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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十八話「変わるもの、変わらないもの」

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「くっそ!そんなのありか!?」


 周介はβを操りながら悪態をついていた。今まで後方で待機していただけだった笹江と牧野を取り込む形で雨戸が前に出てきている。


 もし前衛にまで躍り出てきたらそれだけで周介たちの戦線は崩壊する。何としても前衛の二人は分断している状態でいなければならない。


 だがβの攻撃、と言っても殴ったり蹴ったりしているだけなのだが、それらも全く意に介していない。


 正確には、当たってくれない。


 数秒前までは、笹江と牧野を狙うことで、ダメージを与えられることはなくとも防御、あるいは迎撃をしてくれていた。


 だが、二人を体の中に取り込んでからは全くと言っていいほど、触れることさえしてくれない。


 背中に乗せている二人を気遣っているからか、そこまで早い動きはしていないというのに、連続して放たれるβの拳も蹴りも一度たりとも雨戸の肉体に掠りもしなかった。


「援護します!」


 知与は対物ライフルを離すとグレネードランチャーを構える。βが接近している状態では水平方向からでは狙えないが、放物線を描いて直上からぶつける形であれば当たってくれるだろうといくつもの弾丸を射出する。


 グレネードランチャー独特の発射音と共に、知与がカウントを始める。それが着弾までの時間であることは周介も理解できた。


 何とか、何とか一発くらいは当てたい。我武者羅にβを操っても意味がないことはすでに分かった。ならば物理的に避けにくい状況を作るまで。


 周介はβの拳を大きく振り上げると思い切り雨戸めがけて振り降ろす。僅かに後方に跳躍しそれを悠々と回避する雨戸だが、回避した瞬間にβの腕部の関節から勢いよく蒸気が吹き上がりその視界を塞いだ。


 蒸気の熱量に一瞬怯みながらも、ダメージを与えるほどの熱ではないことを察したのか、雨戸はその尾を振り回して蒸気を散らそうとする。瞬間、上空からいくつもの弾頭が地面に着弾していく。


 一つは煙を、一つは爆発と衝撃を、一つは周辺に炎をまき散らしていた。


 背中に味方を背負っているからか、着弾点から雨戸は意図的に大きく離れる。変貌している肉体そのものであれば耐えられるが、その変貌の肉体に包まれているだけの笹江と牧野は襲い掛かる強い衝撃に耐えることもできなければ、放たれる熱量を堪えることもできない。


 攻めるとすれば、そこだ。


「炎で接近させないように壁を!跳躍したら撃ち落とせ!」


「了解!」


「瞳!焼夷手榴弾!猛たちの位置よりも遠く投げろ!」


「了解」


 知与は周介の指示の意味を即座に理解してグレネードランチャーに装填されている弾を全て炎をまき散らす焼夷弾に切り替え連射する。先ほどと同じように直上から落下してくる形の曲射によって雨戸めがけて炎をまき散らす。


 瞳の人形たちも一斉に焼夷手榴弾を投擲し周辺に炎をまき散らしていた。ここまで炎をまき散らせば、低速で突破するにはかなり勇気がいることだろう。味方を背負っているのならなおさらだ。


 僅かに煙の残る中、アスファルトの一帯にまき散らされた炎。これの上を問題なく動けるのは、人間以外のものか、あるいは強力な強化が施された者だけだ。


「なかなか……無茶をするな」


 目の前で広がる炎を前に、そしてその中で佇む鉄の巨人を前に、雨戸は笑う。獣の顔が僅かに歪む。その声から楽しんでいるのだと察した笹江と牧野はため息を吐く。


「春、僕らのことは気にしなくても大丈夫だよ、突破して合流を」


「それはやめたほうがいいかも。かなり無茶苦茶な燃やし方してる。それに、あの子たちその気になったらこの辺り一帯にガソリンまくくらいはするわよ。そんな中で炎に包まれたら、いくら防護をつけてても酸欠でお陀仏ね」


 装備の中に車があったということは、最低限その燃料を保管している可能性が高い。そんなものを投擲されれば周辺の炎はさらに燃え上がる。


 雨戸も炎には耐えられても、酸素がない状態は耐えられない。背中にいる二人はもっと危険な状態になるだろう。


「跳躍すれば……間違いなくあの狙撃が襲い掛かってくる……か……一発二発程度であれば防げるが、あのでかいのが襲い掛かってくる可能性もあるか」


 雨戸はまだβの機動性をすべて見ていない。雨戸が炎を飛び越える時、同じように跳躍して攻撃してこないとも限らないのだ。


 βは、いや周介たちは雨戸と大門の合流をとにかく防ぎたかった。あの二人が一緒になったらそれこそ瞬時に叩き潰される。強力な肉体を持っているものはそれだけで脅威だ。だからこそ、近づけさせないために警戒させる。


 何をするかわからないぞと、威嚇し続ける。


 厄介な手を使ってくるものだと、雨戸は内心舌打ちをする。だが、その顔は笑みを作り続けていた。楽しいと、嬉しいといわんばかりに。


「二人とも、悪いが少し我慢してくれるか?」


「動くの?」


「まずはどれくらい相手が反応できるかを見る。多少攻撃を受けることになる。だが、相手のできることを一つずつ潰していけば、突破口も開けるだろう」


 強化のかかっている人間の恐ろしいところはここだ。自分の体を使っていくらでも試行錯誤ができてしまう。


 相手が強力だろうと、どんなに恐ろしくとも。


 背中にいる二人ももはや諦めてため息を吐く。せめて痛くないことを祈りながら、雨戸の体の中で耐ショック姿勢を取っていた。


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