0816
結果から言えば。猛は時間制限以内に周介を見つけることはできなかった。
大量の人がうごめく敷地の中、どこを向いても人がいる人の森の中。それでも一人の人間を、見知った人間を見つけることくらいはできると思っていた。
隠れているのであればなおのことだ。この校舎は、この敷地はかつて猛が通っていた場所でもあるのだ。
隠れやすい場所や、人通りの少ない場所、人の目の死角になる場所などはよく知っている。
それらを見て回った。走って探した。だが、その何処にも周介はいなかった。
二日目の終了を告げるベルが校内に響き渡る。この音を聞くのも一体いつぶりだろう。そんなことを考えながら、猛は中庭のベンチに座り込んでいた。そしてそれを待っていたといわんばかりに、手越たちが猛のもとにやってくる。もちろん、満面の勝ち誇った笑みを浮かべて。
「俺らの勝ちっすね。今度焼き肉奢ってください」
「安いやつでいいっすよ!その代わりに食い放題でおなしゃす!」
「ただ今回は俺らに有利過ぎたかもね。あれを見つけろっていうのはちょっと酷だよ」
笑いながらそういう三人を見て、猛は隠そうともせずに舌打ちをする。
「で?大将は結局どこにいたんだよ。挨拶だけして適当に回るつもりだったのによ」
「あぁ、百枝なら……あぁいた。おーい!こっちこっち!」
手越が声を上げて呼び込むと、顔を拭きながらこちらにやってくる周介の姿があった。すでにジャージに着替え、化粧もすべて落としている。ずっとウィッグをつけていたこともあって、髪の毛は変な形で固まってしまっているが、普段通りの周介がそこにはいた。
「おい大将!今日ずっとどこに隠れてたんだよ!探しちまったよ!」
「隠れてないよ。ずっと校舎内を歩き回ってた。宣伝係だったんでな」
「宣伝係……ってそうか……!歩いてたのかよ……!行き違いばっかりしてたってことか?」
「っていうか何度かすれ違ったぞ?全然気づいてないみたいだったけど」
「マジか!嘘だろ!さすがにすれ違ったら気付くぞ!」
「いや、あれで気づけたらすごいと思うけどな」
周介はずっとコスプレをしていたのだ。あの状態を見て即座に周介だと気付けた者はほとんどいない。大抵は凝視したり、しっかり観察してようやく見抜いた程度なのだ。
すれ違う程度で気づくことができたのは鬼怒川だけだろう。葛城校長でさえ、しっかり観察してようやく気付いたのだから。
周介であるという認識を抱けるのは、よほど周介と一緒にいた人物か、よほどの観察力を持ってるか、それらを超越した感覚か能力を持っているかのどれかだけだ。
「ありがとうな百枝、お前が上手くやってくれたおかげで俺ら焼き肉奢りだ」
「おいなんだそれ!俺も焼肉!っていうか俺だけじゃないだろ。白部も協力してくれてたんだし」
「協力っていうかあれ一緒に歩いてただけでしょ?協力っていうの?」
「まぁ二人で歩いてるとばれにくくはなるよな」
「わかったわかったわかったよ!全員に焼き肉奢ってやればいいんだろ!くそ、こんな賭けするんじゃなかった……」
寮に住んでいる周介と手越からすれば、焼き肉などはなかなか食べることのできないご馳走だ。外食そのものがあまりできないため、こういうのは本当にありがたい。
「俺ら三人に百枝に白部、一気に六人編成になったな。こりゃ結構な額が吹っ飛ぶぞ?」
「食べ放題だから、えっと一人三千円?四千円だとして、二万四千円か。ちょっと申し訳なくなってきたな」
「確かにな。年上とはいえその額をたかるのは申し訳ねえ気もする。勝負事で吐いたつばを飲み込めるような人物であれば撤回してもいいんだぜ?」
「ざっけんな。年下相手に吐いた唾飲めるかよ。勝負には負けたんだ。きっちり奢ってやる。ただし本当に安いところだからな!」
「わかってますって!っていうか百枝、お前隊長なんだからもうちょっと仕事に連れていってやったらどうだ?そういう仕事お前のところだったらいろいろあるだろ」
「あぁ、文化祭が終わったら一仕事あるぞ。ちょっと長めだから、いい金になるんじゃないか?」
「マジか!やったぜ。大太刀と違って仕事が多いのが小太刀の利点だな。たぶん収入一気に上がるな俺」
大太刀部隊はそれこそそれなり以上の規模の戦闘でも想定されない限りは配置されることはない。現場に出なければ基本的に給料などないに等しいのだ。ただし現場に出ればかなりの額が危険手当として与えられることになる。もちろん基本給などもあるようだが、そんなものは現場に出る額と比べれば雀の涙ほどでしかない。それが大太刀部隊の貴重な収入源でもある。
小太刀部隊の場合は、現場に出たとしても大太刀部隊のそれよりは額も少ないがその代わりに頻度が多い。そして部隊によっては現場に出る以外にも幾つも仕事をしている。そういったところで給料の査定が行われる。
特に周介達ラビット隊は運搬系の活動を多く行っているため、大太刀部隊にいた頃より猛の給料面はかなり改善されているだろう。
一度の出撃で多額の褒章を得られる大太刀と、コツコツ活動することで稼ぐ小太刀。給料面でもこの両者は大きく異なる。
だが少なくとも、大太刀にいた頃の稼ぎよりもずっと良くなった猛からすれば、こうして小太刀部隊に配属されてよかったという印象もある。
もちろん、まだ不服であるという感情は拭いきれていない。
少しずつ前向きになっているという意味では、良いことなのかもしれないが。




