームによって横から殴られ僅かに軌道を逸らせていた。


 それぞれ殴られた箇所に鋭いが浅い痛みが走る。


 皮膚が僅かに削られるかのような痛みだ。だが、その痛みも大門の皮膚を削るには至らない。身体能力強化によって大門の皮膚の硬度も増しているのだ。ただの刃物程度では大門を傷つけるには至らない。


 今一度、大門が拳を振るう。だが、まるでそれを予知していたかのように周介は先に動いた。動き始めの大門の腕をしたから殴りつけて軌道を逸らし、同時にその顔面に余ったアームの一本を叩きつける。


 それぞれの動作をした瞬間、先ほどまでのβと同じようにアームから蒸気が噴き出るが、そんなことは大門にとってもどうでもいい。


 周介は明らかに大門の動きを見切ったうえで反撃している。攻撃に関しては真正面から受け止めるのではなく、受け流す動きに近い。正反対の力ではなく、その力を横から逸らすための攻撃で直撃を避けている。


 一発。もう一発。何度殴り掛かっても同じだった。そのすべてに、周介は六本のアームを駆使して攻撃をいなし、反撃して見せた。


 周介がやっていることは至極単純だ。自らに襲い掛かる脅威。それを感じ取り、その脅威がやってくる場所を感じ取り、相手の体の位置を把握したうえでどの攻撃が来るかを予想し、拳の軌道を逸らすようにアームを叩きつける。そしてそのうえで反撃する。


 もちろん、大門ほどの強化能力者相手にはアームが壊れるほど強く叩きつけなければ軌道を逸らせることもできない。


 そして何より、今はまだ大門が全く本気になっていない。何故なら周介でもわかりやすいほどの大振りなのだ。もっとコンパクトに、もっと鋭く、もっとえげつない角度で打ち込むこともできるだろうに大門はそれをしない。


 そう、まだ大門は様子見をしているのだ。


 この様子見の段階でも、周介は全力で対応しなければならないというのに。


 まったく本当に身体能力強化という能力は厄介極まりないと、周介は歯噛みしていた。


「さぁ、もう少し、速度を上げるよ?」


 大門も、探り探りの状況で周介と戦っている。周介がいったいどこまで対応できるのかを調べているのだ。


 少しでも集中力を切らせば、自分は死ぬ。周介はその威圧感を知っている。その恐怖を知っている。その攻撃力を知っている。


 ただ一つ、違うことがあるとすれば、強いてあげれば大門の放つそれは、鬼怒川や葛城校長のそれに比べればなんと優しいものだろうかと、そう思う。


 壊さないように、壊れないように、細心の注意を払っているのが放たれる攻撃からも、突き刺さる脅威の感覚からもわかる。


 壊れても仕方がないと向けられる普段の鬼怒川や葛城校長のそれが、剥き出しの牙や刃であるのに対し、大門のそれは木刀などの訓練用のそれのようだ。


 とはいえ、徐々にその鋭さが増している。周介が対応する度にその鋭さは増している。

 木刀から、徐々に抜身の真剣に変化している。


「っ!」


 ついに攻撃を受け流しきれず、周介は余っていたアームで防御する。防御の瞬間、周介は支えが効かずに僅かに後方に運ばれるも、すぐにアームを駆使して態勢を整えていた。


 防御したアームから激しく蒸気が噴出する。これ以上の衝撃を受けると衝撃の変換の限界を迎えてしまうのではないかと、今まで試したこともなかった限界のことを考えて周介は戦慄していた。


「なるほど、なるほど……なかなかどうして、良い訓練をしているみたいだね。ここまで防がれるとは、予想していなかった。うん、凄いよ百枝君」


 大門は素直に感心しているようだった。


 いつの間にか目は見開かれ、まっすぐに周介を見ている。その皮膚には、ほんのわずかに、本当に僅かにだが傷がついている。とはいえ出血にも至らない、皮膚がほんの少し剥がれた程度のものだった。


 周介の攻撃力では、その程度のダメージしか与えられないといういい証拠である。


「いい反応だ。本当に強化がかかっていないとは思えない。下手な強化や変貌型よりもずっと反応がいい。いや、君を侮るつもりはなかったんだけど、僕はまだ君を過小評価していたみたいだね」


「……是非過小評価して甘やかしてください。俺戦闘とか無理なんで」


「戦闘が無理な人間は、今の攻撃を受けることもできないよ。小太刀部隊でありながら、あれだけの訓練と実戦をこなしているんだ。君の体は、それに慣れ始めている」


 そう言うと、大門は腰を落とした。先ほどまでも構えていなかったわけではない。だが、より深く、より顕著に、攻撃の態勢を取っていた。


「お願いだから、死なないでね?」


 避けろ。


 大門の言葉が周介の耳に届くと同時に全身から伝えられた脅威への警鐘に、周介は全力で反応した。


 全力の跳躍と、攻撃が当たると思われる場所への防御。やや後方に跳躍しその衝撃の緩和。それらすべてを総動員した結果、周介の体、いや、アームに僅かに大門の拳が掠る。


 空中で態勢を崩した周介だったが、それをすぐに噴出装置などを駆使して整えてやや後方に控えさせていたβの上に着地する。


 大門は、ほとんど特殊なことはしていない。少し離れたところにいる周介めがけて、踏み込んで殴った。ただそれだけだ。


 ただそれだけのはずなのに、周介の全身が即座に反応した。鬼怒川がぶつけてくる殺気とほぼ同等、いや、どこか違う感じはあるが、それでも似たものを周介は感じ取った。


 鬼怒川のそれが本能に任せた荒々しいものだとするならば、大門のそれはどちらかと言えば葛城校長のそれに近い。積み上げた実戦経験と積み重ねられた訓練に裏打ちされた洗練された鋭い殺気。


 避けたという実感が、周介の全身から汗を噴出させる。肺が酸素を求めて呼吸を荒くさせる。


 少し間違えばあれを体で受けていた。その実感が、周介に強い恐怖を思い出させていた。


「避けたね。本当に、本当にすごいね。今のを全くの無傷で避けられるのは、僕の記憶でも数えるくらいしかいないよ」


 恐るべき速度での踏み込みの結果、大門の体はβすらも通り過ぎた場所で停止していた。周介の方を見ていなかったが、その気配で、その声音で、その顔を見なくても周介にはわかる。


 大門の目つきが、変わった。


 どんなに穏やかでも、どんなに心優しくとも、大太刀部隊であることに変わりはない。


 周介はここから、BB部隊の名前の由来の本当の意味を理解することになる。


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