0818
「さぁ諸君、集まってくれてありがとう!これからブリーフィングを行う。ラビット隊への任務、今度の目的地は海だ!太平洋だ!海のど真ん中で海の底を目指しに行こう!」
文化祭が終わってすぐ、周介たちはドクの要請により会議室に集められていた。
ドクのテンションは割と高いのだが、あいにく周介たちはそのテンションについていくことはできなかった。
「海の底に行くのはいいですけど、使用する道具とか、一緒に行く人数とかを早いところ教えてください。事前の準備も手伝わないとでしょうし」
「うん、テンションは上がらないみたいだね。はいそれじゃあ説明に入るよ。今回君たちが向かうのは太平洋沖約二千キロ地点。細かい位置関係は一緒に行くチームの人に頼んであるから、現地までの移動と調査の手伝いが君たちの主な仕事になる。移動は今回作成した潜水艦。規模は大きいけど構造自体は単純なものさ」
パソコンによってプロジェクターに投影される画像にはドクの作成したと思われる潜水艦の姿がある。
通常の潜水艦が長方楕円形をしているのに対し、この潜水艦は楕円というよりも三角錐のそれに近い形状をしている。
船の船底部分を切り取って、上部分を塞いだような、そんな外見をしているのが特徴だった。
「二千キロっつーと……船?潜水艦?でどれくらいかかるんだ?確か……東京から大島までが……大体一時間……四十五分くらいだったっけか?ってことは……」
「あぁ、ジェット船だね。時速八十キロ程度だからそのくらいかかるかな」
「ってことは……えーと……二十五時間かかるのかよ……片道丸一日以上?」
猛は即座に計算して驚いているが、周介たちはそんなはずはないだろうと理解していた。
何せあの輸送船でさえ時速百キロ近く出したのだ。そんな遅いものをドクが作るはずがない。
「まさか、僕がそんな時間のかかるものを作ると思うのかい?今回周介君に乗ってもらう潜水艇の最高速度は、時速約九十キロ。まぁ、これはこの機体だけの話でね。加賀君の能力を使ってさらに加速してもらう。目標は半日くらいで到着する感じかな」
「半日って……ノンストップで百七十キロ以上出せってことかよ……」
「不可能じゃないと思うよ?まぁ機体がどれくらいもつかっていうところも気がかりだから探り探りになるだろうけどね。最初は大きな水上機を輸送機みたいにして空を飛ばすことも考えたんだ。けどやっぱりここは潜れたほうが楽になるからね。機材の関係もあるけど、海底調査のための利便性を考えて潜水艦にしたんだ。そのほうが楽しそうだし」
空を飛んでいいのであればかなり楽になっただろう。言音の能力を使えば、以前使った潜水艇程度であれば余裕をもって収納が可能だ。
運搬のためというよりは、作業をしやすくするためと、ドクの趣味のようなものがあるのだろう。どちらかというよりは、趣味の方がより強いのだろうが。
「今回一緒に行ってもらうのはノーマン隊の地質調査を専門にやってるチームでね。小型の潜水艇をこの潜水艦に格納して行ってもらう。海底に潜ってからその小型艇を出発させて細かな調査をするって寸法さ。ここまでで何か質問は?」
「はい、作業は具体的には何をするんですか?」
「今回はプラント建設のための地質調査が主な目的になるからね。海底部分の地質調査のためにいくつかデータをとってきてもらう。もっとも、それもノーマン隊がメインになってやるから、君達は気にしなくても大丈夫だよ」
「はい、この潜水艦、高速で動くときは潜ってたほうがいいんすか?それとも浮かんでたほうがいいんすか?」
「君の能力を考えると浮いてたほうが速いだろうね。でもぶっちゃけるとこの形状だろう?潜っていても顔を出していてもそこまで速度は変わらないんじゃないかと睨んでる。少なくとも潜水式でテストした時はそんなに変わらなかった。波とかの関係もあるから一概には言えないけどね」
普通であれば、水の抵抗を受ける潜水時の方がかなり速度に制限がかかるような気もするが、玄徳の能力、物体を加速させる能力を発動した状態だとどのように作用するのかが不透明な部分もある。
空気であればそこまで影響を及ぼさない玄徳の能力だが、水の中ではまた違った加速方法をする可能性もあるためなんとも言えないらしい。
ぶっつけ本番というのが地味に怖いところだったが、玄徳は特に気にした様子もなかった。
「調査するポイントはどれくらいあるんです?」
「ぶっちゃけかなり多いよ?多分丸一日かけて終わるかどうかってところだね。周介君が動力になってるようなものだから、ぶっちゃけかなり暇な時間が増えると思う」
「あれ?予備動力とかは?潜水式でどうやってテストしたんですか?」
「その辺りは念動力が使える能力者に協力してもらったよ。発電と蓄電設備ももちろんあって、それを動力にすることも可能だ。気を付けてほしいのは定期的にちゃんと空気交換してほしいってところ。長時間潜水艇での行動は初めてだろうからね」
「まぁ確かに。前の時はそこまで長くなかったですもんね」
「大将たちは前にも潜ったことあるのか?」
「一度だけ。サメに追い回されて死ぬかと思った」
あの時の恐怖は今でも周介は覚えている。映画の世界でもあるまいし、本物のサメに追いかけまわされるのはあれっきりにしてほしかった。
「あぁそのあたりの対策もしておくから大丈夫。今回はでかいソナーを取り付けておくからさ。まぁ生身で受けたらかなりやばいけど」
「大音量を体で直接受けたらきつそうですね。っていうか今回は生身で出なくてもいいんでしょう?調査なんだから俺らいらないでしょうし」
「まぁね。まぁ、本当はそのつもりだったんだけどさ」
ドクの言葉に、全員が何かあるのだということを察する。単純な調査だけであれば話は早く済んだのだろうがそうはいかないらしい。
「そういえばなんかついでにみたいな話してましたね?何をさせるつもりなんです?」
「ん……これに関してはちょっと気になることの調査って言ったほうが正しいかな?この間の台風を覚えているかい?」
「……えぇ、ちょっと忘れられそうにないですけど」
「あぁごめんごめん、君達が外で活動した奴じゃなくて、ぎりぎり本州直撃しなかった奴の話さ」
周介たちがドットノッカーと追いかけっこをした台風ではなく、その後にも何度か台風は発生していた。
幸いにも本州を直撃するようなことはなく、どれも東へ西へと逸れていったのは記憶に新しい。
「本州こそ直撃しなかった台風だが、日本の経済水域にある無人島はいくつか通過していてね。その中の一つが、大きな崖崩れを起こしたそうだ。そして報告書に、ちょっとおもしろい報告があってね。海水が蒼く光って見えたそうだ」
蒼く光る。その単語は周介たちにとっては身近であり、警戒するべきものだ。この内容こそが今回の本命だといってもいいほどに。
調査のついで、などというものではない。それだけの意味を持っている。
「ただそれも台風の間のわずかな時間だけ。それも島の一角だけときた。その後何度かその島の周りを通ったが、残念ながらその現象は確認できなかったらしい」
「それは、誰が確認したんですか?」
「君達も知っているだろう?うちの海洋プラントの潮屋だよ。まったくフィールドワークが好きなのは相変わらずさ。運営してるくせに台風にでも船を出すんだからあいつは」
潮屋のことは周介も覚えている。組織が運営している海洋プラントの最高責任者ではあるが、非常にラフな格好をしてドクと口喧嘩をしていた。
海の男という印象が強く、周介たちを頼もしく迎えてくれた人物でもある。
「潮屋さんからの依頼ですか」
「依頼……でもあり、組織としては確認しなきゃいけない内容でもあるね。僕らの見立てでは、台風の時に発生した崖崩れで何らかの生物が能力を発動させたんじゃないかと思ってる。つまりこの場所には能力を有した生物がいるとみて間違いない」
「がけ崩れが起きたって言ってましたけど、その後の島の状況は?地形的に何か変わった点とか」
「うん、潮屋曰く、崖崩れの影響で今まで入れなかったような洞窟が見えているらしい。写真も撮って来てくれた。ただ万が一を考えて一定以上は接近していない。一応この島にはもう何十年も人は住んでいない」
かつては人が住んでいたのかと考えながら、周介たちは映し出された写真を見る。かなり遠くから撮影したためか、若干ぼやけている部分はあるものの、確かに崖崩れの影響か、土砂、いや岩壁が抉れているような場所がいくつか散見される。そしてその下、ちょうど海の水が岩壁を洗っている箇所に一か所、空洞のようなものがあるのが確認できる。崖崩れの影響で、ふさがっていた部分が開いてしまったのだろう。
「台風の時の、海水が蒼く光っているっていう状況の写真は?」
「残念ながらそれはないんだ。ただ、その時調査に出ていた複数人が同様の報告をしている。というか、もしあいつがそんな嘘を報告をするようなら僕としてはあいつを嘲笑ってやるつもりだけどね!」
互いに挑発しあっていたところを見ている周介たちからすれば容易に想像できる光景だ。
だが実際に起きたという客観的な証拠がなくとも、本当にそれが起きたと信じられるだけの確信がドクにはある。
口悪く言い合っていても、互いのことを信頼しているのが見て取れる。あいつはそんな嘘はつかないし、そんな見間違えなどしない。それを理解しているからこそ、次いでという名目で周介達ラビット隊を動かす手はずを整えた。そんな風に見えてしまった。
「台風の時以降発見されてないのであれば、もう死んでる可能性もあるってことっすか?」
「否定はできないね。ただ、死んでいると油断して動くよりは、生きていると仮定して警戒したほうが安全だとは思う。まぁ、安全かどうかはさておくけど……そのあたりは君らの隊長の判断に任せようか?」
その場にいた全員の視線が周介のもとに向かう。どのように考えるべきかは現場を調査する部隊の隊長である周介が判断することだ。
その判断に従うのが隊員の役目であると、そう皆がわかっている。
「生きていると仮定して進みます。場合によってはその洞窟そのものを潰すことも視野に入れますが」
「潰す……というのは……」
「物理的に塞ぎます。少なくとも人が入ることができないように。死体のあるなしに関わらず、確認できたとして、できなかったとしてもです」
「そこまで?一般人の人が無人島に行くことなんてそうそうないと思うけど?」
「テレビとか見てると、普通に無人島で活動してたりするタレントさんもいるんで、将来そういう場所に選ばれないとも限らないでしょう?なので塞いでおきます」
「あぁ、なるほどね」
将来的にどこで誰が何をするかなどわかったものではない。それを考えれば誰も入れないように念入りに塞いでおいて損はないだろう。
「じゃあ、爆薬持っていかなきゃね。ドクター、その辺りの破壊は許可してもらえるんですよね?」
「んー……自然破壊はなるべくしたくはないけど、事情が事情だしね。うん、わかった、その辺りは僕が何とかするよ。ないと思いたいけど、そこに一般人が入り込んで事故が起きるよりは、この間の台風で一緒に潰れたっていうほうが説明は楽だろうしね」
一般人がどのような行動をとるのかは周介たちだってわからない。もしかしたら船を使って今回の無人島にやってくるかもしれないのだ。




