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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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「三、二、一、潜航開始」


「各部注水。潜航開始。深度五十まで潜航します。速度現状を維持」


『潜航、速度維持了解っす』


 知与の合図と共に潜水艦は本来の性能を引き出すために海の中へと潜っていく。


 この船の潜航限度まで行くつもりはない。少なくとも他の船と衝突しない程度の深度まで潜り、そこから最高速度を出す予定だった。


「深度五十まであと十秒……九……八……」


「了解。目標深度に到達後水平航行へ移行する。」


「目標深度に到達しました」


「水平航行へ移行。五分後に再加速を開始」


『五分後に再加速了解っす。あとは一気に行くだけっすね』


「加速の時は注意してくれよ?あんまり負担かけ過ぎるとその分危なくなるからな。流れができるまではゆっくり加速する」


 加速するうえで飛行機よりも問題になるのは機体への負担だ。空中と違い海中、というより水中では当然抵抗が大きく、一気に加速すればその分機体にかかる負荷は激増する。


 そのためゆっくりと加速しなければいけない。


 本来であれば、一定以上の速度を出すのであれば水と触れている部分は少ない方がいいのだろう。だが、玄徳の能力を使っている状態だと、それは当てはまらなかった。


 玄徳の能力は、空間に三次元的な力場を発生させる。それを線、ラインのように引いて加速、減速を設定することができる。


 移動している、速度を持っている物体に有効な力場で、その物体が保持している速度を増加したり減少させたりすることができるわけだが、それは液体などにも適応される。


 今回の場合で言えば、潜水艦が通ることにより押し出された海水にも加速が適応されるということになる。


 物体が通れば、そこにあった水は前方面へと押し出される。玄徳の能力は潜水艦の加速の関係で前方向への加速を助長している。


 押し出された海水がさらに加速することによって、さらに先にある海水、周りにある海水を巻き込んで、前方へと進む海流を作り出すことができるのだ。そして前方へと進む海流は、その側面、周りの海水に渦に似た海流を作り出す。その海流は潜水艦が進むために都合の良い流れとなっている。


 これらが発生することで、潜水艦の航行速度はかなり上昇し、機体そのものにかかる負担が激減することになる。


 実はこの効果は飛行機に乗っているときの空気にも同様の効果が発揮されていたのだが、この効果をはっきりと確認できたのは海水の異様な流れを知与が感知したからだった。


 空気よりも水の方が抵抗が大きい関係で、知与に海流の方向などを確認してもらっていたことが功を奏した。


 この現象が発見できたおかげで海面部分ではなく、海中を航行したほうが安全で、なおかつ速度を出しやすいということも判明した。


 ドクの作ったこの潜水艦の構造上、海面にいると全てのスクリューの推進力を得にくいという欠点があったが、これのおかげでそれも解消した。


 とはいえ、やはり海中にいて、多少なりとも水の抵抗を受ける為に速度自体は飛行機などとは比べるべくもないのだが。


「機体安定。もう間もなく再加速します」


「再加速了解。細かい方向の指示は随時頼みます。玄徳、再加速準備いいな?」


『大丈夫っす。この船の最高速度を維持するように能力を強めに発動します。お嬢、機体に変なところが出たらすぐに教えてくれ』


「了解。海流、地形、機体には常に注意します」


 この潜水艦の高速移動における肝は知与の索敵にある。細かな索敵を常に行うことで、妙な海流、唐突に現れる地形的変化、そして負担がかかったことにより生じる機体の異常、それらを即座に感知し報告することができる。


 海流の報告は乗組員の安全を確保することに繋がり、地形の報告は座礁の危険を軽減することができ、機体の異常の報告をすることで安全な航海を続けることにつながる。


 この潜水艦には機関員として製作班の人間も常駐している。彼らに頼んで異常を解決してもらうことも可能だ。


 もっとも、いきなり座礁して機体そのものが航行不能レベルに陥ったらそうもいかなくなるわけだが。


「再加速します。全乗組員はどこかに掴まっていてください。玄徳、行くぞ」


『行きます。お嬢、カウント頼みます』


「了解。五、四、三、二、一、再加速」


 知与の合図とともに潜水艦が僅かな振動と共に乗組員に加速していることを知らせる独特の圧力を生み出す。


 だがそれも十秒程度で終わる。つまり玄徳の加速が安定し、高速での航行に移行したことを示していた。


「高速航行に入りました。目標地点まで現状速度を維持。ここからが長いよ?よろしく頼む」


「えぇ。玄徳、この状態を維持だ。適度に気を抜きながらうまくやれよ?」


『大丈夫っすよ。あとで適当に食い物とか持ってこさせます』


 あとは目的地まで移動するだけ。とはいえ若干の方向転換などもあるだろうがそれらもほとんど問題はない。


 艦内の人間も少し気を抜きながら現地への移動の中でそれぞれ休憩をとるようにしていた。


「このペースでいけば、日本時間で明日の十一時頃には到着できそうだ。調査メインの人たちにはもう休んでもらおう。東京湾じゃなくて、千葉とかの港で出られればもう少し早く到着できたかもしれないけど」


 東京湾を抜けるために安定した速度での航行を余儀なくされたこともあって、周介たちの航行には多少の遅れが見込まれていた。


 とはいえそれでも通常の船や潜水艦に比べれば格段に早い。潜水艦の規模を考えれば規格外の速度であることに変わりはないのだ。


「順調に進めばいいですけどね。あと半日はこの潜水艦の中で缶詰になるわけか……いやぁ暇だ!何かあれば呼んでください。それまで俺も暇をつぶしてます」


「大丈夫なのかい?航行に問題がなければいいけれど」


「この船の中身は何となくわかってるので、航行に問題はありません。細かい微調整があればその場で対応しますよ。知与も適度に休んでおけよ?ここから長いし」


「了解です。海図からして、この辺りで突出した地形は見かけられませんし、問題はないと思います。深度をもう少し上げてもいいとは思いますけど」


「まぁな……でかい船でも深さ……二十メートルとかそのくらいだろ?五十メートルも潜ってるから……まぁ、もうちょっと浅くにいてもいいかもな」


 基本的に船の深さは船底から上部甲板までの距離だ。大きめの輸送船などであれば深さは二十メートル前後。万が一それらとすれ違っても、今周介たちのいる五十メートルもの海中にいれば接触することは万が一にもあり得ない。


 むしろ海底がせり上がっている場所があった場合そちらに接触する可能性があるだろうが、地形の変化には知与が目を光らせている。


 とはいえ、常に索敵をしている彼女の負担を減らすためにも多少浮上してもいいかもしれないが。


「索敵に関してはこちらでソナーなども使っている。海図もある程度あるから索敵は休んでいても問題はないよ?何せこっちには索敵に特化したノーマン隊の人間もいるんだから」


「あの人たちは調査に来たんですから、俺らの仕事を手伝わせるのはどうなんです?」


「これから長い時間暇をしているんだ。眠るにしたって、この中じゃ寝られない人だっているかもしれない。それならっていう人はいる」


 周介たちは移動することになれているため、潜水艦の中でも問題なく休むことはできるだろうが、そうではない人間もいる。


 特にこの潜水艦の中の独特の揺れは慣れない人間にとっては非常に不快に感じることだろう。


 飛行機とも船とも車とも違う。何というか、大きく揺さぶられているようにも感じられ、細かく振動しているようにも感じられる、独特な揺れを持っている。


 作業をしているときはあまり意識しないが、休むとなった時にはかなり精神的にも肉体的にも負担になるものはいるだろう。


 船酔いなどになる可能性もあるため、確かに何かしら仕事をしていたほうがまぎれるというのはあるかもわからない。


「うちの言音に言えば何かしら暇つぶしとか出してもらえますし、休んでたほうがいいんじゃないですかね?神経削るよりはいいでしょう。っていうか瞳たちは今何してるんだ?」


「部屋でゲームやってます」


「ほら、俺らの部隊でも動かない奴らは基本暇してるわけですよ。動かない人たちは少しでも体を休めてもらったほうがいいです。体調が悪くなるならなおさら。何なら酔い止めとか言音に持ってきてもらえばいいわけですし」


 この中で言音だけは拠点との行き来ができる。もっとも体そのものがすべて出てしまうと、言音曰く出入り口を探すのが面倒になるとのことだったので、どこかしら体は繋げた状態で、以前のホラー描写のように上半身だけ拠点に戻るというようなことをしなければならないのだろうが。


「百枝君達はこういうことになれているみたいだね。長時間の移動というのは、結構ストレスになるものなんだが」


「俺らの中で慣れてないのはたぶん猛くらいじゃないですか?それ以外は世界一周経験してるんで、それに比べればまだまだましな方ですよ」


 あの時は飛行機での一周だったが、それでもかなり神経をすり減らしたのを周介は覚えている。


 ちょっとした面倒事もあって、あの時はなかなか疲れた。それは周介だけではなくあの場にいた全員だ。


「ともかく、予定時間まで浮上はなし。もし位置関係を知りたくて浮上するなら声をかけてください。その時はすぐにここに来ますから」


 操舵室、ブリッジとでも言うべき場所に周介たちは今いる。各方面の情報が一か所に集中する場所であるため状況判断をするには最適な場所だ。


 潜水艦を動かしているだけの周介にはあまりいる必要のない場所でもあるが、他の人間は、この潜水艦の情報を確認している機関員にとっては重要な場所だ。


 何か指示を出すには、やはりこの場所が最適でもある。船のほぼ中心に位置しているこの場所なら、どこからでもすぐに来られるのも利点の一つだ。


「わかった、何かあったら知らせよう。そちらも何かわかったら教えてくれ」


「了解です。ひとまず艦内を一回りしてきますよ。いろいろありそうですし」


 周介はそういって操舵室を出ていく。狭い通路の中には配管などが張り巡らされており、機械の中にいるということを実感させられる。


 巨大な機械でできた生物の体内にいるような、そんな印象さえも与える光景だ。ひとまず周介が向かう先は決まっていた。


 これから使うことになるであろう格納庫。そこにある小型の潜水艇である。


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