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「さて、方針が決まったところで、今後の方針を伝えようか。出航は今週末。それまで放課後に分散する形で準備をしてもらうことになるよ。必要物資の運搬と装備の確認と運用テストは念入りにやりたい。君たちの放課後はしばらく潜水艦関係の仕事でいっぱいだ」
ドクのそんな言葉と共に映し出されたのはこれからの周介たちの行動予定だった。主に潜水艦内に備蓄するための食糧、装備、そして搭載する小型潜水艇。これらは言音などの力を使えば運搬、収納も可能だが、潜水艦そのものに搭載することでさらに備蓄量を増やせる。
今回は長距離航海になる。かかる時間こそそこまでではないというものの、万が一という事態は常に考えなければならない。
そういう意味で、装備の運用試験は実際に活動することになる周介たちが入念にやることに異論はなく、必要な物資を運搬することもまた、周介たちの十八番というべきものだ。断る理由は一切ない。
「ドクター、一つ質問。その潜水艇の内部構造はどの程度のものです?中で眠ったりすることは可能ですか?」
「あぁ問題ないよ。最高級のホテル、とはいかないけれど、最低限眠れるような施設は完備してある。さすがに個室までは用意できないけれどね。二段ベッドやらハンモックやら、まぁ君達ならどこでもぐっすり寝られるんじゃないかな?」
「実は枕が変わったら眠れないって言ったら、改善してくれるんですか?」
「そのくらいならいくらでも。最高級の羽毛布団でも搭載しておくとしよう。他に要望があれば、多少の改修くらいなら可能だよ?」
「じゃあどっかに暇つぶし用のモニターを頼めますか?兄貴がいれば発電は問題ないでしょうし、ゲームやらができるとありがたいっすね」
「半日近くの航海だもんね。けど玄徳、あんたこの間の船の時は結構神経使ったって言ってたじゃん?ゲームしてる余裕あんの?」
「任せてくださいよ姉御。船の加速の仕方は何となく慣れました。潜水艇も似たようなもんでしょう。お嬢が機体の状態を常に確認してくれれば、限界速度も何となくわかるでしょうし」
「飛行機に比べると水の抵抗がある分負担がどこにかかってるかはよくわかると思います。速度の調整は周介さんと玄徳と一緒に初期チェックの段階で済ませます。当日は最速で現地までたどり着けるようにしますよ」
輸送船を本来の倍以上の速度で航行させたり、個人用装備で空を飛んだり、飛行機で世界一周したり、その飛行機で音速を超えさせたりと、周介達ラビット隊は乗り物に関して言えばかなりの経験を積んでいる。
あらかじめ機体のチェックまでできるのであれば、当日最高速度を維持するのは周介たちにとってはそう難しい話ではない。
「君たちが頼もしくなってくれて大変うれしいよ。これなら世界中のどこにだって行ける。いや、もう世界一周しているんだったね」
「まだ宇宙には行っていないですけどね。俺の能力じゃ宇宙進出は厳しそうです。それよりもドク、潜水艦と潜水艇の仕様書と、当日までのスケジュール表、あとでデータで送ってください。目を通しておきますので」
「了解したよ。周介君と小島君は特に仕様書の方をしっかり読んでおいてほしい。実物を見るよりも前に、頭で情報をイメージしておいてくれると助かるね。あとは……あぁそうそう。一応お願いしておくけど、あんまり潜水艦の写真とかはとらないようにね。海底の写真も同様だ」
「SNSにでもアップすると大変ですね。潜水艦の中なんて一般人じゃ見られないでしょうし……今回の出発はどこですか?」
「今回は横須賀だよ。海上自衛隊の港を貸してもらっている。何せ潜水艦の規模が規模だからね。簡単に動かせるものじゃないのが欠点かな」
「そりゃ大層なものを作ったもんですね。まさかとは思いますけど、魚雷とか積んでないでしょうね?」
「あいにくとそう言う武器兵器の類は積んでないよ。積んでおいたほうがよかったかい?」
「いえ、そういうのはいいです。それと、この間の飛行機の時みたいに海外の連中からやっかみを入れられることもないでしょうね?」
「そこは安心してほしい。もうあんなのはこっちもごめんだよ。もし君たちが潜水艦ごと沈むことがあったら大損害だ。潜水艦は捨てて即座に離脱してほしい」
「離脱させてもらえればいいですけどね。念のため飛行用装備も用意しておいたほうが良さそうですね」
「念には念を入れておいていいと思うよ。何せ大海原のど真ん中。君たちがいなくなったら帰ってくる手段がない。一緒に行くノーマン隊たちも移動できなくなるだろうからね」
周介たちが動力を担うということはそういうことだ。軽く仕様書を見た限りだと周介の発電くらいしかまともな動力はついていないように見える。
そういった機構を外したことで容積を増やしているのだろう。緊急事態の時の脱出手段は用意しておいて損はない。
場合によっては水上機に似た飛行機でも用意してもらわなければならないかもしれない。
周介達ラビット隊だけではなく、一緒に行動するノーマン隊や船の操縦を行う者たちの命も周介たちは預かっているのだから。
「せっかく海に行くんだから釣りとかしたいね。泳ぐのは……もう時期的に無理かな?」
「俺が生身で出るとサメが来そうなイメージしかないんだよなぁ……しかも太平洋沖だろ?絶対食われる」
「その時は雑用が囮になってくれるでしょう。なぁ?」
「サメ相手に戦えってか?まぁやってやれないことはねえと思うけどよ」
実戦を何度も経験している周介たちは太平洋沖に向かうとなっても全く物怖じしていない。もはや慣れたという奴なのだろう。周介たちにとってどこか遠くに行くことは半ば当たり前のことになりつつあるのだ。




