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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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 今回ドクが作った潜水艦は大きく分けて三つの区画がある。艦内の人間が休憩するための休憩区画、そして潜水艦の機能を維持するための機関部区画、そして必要な装備などを保管する格納区画。


 機関部区画に関しては全体にいきわたっているために明確に区画するのは難しいが、人が休む場所とそれ以外の場所に分けられていればそれほど意識するような必要もなかった。


 そんな中で周介がまずやってきたのは格納区画。ここに置かれているのは今回の調査でも使われる小型の潜水艇だった。


 以前周介が海底に向かった時に使ったものと同型のもので、あの後からもドクによって何度も改修が加えられたからか、その形状は周介の知るそれからは少し異なっている。


 この潜水艦には二つ、潜水艇が格納されていた。そして周介が扱えるようなアームに加え、そのアームに取り付けるタイプの機材なども格納されている。


 格納されている場所から、注水するための所謂エアロックの場所へとこの機体を移動させ、そこから艦外へと出ていくような仕様になっている。これらの操作は周介が行うこともできるが、電動でも行えるようになっているようだった。


 調査の時は周介も同行したほうがよいのだろうか。そんなことを考えていると、周介の後ろから声がかかる。


「装備の点検、確認は終わってるってよ。いつでも出られる状態だそうだ」


 声をかけてきたのは猛だった。整備の手伝いでもしていたのか、あるいはその様子を眺めていただけなのか、どちらにせよこの場に一時的にいたのは間違いなさそうだった。


「整備の手伝いでもしてたのか?」


「副隊長たちがやってんだ。下っ端の俺がやらねえわけにはいかないだろ」


 どうやら周介たちが東京湾を抜け、高速航行に移行するまでの間、瞳たちは潜水艇の最終整備を行う製作班の人間の手伝いをしていたらしい。


 よくよく見れば格納庫の隅にはいくつか瞳の人形が確認できる。それも潜水用の装備を身につけているものばかりだ。あれを使って、海底の調査の手伝いをするつもりなのだろうということは予想できた。


 周介が動かすことのできる潜水艇。そして瞳が動かすことのできる人形。これらをうまく使うつもりなのだろう。


 つまり、ついてくるつもりだ。前に潜水艇でサメに追い回されるような目に遭っても、同じようについてこようとするあたり、瞳もなかなか肝が据わっているものだと周介は苦笑する。実際は、周介を止める為に、周介のすぐそばにいる為にそうしているのだろうが。


「整備班の人たちは?」


「もう寝てる。この中でよく寝られるもんだ」


「製作班の人たちは俺らが思ってるよりずっと図太いからな。そうじゃなきゃドクと口喧嘩なんてできない」


 周介は製作班の人間が普段どういうところで仕事をしているか知っている。それに、どのような性格の人間が多いかを知っている。


 このような振動と異音が響く場所でも、問題なく体を休めることはできるだろうことは予想できていた。


「猛は休まないのか?これから長丁場だ。半日近くこのままだぞ?」


「部屋であんなにうるさくゲームやられてたんじゃ休むものも休めねえよ。それに、大将が働いてるのに俺が休むのも違うだろうよ」


「適材適所だと思うけどな。そもそも、猛の役割は戦闘だ。それ以外の部分なら雑用以外はしなくてもいいんだぞ」


「それでもだ。働いてるやつの横でダラダラしてるのはなんか違うんだよ」


「なら、瞳たちと一緒にゲームやってればいいだろ?俺も余裕があればそっちに回るし。さすがにゲームやると意識逸れるから、たぶん本を読む程度だけど」


 随分と気楽なもんだなと猛は悪態をつく。いや、悪態というにはやわらかい。どちらかというと呆れているのだろう。


 これだけのものを動かしている周介が、まだ余裕があるというのだから。もしかしたら感心しているのかもしれない。もっとも、周介からすればγなどを動かすよりはずっと楽な仕事だ。


「暇があったら玄徳のところにも顔出してやってくれよ。言音のおかげで、まぁ暇は潰せるだろうけど、やっぱ誰かと話さないっていうのはちょっとな」


 能力を発動しながらでもこうして話をし、この潜水艦を動かせている周介でもやはりただ一人でじっとしているというのはつらい。


 誰かと話をして、そして適度に集中力を保たなければいけないのだ。


 その二つの瞳が蒼く輝くのを見ながら、猛はため息を吐く。


「へいへい。時間が余ってたら行ってやるよ。適当にからかってやりゃいいのか?」


「言い方がちょっと悪いけど、まぁそう言うことだ。俺と違ってあいつの能力を長時間発動するのは結構きつそうだし」


「……大将のは平気なのかよ?」


「俺の連続能力発動時間は半日どころじゃないぞ?そろそろ眠りながら発動できるんじゃないかって思ってるくらいだ。普段から発電やら訓練やらで能力使いまくってるからなぁ」


 能力の使用頻度という意味では、周介は関東の拠点で、いや、この日本の組織の中でもトップクラスに入るだろう。


 何せほぼ毎日何時間も能力を発動させ続けているのだ。能力発動初期の訓練でもそれほどの頻度と長時間の発動はしない。


 周介のような能力の発動の仕方をするのは世界でもかなり稀なタイプだ。


 長時間の発動など、周介にとっては当たり前になってしまった。あとは、どれくらいそれが維持できるのか。そのあたりは周介にもわからない。


 実際に持久力の測定でもしてみようかと、そう考える中、周介は隣にいる猛の方を見上げる。


「今回の行動、お前の役割は後半だ。それまでに体調は万全にしておいてくれよ」


「……例の能力の奴か」


「人間か動物か、まだわからないけどな」


 無人島で確認できた能力と思われる反応。まだそれが人間が起こしたものなのか動物が起こしたものなのかはわかっていない。


 だが、何かしらの戦闘行動が発生してもおかしくない。そういう時にこそ、猛の能力が役に立つ時だ。


 だが、周介としては気がかりもあった。


「猛は、能力者との戦闘経験はどのくらいある?」


「数えられる程度だ。この間の逃げ回ったのを戦闘としてカウントしていいなら……六回ってところだ」


「それは動物も含まれるのか?」


「あぁ。人間二、動物四ってところだな。実戦経験なんてほとんどないに等しいけどよ、訓練はばっちりやってきてる」


 動物との交戦経験は周介たちよりは多い。何せ周介たちは能力を発動している動物と遭遇した経験は二回しかないのだ。


「大将たちは人間の方が多かった感じか?」


「まぁ……そうだな……俺は……何回だっけ……確か人間は五回?いや、もうちょっとあったかな?人間の方が圧倒的に多い」


 小太刀部隊として、そして運搬を得意とする部隊として、敵との遭遇率はかなり高かった。主戦力として戦ったことは少ないが、それでも実戦は何度も超えてきた。


 能力が危険なものであるということもわかっている。実際に何度も死ぬような目に遭ってきた周介だからこそわかることもある。


「猛、お前なら能力を発動した動物を無力化することはできるか?」


「無力化?殺すんじゃなくてか?」


「可能な限り、殺したくない。人間もそうだけど、動物も同じだ」


 それは、周介が抱えている思い出の一つだ。動物と一緒に育った。もういないかつての愛犬と共に育った。


 人間の都合で、それらを殺すなどということはあってはならない。あってほしくない。それは、周介の、一個人としての我儘に近い。


「けどよ大将」


「わかってる。能力を持ってる以上、危険だ。一般人が来る可能性のある場所に置いておくことなんてできない。殺処分したほうが、安全だって言うことはわかってる」


 能力を有してしまった動物は危険だ。今まで能力の脅威にさらされてきた周介は嫌というほどそれを理解している。


 一般人であれば、間違いなく死ぬ。周介のように逃げることもできず、何もできずに、ただ死ぬ。そんなことは許容できない。


 悪意をもってそれを行う人間に容赦などいらない。それは周介だってわかる。だが動物は、そうではない。ただ生きる為に、あるいは自分が何をしているのかもわからずに能力を振りまく可能性がある。


 それはただ、運が悪かっただけのことだ。それを、あるかもわからない、そうなるかどうかもわからない可能性のために殺すというのは、周介としては許容したくはなかった。


「だから聞いてる。お前は、無力化は可能か?」


「……能力と、相手にもよる。小さい相手だと、さすがに無力化はきついかもしれねえな。攻撃と一緒に、体ごと潰しちまう」


 猛の能力は鬼怒川と同じ変貌型だ。その能力の出力こそ異なるものの、基本的には同じような効果を持つ。


 強力な打撃は、叩きつけるだけで周辺の地形を破壊するほどの威力を持っている。そんな攻撃を使えば、小動物などは地形変化だけで死んでしまう可能性がある。


 無力化というのは、単純に殺すよりもずっと難易度が高いのだ。ただ殺すだけなら、どんな人間でもやろうと思えばできてしまう。


「可能なら、動物は実験用の調査対象として捕獲したい。麻酔弾もいくつか持ち込んでるから、それで眠らせて捕縛したい」


 可能なら。そして、それをしたいという周介の言い回しに、猛は眉を顰める。それは命令ではなく、周介の考えだということだ。


 その考えを押し付けるつもりもないし、矢面に立つ猛に対してそのようなリスクを負わせることも隊長としては容認できない。


 だからこれは、命令ではなくお願いに近い。周介の言葉の意味を、そう解釈した猛はため息を吐く。


「一つ言っておく。大将がそんな風に気を遣ったってよ、相手は感謝なんてしてくれねえぞ?ただの動物だ。ペットならともかく、あいつらは自分が生きることしか考えてねえんだ」


「わかってる。だからこれは俺の我儘だ。ただの自己満足だ。けど、お前はその自己満足に従う必要はない。俺がお前に出す命令は一つだけだ。『俺たちを守るために前に出て暴れろ』単純なものだろ?」


 自分の言っていることが、どうしようもなく子供の理屈だということを理解して、周りを危険に晒すということを理解して、それでもなお周介はそれをやろうとしている。


 少なくとも、周介だけはそれをやろうとする。それがとてつもなく難関なことだろうと、周介はそれをする。


 何かを、誰かを、自分たちの都合だけで殺すということを、周介はしたくない。それは、周介の根っこにある部分の思考だった。


「……わかった。俺は俺の好きにやらせてもらうよ。前に出るのが俺の仕事だ」


「あぁ、頼んだ」


「……大将はいつか禿げるな。変なことに頭使ってばっかりだときついぞ」


 それは、今までそんなことを考えたこともなかった猛の本心からの助言だった。ただ戦うために、強くなるために訓練をしてきた猛にとって、排除する相手の気持ちなんてものはどうでもよかった。


 自分より弱く、自分より年下の隊長がそんなことまで考えているということが、猛にとっては不憫に思えてしまった。


 そんなことを気にしても、どうしようもないということを理解できていないように見えるからだ。もっとも、周介はそれらを理解してなお、行動しようとしている分性質が悪いのだが。


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[気になる点] 千代と同じタイプで、そもそも普段から能力使い続けないと生活できない人も居そうだけどその辺どうなんだろ?
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