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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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「目標地点付近に到達。最終位置調整を行う。浮上開始」


「浮上開始。各乗組員へ、振動に注意してください。知与、浮上までのカウントダウン」


「はい。海面まであと二十、十九、十八……」


 周介たちは半日にも及ぶ航海を無事終えていた。眠気が周介の中にあるかとも思ったが、まだ周介の目はさえている。


 周りが妙に明るいからというのもあるのだろう。能力を使い続けていたからというのもあるのかもしれない。少なくとも今すぐにもベッドに横になりたいという精神状態ではなかった。


 最終位置座標を確認した後はソナーで周辺の地形を確認して、予め想定した場所へと移動し、潜水艇を出動させての本格的な調査を行うことになる。


 その中にも周介たちは参加する予定だった。


「三、二、一、浮上完了」


 知与のカウントダウンが終了したと同時に潜水艦に僅かな揺れが生じる。移動先の抵抗が変化したことで先ほどまでの独特な揺れから船のそれに近い揺れへと変化したのだ。


 大きく揺れる船内ではあるが、本当に海上に浮上したのかどうかは専用の潜望鏡を見ない限りはわからない。あるいは、船体上部にあるハッチを開くかだ。


「天気は?」


「晴れてますね。ハッチ開けますか?」


「それもいいな。少し換気もしようか。位置確認中、機関員を除き外に出ることを許可。三十分から一時間程度だが、休憩することにしよう。空気吸引。一時的に浮上状態を維持する」


「了解。空気を注入、排水を行います」


 周介は周辺の空気を吸気口から取り込んでいき、その勢いで潜水艦のバラストから水を排出していく。


 徐々に質量よりも浮力が勝っていき、周介がスクリューで強引に浮かずとも浮くことができるようになっていた。


「艦内各員へ。これより一時間の休憩とする。一時間後、再び潜航し本格的な調査を開始する。少しだが羽を伸ばしてくれ」


 艦内全員にその放送が聞こえると同時に、周介はロックしていた上部ハッチを解除する。今どの場所にいるのか周介には分らないが、少なくとも太平洋のど真ん中で、予定していた場所に近いということはわかる。


 とはいえ、その所定の場所がいったいどこなのかも周介たちはわかっていないのだが。


「百枝君、しばらく換気を頼めるかな?結構な時間潜航しっぱなしだったからね」


 本来の潜水艦であれば、内燃機関に酸素を取り込む関係上一定の時間で浅い深度まで浮上しなければいけなかっただろうが、周介の能力によって動くこの潜水艦は内部の空気を消費する人間の都合だけで問題なく深度航行可能だ。


 言音の能力によって、適度にボンベなどを使って新鮮な空気と入れ替えを行ってはいたが、普段長い間閉鎖空間に閉じ込められることになれていない人間が多数いるこの状況では外に出られるということは割と重要な意味を持つ。


 閉鎖空間に居続けることができるか否かにも適性が分かれるのだ。その適性はその人物によって異なる。そういった調査をしていないため、体調不良を訴えるものがいてもおかしくはない。


「おぉ!すごい!綺麗だぞ!大海原のど真ん中だ!」


「泳げるか!?結構暑いな!」


「こりゃ凄い!写真を撮ろう!」


 おかしくはないはずなのだが、今回参加している人間は皆元気にハッチから外へ飛び出して甲板上を走り回っているようだった。


「半日ずっとこもりっきりだったっていうのに元気ですね」


「製作班の人間は半日じっとしてるとか普通にやるからなぁ……そういう意味では適任だったのかもしれないね。さて、現在位置のチェックだ。百枝君も、換気しながら少し休むといい。半日ずっと能力の発動しっぱなしだったんだ」


「ありがとうございます。少しだけ、外の空気に当たってきます。玄徳、聞いてたな。本格的な移動は終了だ。ここからは休んでいていいぞ」


『あざっす。手が必要ならいってください。手伝いますよ』


「じゃあ、知与たちを連れて外でちょっと日光浴でもしながら昼飯にしよう。ずっと海の中にいたからな、太陽が恋しいよ」


 周介は長い間太陽に当たらないということはあまりやってこなかった。一日に必ず太陽光には当たるのが当たり前だったために、朝になっても日の光を浴びないというのはなかなか珍しいことで体内時計が狂いつつある。


 朝食は艦内で軽くとったとはいえ、日本の時間でもうすぐ昼になろうという頃。あと一時間の休憩ということであれば、少し早いが昼食にしても問題はない程度の時間だ。


「ラビット隊各員、聞こえるか?これから外に出る。一度昼飯にしよう」


 周介は無線でそれだけ告げると、能力を発動した状態のままハッチのある方に向かい、甲板へと登っていく。


 梯子を一段一段登るにつれ、強くなってくる潮の香り。周介にはあまりなじみのない生き物の香りが、ハッチから顔を出した瞬間顔面に叩きつけられる。


「ちょっと、風強いな」


 遮るものがないからか、それとも低気圧と高気圧のちょうど間にでもいるのか、甲板上では少し強めの風が吹いていた。


 見渡す限りの青い空と青い海。水平線が僅かに弧を描いて見える。これほどの景色を見るのは一体いつぶりだろうかと周介は少し強い、全身を撫でる風を感じながら周囲を見渡していた。


 そして周介が甲板に上がりきってから少しすると、続くようにして瞳たちが甲板に上がってくる。


「いい景色ね。磯臭いのが玉に瑕だけど」


「たまに嗅ぐといい匂いだと思うけどな。さ、飯にしよう」


 こういう場所で食事をするとまた美味い。そんなことを誰かが言っていたような気がして、周介は次々登ってくる隊員たちを急かすように笑っていた。


 大海原のど真ん中。その潜水艦の甲板の上でいったいどんなものを食べればいいのかと聞かれて、周介たちはポンと思いつく提案はなかった。だが唯一、簡単にできて海っぽいものと想像すると、とあるものが頭の中に浮かんでいた。


「こんな海の上でカップ焼きそばを食うことになるとはなぁ……人生なにがあるか分かったもんじゃねえや」


 猛の言うように、周介たちは言音の取り出したカップ焼きそばを作り食べていた。周介の能力で電気は常に潜水艦内で作られている。その電気と言音の出す水、そしてケトルさえあれば、カップ焼きそばを作るのは容易なことだった。


「けどいい天気っすね……時間が許せばそれこそ釣りとかでもしてみたいもんだけど」


「一時間程度じゃ厳しいかもな。それにこの後また潜るんだ。海の景色なんて嫌というほどみられる。魚やらサメやらもたくさんいるだろうよ」


「サメかぁ……一応潜水装備はつけていくけど、追いかけられるのは二度とごめんだわ」


「大将も副隊長も、潜るのかよ」


「潜水艇を万全に動かすためには俺らが必要だからな。瞳の人形を使って細かな調査、俺の能力で潜水艇の操作。まぁ、電動でも動くけど、念のためってところだ」


 周介の発電ですでに十分以上の電力は潜水艇にも供給されている。潜水艦にも同様で周介がいなくとも問題なく一時間以上は動いてくれるだろう。


 一時間で終わればいいのだが、何か問題があった時は潜水艇を潜水艦まで帰還させなければいけない。そうなってくると周介が潜水艇に乗り込んでいたほうが安全だ。


「お前らは適当に休んでていいぞ。特に玄徳。半日以上ぶっ通しで能力使ってたんだ。しっかり休んでおけ」


「兄貴だってぶっ通しで能力使ってたでしょうに。っていうか、今も能力使いっぱなしじゃないっすか」


 周介は今もなお発電のために能力を発動し続けている。この中で今もなお能力を発動しているのは周介と知与だけだ。


「普段から能力ぶっ通しで使ってるからな。慣れてるよ」


 延々と能力を発動し続けるのはかなりの負担を強いるが、周介と知与は普段から日常的に長時間の能力使用を行っているために半ば慣れてしまっている。


 必要な時に応じて能力を使う一般的な能力者とはそこが違うのだ。練度が高くなる速度が違うのもその長時間の能力発動が原因でもある。


「とにかくだ。調査がどれくらい続くかわからないけど、場所によっては限界ギリギリまで潜らなきゃいけないかもしれない。細かく動くことはあっても高速移動はないから、せめてゆっくり休んでおけ。終わったらまたぶっ通しで移動することになるんだ。休める時に休むのも仕事のうちってやつだ」


「大将がこう言ってんだ。俺らは調査が終わるまで休んでりゃいいんだよ。どうせ動いてたってなにもできねえんだ。暇つぶしなら山ほどあるみたいだしな」


 焼きそばを頬張りながら猛はあっけらかんとそう言ってのける。玄徳からすれば周介が働いているのに自分が休むということはあまり気が進まなかったが、猛の言うように仮に出ていったとしても何もできないのは間違いない。


 何もできないというのであれば休んでいたほうが今後の仕事に差し支えないだろう。


 ただでさえ慣れない閉鎖空間なのだ。少しでも体力を温存しておいて損はない。


「知与、言音、悪いけど玄徳の世話頼むぞ。こいつ放っておくとなんか仕事探しそうだしな。適度に引っ付いて休ませてくれ」


「わかりました」


「了解っす!パイセン、休むのも仕事っすよ」


「……わかりました。お言葉に甘えて休ませてもらいます。ただ、兄貴もほどほどにして休まないとダメっすよ?」


「わかってるって。今日の夜には早めに休ませてもらうよ。さすがに夕方ごろになるとガタガタになると思うから、その時はフォロー頼む」


「あたしは比較的休ませてもらってたから、フォローはあたしがやる。知与と言音は玄徳のフォローをお願い」


「わかりました」


「任されました姐さん!」


「俺は誰のフォローもしなくていいのか?」


「お前の仕事は戦闘だ。それまではニートしてていいぞ」


「……なんかニートしてろって言われると癪だな……別に仕事がねえわけじゃねえだろうよ」


「今は休むのが仕事なんでしょ?ならニートと変わらないわ。フリーターでもいいけど?」


「物言いが嫌だって言ってんだよ。仕事が来たらしっかり働いてやるから安心しろって。この間みたいなへまはもうしねえよ」


 猛の中でもこの間の台風の戦闘はかなり悔しい記憶として刻まれているようだった。


 あれを教訓に、日々の訓練にもかなり身が入っているように見える。せっかく実戦に出ることができるのに何もできないのでは大太刀部隊として恥ずかしいという考えからか、とにかく戦果を挙げたいと思っているからか、妙に焦っているようにも感じられた。


 この焦りが成長につながってくれればいいが、妙なところで失敗する気がしてならない。


 その辺りは周介たちがフォローするしかないだろうと、ある程度の覚悟はしていた。


「はぁ!食った食った!デカ盛りとなると結構ボリュームあるな」


「ただ栄養は偏るけどね。言音、夕食は野菜系もお願いね」


「う、うっす。でもその……ぶ、ブロッコリーは、入れないようにしてもいいっすか?」


「好き嫌いはしないこと」


「……はいっす……」


 この艦の中の食事は言音の能力に依存しているところが大きい。あらかじめ積んでいる食糧だけではなく道具や食材も言音にかかれば即座に用意できるのだ。ちゃんとした食事をとりたいと思うのは人の性というものだろう。


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