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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十八話「変わるもの、変わらないもの」

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 雨戸も、この状況下で射撃が飛んでくるとは思わなかったのだろう。とっさに防御をするも、回避動作の最中だったからか、わずかに体勢を崩してしまっていた。だがそれでも、雨戸は止まらない。βのすぐわきをすり抜けるように強引に突破していた。


 降り注ぐ土とアスファルトのせいでまき散らしていた炎は既に鎮火しつつある。その隙間を縫うように前進する。


 再度知与の射撃が雨戸を襲うが、雨戸は冷静にその一撃を防ぐ。防御とその衝撃によって一瞬止まった動きに背後からβが襲い掛かる。


 だがそれも雨戸は難なく回避して見せていた。


「全員足元に!撃つぞ!」


 周介は制御をβからγへと切り替え、γを動かして盾を構えた状態のままもう片方の手で銃砲を構え、撃つ。


 こちらに向かってきている雨戸に一直線に向かった砲弾は幸運にも雨戸の胴体部分に直撃するコースを取っていた。


 雨戸は瞬時に回避か迎撃か、どちらを取るべきか悩んでいた。だが、砲撃が来ると同時に、知与の放った対物ライフルも向ってきていることに気付いていた。


 そして背後には、また動き出すβがいる。拳を構え、叩きつけようとしていた。


 時間差の三連撃。避けるか、防御するか、迎撃するか。そのどれをとっても、どれかの攻撃は当たってしまう。そうなれば背中にいる二人がただでは済まないだろう。その判断の中で、雨戸は即座に判断し、前へ進んだ。


 腹部近くに当たる砲弾を全力で殴り軌道をずらし、頭部目掛けて襲い掛かる対物ライフルの弾丸は、あえて防御しなかった。だが、その強靭な牙で噛みつき止めて見せた。そしてさらに前進する。


 形成されていた腕と、牙が僅かに傷をつける中、それでも彼女は止まらない。背後から襲い掛かるβの攻撃を前進することによって回避し、さらに前へ。


 その動きを見て、周介と知与は尊敬と畏怖を抱いていた。


 これが怖いのだ。前衛型の人間はこれが怖いのだ。自らの耐久力を信じた愚直な前進。攻撃を受けようと、攻撃を何度されようと、危機にさらされようと前へ出る。この動きこそが恐ろしいのだ。


 このままでは確実に大門に合流される。そうなればこちらの勝ち目はほとんどなくなる。それはわかっていた。


 だからこそ、すでに瞳は動いていた。


 断続的に放たれる知与の射撃を適度に防ぐ中、雨戸の視界にとある物体が映る。それは、いつの間にか自分の体に取り付いていた、小さな人形だった。


 胴体、腕、足、それぞれにいつの間にか掌に乗る程度の小さな人形が取り付いていた。


 雨戸がその存在に気付くと、人形は小さく手を振って応え、毛の中に潜り込んでいく。


 次の瞬間、その人形が爆発した。


「なっ!?」


 それは瞳が使う自爆型の人形だった。毛の中に入り、変貌型の肉体のほぼゼロ距離の位置から爆発することによって雨戸に確実なダメージを与えていた。


 変貌型の人間は、そのタイプによって強化の内容が変わる。もちろん本体そのものにも強化がかかるため、ダメージを与えたといっても多少のものだ。爆発によって毛が吹き飛んでも、すぐに肉体を修復することは問題ない。


 だが、今背中に抱えている二人は違う。


 強化のかかっていない人間はあの程度の小規模な爆発でも致命傷になりかねない。牧野の防護膜があるとはいえ、何発も同時に食らえば防護膜を貫通することだってあるだろう。


 雨戸の警戒網が広がると同時に気付く。周辺に、何体もの小さな人形が集まっているのだ。おそらくは投擲されたのだろう。小さな人形に気付くのに遅れた。そして気付けば、再び何体かの人形が体に取り付いていることに気付く。


「この!チビ共!」


 体の奥に入り込まれるとまずい。特に背中に取り付かれたら二人が危険だ。前衛として後衛を守ることが使命となっている雨戸は、まず二人を守ることを考えた。


 その瞬間、再び知与の射撃が雨戸に襲い掛かる。


 頭部に直撃した弾丸は、雨戸の頭部をわずかに傷つけるが、それもあまり意味はなさそうだった。だが、確実に意識を散らせている。


 一つのことに集中すれば、人はすぐに対応できる。慣れることもできる。対策も思いつく。


 だが幾つもの物事を同時に与えると、処理能力が著しく低下する。それは前衛型だろうと変わらない。ただ、雨戸は即座に対応をしていた。


 体の体毛を一気に増やし、振り回すようにして近くにいる人形たちを弾き飛ばしているようだった。


 爆発する人形では大した足止めにはならないことは瞳も承知の上だ。だがそれで問題ない。既に、大地の雨は止んでいた。


「攻撃再開!」


 周介の言葉と同時に、全員が攻撃を開始していた。


 知与の射撃に加え、瞳の人形たちも再度追加され、広域に再展開していく。そして再び焼夷手榴弾を投擲し、辺りを火の海へと変えようとしていた。


 大門までの距離はかなり縮まったが、それでも簡単に合流はさせないと周介たちは全力で攻撃を仕掛ける。


 βの肉弾戦、γの砲撃、知与の射撃、人形の投擲と自爆。それらすべてが雨戸の足を止めさせていた。


 ただ、周介たちがそれほどの攻撃を行っても、雨戸は自分の体一つで再び状況をひっくり返せる。


 もう一度地面がひっくり返されるのに、時間はほとんど必要なかった。


 再び上空から大地の雨が降り注ぐ中、周介たちは何とか雨戸を近づけさせまいとしていたが、防御しながらの状態では雨戸を止めることは難しかった。もうあと少ししか雨戸と大門の距離はない。二人が同じ場所に向かった時点で周介たちの敗北はほぼ決まったといってもいい状況になってしまう。


 周介はほんのわずかな間思考し、覚悟を決める。


 ミスをすれば負ける。だがこのままでもじり貧になるだけだ。これは賭けだ。ここで一気に状況を変えなければならない。


「玄徳、指示に合わせて能力を使ってくれ」


「うす……って兄貴、何するつもりですか?」


「役割を変える。というか交代する。そうしないとこのまま押し潰される。頼んだぞ」


 周介は必要な説明をほとんどせずに集中する。否、この程度の説明でも玄徳は合わせることができる。それだけ玄徳はサポートに秀でた能力者になりつつあるのだ。


「猛!大門さんをかちあげろ!」


 無線で猛に呼びかけると殴り合っていた猛と周介の先ほど言っていた言葉の意味を理解した玄徳は即座に反応した。


 互いに殴り合う中、襲い掛かる拳を交わして猛は身を屈めると下からすくい上げるように拳を叩きつける。

 とっさに防御した大門だったが、その威力でダメージを受けることはなくともそのすくい上げるような打撃を受けて踏ん張れるような足場も、そして重量も大門にはなかった。


 ギリギリ腕を盾代わりにしてクッションのように猛の拳の衝撃を少しでも緩和しようとしたが、その攻撃を受けてほんのわずかに体を浮かせた瞬間、玄徳の能力が発動しその体は空中へと運ばれてしまう。


 もし玄徳の能力を使わなければ、一メートルも持ち上がったかどうかも怪しいほどに、大門は完璧に近いタイミングと動作で猛の拳の威力を吸収していたのだ。


 だが、玄徳の能力のおかげで勢いよく空中に打ち上げられた大門の体は、落ちてくるアスファルトや土と激突しながら宙に投げ出される。


「猛!雨戸さんを止めろ!」


 てっきり大門をこのまま攻撃すると思っていた猛だったが、即座に近くまで迫っている雨戸の存在を知ってその理由を理解する。


 この二人を一緒にさせてはいけない。それは猛とて理解できていた。


 そして先ほどまで雨戸を追う形で走っていたβは、猛と入れ替わるような形で大門のすぐ近くまでやってきていた。


 大門も即座にその行動の意味を理解する。大きく振りかぶったβの一撃を防ごうと構えをすると同時に、その体に知与の射撃が襲い掛かる。


 対物ライフルの一撃でダメージを受けるような大門ではない。だが空中に投げ出されている状態で態勢を崩すには十分すぎる。


 態勢が崩れた状態の大門に、βの拳が叩きつけられ、その体を周介たちからかなり離れた場所へと運んでいく。


「猛、雨戸さんは背中におひめ先輩と牧野さんを背負ってる。あまり早い動きはできないはずだ。上手く殴ってその場にくぎ付けにしろ」


「了解、んで大門の方は大将たちが受け持つわけだ」


 猛も周介たちの行動の意図を理解して雨戸の前に立つ。先ほどまで人形爆弾や射撃を掻い潜っていた雨戸だったが、目の前に猛が立ちはだかると先ほどまでとは違った意味で緊張感を強めていた。


「大将たちのところにはいかせねえぞ?もちろん大門のところにもな」


「……なるほど嫌なやり口だ。だがいいのか?善人と違って、私は防護膜をかけ放題の状態なわけだが?」


「お前に暴れられる方が面倒だって思ってんだよ。俺も大将も……いい加減泥遊びは勘弁してほしくてな」


 単純な強化系統の能力を有した大門よりも、変貌型の能力を持ち多少応用が利く雨戸を自由にさせたほうがより厄介だと周介は判断した。そして猛もその考えには同調していた。


 何せこのように周辺の地面を上空に巻き上げて障害物を作るのだ。猛には大したダメージにはならなくとも、鬱陶しい状況を作られていることに違いはない。


 話しながら叩きつけた猛の一撃を雨戸は易々と防御する。防護膜がその体に展開しているために大したダメージにはならなかった。


 だがその次の瞬間には体の何カ所で爆発が起き、防護膜をかなり削っていく。もう一撃、二撃と猛の攻撃を防御すると防護膜は消滅してしまっていた。


 だが即座に牧野の防護膜が再展開する。耐久力勝負では勝負にはならないと普通は考えるだろう。


 だが、もとより猛は耐久力に秀でているタイプの変貌能力を有している。先ほどまでの大門との殴り合いでも、ほとんどと言っていいほどにダメージは受けていなかった。いや、受けていてもすぐに回復していた。


 耐久力勝負ならば、むしろ望むところなのだ。


「土に塗れるのもたまにはいいと思うが?」


「毛に絡まるんだよ。鬱陶しくて仕方ねえ」


 互いの拳を掴み、力比べをし始める。その体が膨らむのと同時に、互いに示し合わせたように手を離し、その拳を互いの体に叩きつける。


 拳がぶつかると同時に衝撃波が発生するのは大門との肉弾戦とほとんど同じだった。


 互いに変貌型の能力を持っている。片方は味方を背負っているが、猛は身軽な状態だ。


 どちらに軍配が上がるとも言い難い。だが元々雨戸は速度特化のタイプだ。牧野の防護膜で防御力が増していても、耐久力では自分に分があると猛は確信していた。


 再び先程のような殴り合いが始まるまでに時間はかからなかった。


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