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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十八話「変わるもの、変わらないもの」

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「やってみるか……大門さん、おひめ先輩、雨戸さん、牧野さん、胸を借りさせていただきます」


「うん、かかってきなさい。全力を出してかかってきなさい」


 笹江がその小さい体で胸を張って周介たちの前に立つ。自信満々かつ負けるとは一切思っていない。だが油断もしていない。強者ならではの自信に満ちた反応だった。


 満面の笑みを浮かべながら胸を張る小さな先輩に、周介は少しだけ対抗心を燃やしていた。


「よし!全実弾使用許可。全装備解禁。ここまで来たら全力でやるぞ!」


 周介の言葉に真っ先に反応したのは言音だった。自分が用意するべき武器装備の類を全て実弾に切り替えるためだ。今まではペイント弾なども混ぜていた状態だったが、今回はすべて実弾に切り替える。


 相手には索敵能力が使える者がいないと仮定して、とことん実弾で攻めまくることにしたのである。


「全部実弾かぁ……ちょっと辛いかもしれないなぁ」


「私たちにとってもいい訓練になるでしょう?頑張りましょ」


 大門と笹江は苦笑している。周介たちの実力は大まか把握しているが、その状態でさらにすべて実弾で来られるとなると多少辛いところがあるのかもしれない。


 大門と雨戸はともかく、笹江と牧野は防御力が無くなれば実弾を受ければそれだけで重傷を負うかもしれないのだ。


 もっともその対策も最低限はできているようだったが。


「さて、それじゃあ中に入ろうか。あと五分で開始だ。ある程度互いに距離があったほうがやりやすいでしょ?」


「そうですね。お願いします」


 距離があったほうが、などと言ってもこの柵の中は一定の空間しかない。どうあがいても百メートルしかない柵の中、周介たちのような機動力がある部隊からすれば百メートルなどあってないような距離だ。


 そしてそれは大門と雨戸のような強い強化のかかっている人間に対しても同じことである。


 どんなに距離があっても、どんなに離れていてもすぐに距離を詰められる。近接に持ち込まれるのが一番危険だ。それをわかっているからか、猛は常に周介たちと大門たちの間に自分の体を入れるように移動していた。


「大将、少しだけでも時間を稼ぐから、その間に態勢を整えてくれ。向こうが準備を待ってくれればいいけど、待ってくれなかったら一瞬で片が付いちまう」


 先程は勝てるかもなどと言っていたが、猛だってBB隊の強さは知っている。先ほどの言葉はやはり相手へのブラフの意味もあったのだろう。今の猛は周介たちを守るために全神経を集中しているようだった。


「あの二人相手だったらどれくらい耐えられる?」


「……二人相手だときついな。どっちか片方は防御か……あるいは大将たちに引き受けてほしいところだ」


「……玄徳、最悪の場合、俺とお前で大門さんを受け持つぞ」


「うっす。雨戸さんじゃなくていいんすか?」


「あの人は速度特化だ。少しでも反応速度のいい猛を当てる。大門さんに速度がないっていうわけじゃないけどこの場所で、うまく攻めるなら大門さんだ」


 そう言って周介は足元のアスファルトを地面で叩く。


 完全に平坦にされた地面では周介の得意とする高速機動はあまり使えない。だがその代わりにその条件は相手も同じだ。


 ならばこの平坦な条件を元に、自分たちの有利な状況に引きずり込む以外にない。


「瞳、言音、開始直後に相手のいる方向にスモーク投げてくれ。知与は牽制で射撃。相手からも見えるタイミングですぐに撃っていい」


「了解。時間稼ぎね」


「了解しました。弾は、実弾でいいんですね」


「あぁ、どうせ防がれる。あとはこっちも準備を整える。言音、空いた時間で装備出してくれ」


「了解です。何を出しますか?」


「γを頼む。あの人たち相手に出し惜しみはしていられないからな」


 γの重量を前面に出した攻撃を使えば、多少大門たちを怯ませることができるかもしれない。


 相手の敗北条件にエリアオーバーなどがない以上、ここでは投げ飛ばしたところであまり意味はない。


 想定としてはこの周りにも都市部があってこの中で戦わなければいけないというところだろう。


 周介達ラビット隊は動き回ることを前提とした部隊だ。このような閉じられた空間で、しかも動き回れるだけの足場もない状態で足を止めて戦うなど想定はしていない。


 いや、だからこそのこの空間だ。逃げ回る場もなく、とにかく足を止めて戦わされているのだ。苦手分野と言えば確かにそのとおりである。


 ふと大門たちの方を見ると、既に雨戸は能力を発動して黒い獣の姿に変貌している。そして大門と雨戸の体には青い光が僅かに宿っている。すでに牧野の使う防護膜の能力を発動しているようだった。


「……準備してどうぞってか……ありがたいことで」


 まだ試合開始の時間は一分近くある。だが先に自分たちが準備をすることで、そちらも準備をしてもいいぞと言ってくれているのだと周介は解釈した。


「やるぞ。俺らの全力をぶつける!一時間やられるなよ!?」


 周介の気合の入った声に全員が気を引き締める。一時間もBB隊とぶつかるなど正気の沙汰ではない。だがそれをしなければならないのだ。そういう状況になることもあるかもしれないのだ。


 圧倒的強者との戦闘。周介にとっては日常茶飯事だが、完成された強者で構成された部隊とぶつかる経験は、決して無駄にはならないと意気込んでいた。


 試験開始初手、ラビット隊の先陣として行われたのは知与の射撃だった。


 彼我の距離がそこまで開いていないため狙撃というよりは射撃の域に近い。だがそれでも知与の放った弾丸はずれることなく笹江の体めがけて襲い掛かる。


 だがその体に着弾する直前、その弾丸を大門の腕が弾き飛ばした。


 自分が防がなければ間違いなく直撃していたであろう弾丸だったことに、大門は笑みを浮かべていた。


「いいねぇ、迷わず一手目でクイーンを取りに来たよ。やる気は十分ってところかな?」


「どうする?なんか大きいの出てきてるけど」


 周介たちが陣取っている方向からは多数の人形に加え巨大な機械のロボットが現れている。


 完全に攻撃態勢に入っているが、まだ大きな動きを見せないのは大門たちが動き出すのを待っているのだろうということは理解できた。


 先頭にはすでに変貌を終えている猛がいつでも動けるように待機している。あくまで彼らは時間経過が目的。それまでにできる限りいろいろと試すつもりではあるのだろう。


 スモークが周介たちと大門たちの間に投擲されて煙を噴き出して視界が遮られていく中でも継続的に放たれる知与の弾丸は、的確に笹江、牧野を狙ってきている。大門は持ち前の動体視力と反応速度でその弾丸をすべて見切り叩き落していた。


「こちらは後衛を狙われると辛い。何か策はあるか?」


「ちょうどよくアスファルトがあるからね。これを使わせてもらおうか。ちょっと盾役変わってくれるかい?」


 そう言って大門は地面を思い切り殴る。いや、正確には地面に手刀を突き刺した。それを何カ所も、まるで区画を作るかのように簡単にアスファルトを砕いていく。


 そして砕いたアスファルトを地面から引っぺがしていた。


 一平方メートル程度、厚さは十センチあるかないかという一枚のアスファルト。弾丸を防ぐには十分すぎるといえるだろう。


「これを盾代わりにできれば、ちょっとは防御になるんじゃない?」


「なるほど、ではもう一枚くらい作っておくか」


 瞳の人形などが持っている盾を奪えればもっと楽だろうが、今大門たちにはそんなものはない。


 自前の防具がない以上、即席で用意するほかない。牧野はすぐにそのアスファルトに防護膜をかけていた。

 雨戸が知与から放たれる弾丸を防ぎながらもう一枚アスファルトを剥がし二枚のアスファルトで立てかけるような形で位置を調整する。


「これを持って移動できる?」


「無理。これ二百キロ以上あるんじゃない?僕らじゃ運べないよ」


「じゃあ立てかけておくしかないね。オーケー、防御は整ったわけだ」


「支えるくらいなら……何とか」


 少し傾けた状態でそれを支えるくらいであれば笹江や牧野でも問題はない。


 防護膜をかけておけば少なくとも攻撃が通ることはまずないだろう。


 動かしたりすることはできないが、銃弾を簡単に防げる防御手段ができたのはありがたかった。


「さてこれで二人とも攻撃に……ん?」


 周介たちが持っている攻撃手段が単純な弾丸だけであればこれで防いであとは人形たちがこちらに来るよりも早く周介たちを襲撃すればいいだけだった。


 だが、スモークの煙を斬り裂くように、そして少し動くだけで響くその音に、大門は眉をひそめていた。


 嫌な予感がした。確証はない。何となくこれではまずいと感じたのだ。


 ほぼ無意識に、大門は全員が守れるような位置に立ち位置を変える。そしてそれを見た瞬間、その予感が間違っていなかったことを確信する。


 展開する濃い煙の向こう側から、巨大な鉄の筒がのぞき込むように顔を出した。それが砲身であると理解した大門はとっさに動いた。


「やばっ!」


 大門が構えるのと轟音が響き渡り周辺を取り巻いていた煙が衝撃波によって大きく揺らぐのはほぼ同時だった。


 放たれた巨大な弾丸、砲弾は一直線に笹江たちのいる方向へと向かう。だがその砲弾が彼女たちに直撃することはなかった。


 前に出た大門が大きく振りかぶったその拳を砲弾に叩きつけ、他の弾丸と同じように弾き飛ばしたのである。


 真正面で弾丸を弾き飛ばした大門の腕にはわずかな痺れが残っている。牧野の防護膜が展開していてもこれほどの威力を感じたのはかつて戦車砲の一撃を受け止めた時以来だった。


 つまり、あの銃砲は戦車砲と同等の威力を持っているということになる。


 煙のせいで全容は見えないが、周介たちがそれほどの兵器を擁しているのであれば戦術を少し考えなければならない。


「びっくりした。あんなものまでもってるなんてね……連射はできるのかな?」


「どうだろうな。あれはこのアスファルトで防ぎきれるか?」


「……難しいね。直撃は防げるかもだけど、砕けるだろうし破片は間違いなく当たると思う。あれを撃たせないようにしないと……あるいは撃たせても、うまく防がないと」


「……癪だが、あれをどうにかするまではどちらかがディフェンスに徹しないと危ないか」


 先程猛が言っていた通りになりかけている。相手の思惑にはまるのははっきり言ってあまり得策ではないが、笹江と牧野の二人を守るためには仕方がないことだ。


 閉鎖空間でなければ好きに暴れる二人と遠く安全な場所に逃げる二人という形に分かれられるのだが、今回はそういうわけにもいかない。


 難儀なものだと思いながらも、大門と雨戸の二人は笑っていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字(?)報告です > 煙を振り払うように、巨大な鉄の筒のぞき込む。 多分なにか消したかなんかだと思うけど違和感がすごい...... [一言] BB隊はこういう条件でも問題なく戦え…
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