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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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 その週の金曜日の夜。周介たちは所定の場所に集まっていた。場所は横須賀の海上自衛隊基地。すぐ近くにアメリカの海軍基地などもあるその場所は、普通であれば一般人は立ち入るようなことなどない場所だ。


 そんな場所にやってくるからには、子供だけでは立ち入ることはできない。その週の放課後は車でドクと一緒に毎日のように訪れていたため、ある種顔見知りのようになっているが、それでも顔パスなどにはなってくれなかった。


 港の一角にたどり着くと、そこにはすでに何人もの組織の人間が集まっていた。


 今回周介たちと一緒に行動することになるノーマン隊の人間だ。その中の何人かはすでに潜水艦の試験運用中に何度か顔を合わせてある。


「やぁみんな。待たせてすまなかったね」


 車からドクが降りると、全員がドクの方を向く。そして周介たちが降りてくるのに合わせて全員がそれぞれの荷物を持ってくる。


「はーい、荷物預かるっす!皆さんこの中に入れてください!必ず名前書いてあることを確認してくださいね!」


 言音が自分のカバンのチャックを大きく広げると、次々とその中に自分の荷物を放り込んでいく。


 言音の能力は本当に現地行動が楽になる。彼女がいるかいないかで、行動の幅が大きく変わるのだからありがたい能力だった。


「風見さん、百枝君、今日の航海の確認をしておきたい。いいかな?」


 今回の行動における航海士、および操舵手としてやってきているノーマン隊の人間に、周介とドクは小さくうなずいて応対する。


「本日二十一時に出発。現地への到着は……この艦の最高速度を維持できたとして、明日の朝から昼頃を目標としている。天候の影響にもよるだろうが、今のところ現地までの天候は安定している。このまま安定した天気でいてくれればありがたいけれど」


「まぁ、明日の朝に無理につく必要はないんだよ?一度休憩をはさんでもいいわけだし」


「二千キロ程度ならそこまで影響もないだろうけれど、時差の影響も多少はある。大体一時間程度の時差だろうか。到着と同時に、調査部隊は行動を開始する。逆に私たちは仮眠をとることになる。ただ、昼夜逆転するのは行動にも支障をきたす。基本は昼間に起きて夜に寝るという形をとりたい」


「大丈夫です。一日徹夜くらいなら問題ありません」


「若さか……羨ましいな……この歳になると徹夜はきつくてね」


「まぁまぁ、とりあえず航海については任せるよ。さすがに周介君達も大海原で何の指標もなく漂うのはつらいだろうからね」


「すいません、航海術でも持ってればよかったんですけど、そういうのはわからないです」


「ははは、大丈夫。そのあたりは私が上手くやるさ。あと三十分で出航だ。それまでに全員中で待機してもらって……あぁ、百枝君には発電も頼むよ」


「了解です。じゃあ俺たちはさっさと乗り込みますか。ラビット隊!全員乗りこむぞ!中の最終チェックと出発準備!」


 周介の言葉に瞳たちが港の一角にある潜水艦の方へと移動していく。周介たちが乗る潜水艦はドクの資料の通りの外見をしている。


 船の船底を切り取ったような逆三角形の形状ではあるが、流線型の装甲に加え、上部には乗り込み口となる突出した部位が出ている。


 全長約百二十メートル。全幅十五メートル。潜水艦としては割と大型の部類に入るが、その形状が特徴的だ。


 仕様書にもあったことだが、通常の潜水艦が涙滴型の船体中央部を延伸するような、胴部分を長く太くする形状に対し、この潜水艦は先端を細く、後方に至るにつれて徐々に太くなるような形状をしている。


 それも、ドクの実験的な試みなのか、後方部分にいくつものスクリューを取り付けたいが故の理由なのかもわからない。


 三角錐に近い形状をしていながら、ところどころに翼にも似た舵に加え、航行の際水の抵抗を受けにくいような形でサイドスラスターが複数取り付けられている。


 海の上を平面的に動き回るのではなく、海の中を三次元的に、高速で動き回るための仕様になっているのだ。


 周介たちは潜水艦に乗り、上部ハッチを開いてその中に入っていく。準備中に何度か入ったが、中に入ると外見とはまた打って変わった内装が飛び込んでくる。


 配管や計器が取り付けられ、どこを見ても何かの機械が取り付けられているのがわかる。機関員でなければこれらの意味を理解することはできないだろう。


 夜ということもあって非常灯しかついていない薄暗い艦内を見て周介は即座に内蔵された発電機を駆動する。


 電力が供給されてくると、先ほどまでうっすらとしか見えなかった機械の数々が周介たちを迎え入れてくれる。


 とはいえゆっくりしている暇はない。あと三十分程度で出航なのだ。


「皆さんどうぞ!明かりはつけたのでどんどん入ってきてください!」


「ありがとう!それじゃあ乗り込むぞ!風見さん!それでは!」


「あぁ!気を付けて!何かあったら連絡を!」


「緊急の時は言音を使いに出しますんで!」


 海上で万が一無線が通じなかったとしても、言音の能力で一気に拠点に戻ることは可能なのだ。


 そういう意味では安全は確保されていると思いたい。少なくとも死ぬことはないはずだ。


「よし、機材の最終チェックだ。百枝君、加賀君、小島君、頼んだよ」


「了解です。瞳、言音と一緒に皆さんの道具関係の準備頼む。猛もな。それが終わったらあとは好きにしててくれ」


 実際に船を動かす周介や玄徳、機体のチェックをする知与以外は今行動する必要はない。まずは休むことが大事でもあるため、周介は軽く指示しながら乗組員たちと最後のチェックを進めていた。


「現時刻二十一時を回りました。それでは出航します。出力上昇。微速前進」


「微速前進了解。メインスクリュー一番、四番稼働。前進開始します」


 地図と座標を確認し、常に現在位置を意識しているノーマン隊の人間の指示を復唱しながら周介が潜水艦を動かすべく能力を発動する。


 スクリューの稼働により独特の音を艦内に響かせながら、ゆっくりとではあるが潜水艦が移動を始める。


 最初こそ僅かに揺れたものの、その揺れを周介は操作によってうまく緩和していた。


「進路三時方向、南東へ、面舵一杯。」


「面舵一杯。進路南東了解」


 まずは横須賀から神奈川県と千葉県の間にある東京湾を抜けなければならない。この辺りが一番危険でもある。


 陸も近く、他に船舶も多い。ここで事故を起こすのが一番怖いところだったが、練習の合間に周介はここを何度か通っている。最初こそ戸惑ったものの、十分以上な広さもあるため互いの距離を常に意識していれば問題はなかった。


「再度面舵。一時方向進路を南へ。その後航行速度上昇しながら前進」


「進路南へ面舵。完了後加速前進了解」


 最も狭くなる部分を超えてから周介たちを乗せる潜水艦はゆっくりと加速態勢に入っていた。


「メインスクリュー二番、三番稼働開始……一番から四番稼働完了。これより東京湾を通り抜けます」


 東京湾から太平洋に出るといってもそれだけでも三十キロ以上あるのだ。もたもたしていたらそれだけ時間を無駄に使うだけ。周介は潜水艦を加速させながら自身も地図と現在位置を確認し続けていた。


「久里浜を通過。進路を一度南南西へ一時方向面舵。千葉県南端部を超え次第、取り舵一杯、進路を東南東へ変更する」


「面舵、進路南南西。千葉県南端部を超え次第進路を東南東へ変更、取り舵了解」


 東京湾から東の海に抜ける場合、東京湾を抜けてから千葉県を越えていかねばならない。多少回り道になってしまうがこれも海路の限界というところだ。


 前の時は操舵はやっていなかったため、周介としては初めての操舵となる。といっても実際は能力を使っての操作であるため普段の能力使用とあまり変わりはないのだが。


「すげぇな、これ本当に全部大将が動かしてんのか?」


「全部じゃないな。発電機と舵とスクリューくらいだ。あとの細かい機械は全部内蔵してあるシステム管理。俺はアナログ部分を動かしてるだけだよ」


 周介の能力はあいにくとデジタルな部分には干渉はできない。回転できる部分だけを操作しやすいようにドクがコンパクトにまとめてくれているおかげで何とか動かせてはいるものの、それでもこの大きさだ。慣れるまでだいぶ時間はかかった。練習の時間があってよかったと本当に感謝している。


「けど、このペースだとだいぶゆっくりだぜ?このままいくわけじゃねえだろ?」


「もちろん。ある一定まで進んだら玄徳の力も借りて加速する。その時は全体にアナウンスするから……っと、そろそろか?取り舵一杯。進路東南東へ変更」


 周介の言葉と共に潜水艦がゆっくりとではあるが確実に揺れる。周りの波に逆らって動いているとはいえこの巨大な潜水艦だ。多少の影響を受けて小さく揺れる程度で済んでいるのは周介の操作の練度が高いことも理由として挙げられる。


「進路東南東へ。能力による加速を開始」


「了解。進路そのまま。能力による加速を開始します。全乗組員へ。これより能力を使用した加速を実行します。揺れなどは最小限にするよう努力しますが、念のため近くのものに掴まるか、座った状態でいることをお勧めします」


 周介が艦内無線でそう告げると、艦内にいた人間は次々と座るか近くの手すりなどにしがみつきつつあった。


「玄徳、こちら周介。準備はいいか?」


『問題ないっす。いつでもどうぞ』


 玄徳は既に能力が発動しやすいように艦内の最前の位置に移動している。無線ですでに準備万端であることを告げられ、周介は近くにいる全員に目配せする。


「ではこれより能力加速を開始する。カウントダウン。加速五秒前。五、四、三、二、一、加速開始」


 周介の合図とともに玄徳が能力を発動し、潜水艦全体が先ほどに比べ著しく加速を開始する。


 とはいえまだ日本近海だ。それほど速度を上げてしまうと危険でもあるうえ、一気に加速すると慣性を受け止めきれずに中にいる人間が酷い目に遭う。


 まずはゆっくりと、確実な加速をするのが日本近海における前提だ。


 加速による圧力を全員が受け止めつつある中、再度位置を確認しながら周介は知与に視線を送る。


「損傷ありません。このまま行けます」


「了解。行けます」


「了解。第一加速を完了。現速度のまま前進。一定海域を超えてから第二加速を開始する。第二加速準備。加速予定時刻は約二十分後」


「第二加速準備了解。玄徳、大体二十分後に第二加速。それまで現状維持」


『二十分後再加速、それまで現状維持了解っす』


 互いに情報を伝達しながら、周介は近くにある椅子に座り込む。


「あとは、どのタイミングで潜るかですね」


「再加速が完了する前に潜るようにしたい。タイミングは……君らに任せた方がいいかな」


「了解です。玄徳、再加速の前に一度潜航しておく。知与、周辺の海流を読んで安定したタイミングで合図頼む」


「了解しました。三十秒前に合図します」


 周介たちは連絡を取り合いながらそれぞれの役割をこなしていく。この時点で仕事のない三人はそれを眺めていた。


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