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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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 周介と白部のコスプレをした状態での呼び込み、もとい宣伝の効果はそれなり以上にあったようで、周介たちが一年三組の元に戻ってくると、思っていた以上の人混みが一年三組の教室の前にはあった。


「お、帰ってきたか!お前らどんだけ客呼んでるんだよ!ビビるわ!」


 受付をしている男子生徒が周介たちが戻ってきたのを見つけて声をかけると、教室の前で並んでいた生徒が周介たちの姿を見つけて写真を撮り始める。そして写真を撮られると同時に周介と白部はもはや反射的にポーズをとっていた。


「仕方ないでしょ。そうするように頼まれてたんだから。少し休憩取ろうと思ってるんだけど……着替えスペースは」


「ないない!客が思ったより多くてスペース新しく作って試着室にしてるくらいなんだから!っていうか教室戻ってきても邪魔にしかならねえよ。もう一周してきたらどうだ?」


「疲れてるのに……仕方ない、図書室とか、中庭とかで休憩する?もう一つの……鎧チームは?」


「あいつらも適当に歩いていってもらってるよ。お前らの宣伝効果結構高いぞ。明日以降も頼むぜ」


「お、さっき見たメイドとお嬢様だ」


「ほんとだ、じゃあここか」


 白部が受付と話をしていると、先ほどまで周介たちが宣伝して回っていた生徒たちがやってきたのだろう。廊下にも人だかりを作ってしまいそうな状況になり、周介と白部は一瞬顔を見合わせてため息を吐く。


「ここにいると本当に邪魔になるみたい。適当にうろうろしてる」


「そうしろそうしろ。もうお前ら歩いてるだけで宣伝効果ばっちりだからな。もうあとは適当に回ってて大丈夫だろ」


「わかった。もも、行こう」


 さすがにこれほど客のいる中で堂々と男の声を出すわけにもいかず、周介は小さく頭を下げ了承する。


 白部の後に続いてメイドのふるまいをしているだけで周りの人間が写真を撮るのだから面白いものだ。


 もっとも、見世物扱いされていることに違いはないのだろうが。


「それにしても……どこに行く?そろそろお腹もすいてきたし、適当に屋台でも回る?」


「この格好だと、ソースとか飛び散る系は怖いよな。もし汚したらそれだけでクリーニング代やばそう」


「確かにね。飛び散らなくて普通に食べられるのって言ったらなんだろ?」


 そもそもこういう文化祭の時に食べられる食材というのは簡単に作ることができるものに限られる。


 そういった物はできたてが多く、多少汁などが飛び散ってしまうことも多い。一応レンタル品であるコスプレ衣装を汚してしまわないように注意しなければいけないのだが、そういった物があるだろうかと周介と白部は困っていた。


 ひとまず中庭に出て屋台の多い場所にやってくると、そこには当然だが生徒だけではなく教師の姿もある。


 その教師の中に、周介は見慣れた影を発見していた。


「おや?随分と可愛らしい。先ほどの鎧姿もなかなか良かったが……ん……?」


 それは葛城校長だった。その手には綿あめを持っている。こういうお祭りは葛城校長も好きなのだろうか。周介と白部の顔を見比べて、小首をかしげながら綿あめをかじっていた。


「こんにちは校長先生。お祭りはどうですか?」


「……その声、あぁ、白部君だね。いやすまない。あまりにも普段と様子が違うものだから、気付かなかった」


「ありがとうございます。着飾った甲斐があります」


 葛城校長は白部とはあまり関わりはなかっただろうに、声を聞いただけで白部だとわかるあたりさすがというほかなかった。


 だが同時に、隣にいるメイド、周介に関してはその立ち居振る舞いで何か思うところがあるようだった。


「君は……ん……男だな?もしや、百枝君か?」


「すごいですね、一発で見抜かれた」


 手越たちだって声を出さなければ周介であるという確信を得られなかったというのに、葛城校長は一声も発していないというのに周介であると見抜いて見せた。


 これも長年の経験故なのだろうかと、周介は感動してしまっていた。


「衣服で隠していても、筋肉質な部分はどうしても残る。特に首元は隠しきれていない。君はそこまで露骨ではないがね。次は首を隠す何かをつけることをお勧めする」


「ははは……まさかアドバイスをされるとは。引かれるかと思いましたよ」


「何故?これほどまでになりきっているのだ。むしろ褒めるところだろう。今日から三日は祭りだ。そういうことも必要だろう。君たちが無理矢理やらされているというのなら、私としても動く必要があると思えるが……そういうことはなさそうだ」


「無理矢理……」


「まぁ、半ばというかなんというか……もう慣れましたけど」


 教師としては生徒が無理矢理このような格好をさせられているのであれば、それを何とかしなければならないという気持ちがあるのだろうが、周介たちの様子を見た限りそういったことがないことに少し安心しているようだった。


 こうしてみるとただの先生のようにしか見えない。本当にあの恐ろしい技術を誇る人間と同一人物なのかと疑ってしまうほどだ。


「あ、校長先生じゃないっすか。今日はいい天気っすね」


「おぉ、加賀君。ご苦労様。今日は祭り日和という奴だ」


 そこに通りがかったのは掃除の作業中である玄徳だった。今日の仕事が終わればしばらくは休みをとれるということだったが、まさかここで鉢合わせるとは思っていなかったため、周介は少しだけ目を丸くしていた。


「っと……まぁ随分とすごい格好っすね。さすが文化祭……………………………………」


 玄徳がメイド姿の周介とゴスロリ衣装の白部を見ながら眉を顰める。


 真っすぐに周介を見つめるその目は、何か、メイド姿とは別のものを見ているようなそんな感じだった。


 数秒間、硬直した状態で周介を見続けた玄徳は、何かに気付いたのか、目を見開く。


「……まさか……兄貴っすか……?」


「おぉ、よくわかったな。気づかれたのはお前で三人目だ」


「マジっすか!?何やってんすか兄貴!いじめっすか!?こんな格好させたやつら今からボコボコにむごぉ」


「落ち着け。文化祭のノリってやつだ。いじめも何もないから安心しろ。っていうか、あんまり声上げるな。喋らないようにしてるんだから」


「す、すんません……」


 周介に無理矢理口をふさがれ、玄徳は申し訳なさそうにしてから、同時に周介の格好をもう一度まじまじと確認していた。


「にしたって……なんだってそんな格好に……」


「しょうがないだろ。白部がお嬢様チックなコーディネートされちゃったから俺はメイドになるほかなかったんだ。俺は今まいお嬢様のメイドなのだ」


「あぁ……こっちの赤いのはクエストの……なんつー不憫な……」


「不憫とか言わないで。テンションを戻したくないの。このままのテンションでいかないと頭がおかしくなるから」


「あぁ、そりゃ……大変だな……」


 玄徳としては同情するほかなかった。玄徳の記憶にある文化祭でもこんな格好をしている人間はそこまでいなかったはずだ。


 というか、この学校の文化祭を仕事をしながら見て回ったがなかなかに金がかかっている。この学校そのものが金持ちなどもよく通う進学校だというのもあるのだろう。


 妙に力が入っているのが見て取れるのだが、それがこんな形で、まさか尊敬する、自分が従うと決めた男の女装姿を見ることになろうとは予想もできなかった。


 しかもそれが妙に似合っているのがまた恐ろしい。というか、周介をほぼ毎日見ている玄徳たちだからこそ分かったが、もし周介とあまり関わらない人間だったら周介の声を聞かない限り男であると気付くこともできないレベルの完成度だ。


 もともと中性的な顔立ちに加え、細身の体は思っていた以上に女装との親和性が高かったのだ。


「ただ百枝君は首筋がなかなか筋肉質でな。この辺りを隠せば、より分からないと思わないかね?」


「あぁ、確かに兄貴は筋肉質とは言えねえっすけど、ちゃんと筋肉はありますもんね。マフラーとか、チョーカーとかで隠せばいい感じになるんじゃないっすか?」


「なんで二人ともそんなにノリノリなの。っていうか玄徳、お前仕事中だろ?」


「っと、そうでした。すんません兄貴、これで失礼します!」


「あ、その前に文化祭終わったらまた俺らに別の仕事が入ってるらしいから、ちょっと時間もらうことになるぞ」


「了解っす!それじゃ失礼します!」


 玄徳は姿勢を正してから深々と頭を下げて再び仕事に戻っていった。相変わらずの三下っぽさに周介は少し笑ってしまう。


「なんか今のももはメイド長って感じだった」


「メイド長?俺の部下のメイドはどこだ?」


「いないけど、けど、部下を指導するって感じだった。案外似合ってるんじゃない?」


「やめてくれ。メイドとかそう言うのは俺の趣味じゃないんだ。いやまぁ好きだけどね?メイドさんは男の夢だけどね?俺がなりたいってわけじゃないんだよ決して」


「言い訳っぽい。実はそっちの気があったりするの?」


「ないから。お嬢様?いい加減にしないとしばきますわよ?」


 白部の頭を掴んで左右に揺らしている周介たちを見て葛城校長は高らかに笑いだす。


「元気で結構!君達ならそこまで心配することもないだろうが、羽目を外し過ぎないように。今日はまだいいが、明日以降は特に気を付けてくれると助かる。そういった格好をしていると、絡んでくる輩もいるだろう」


「そういう輩はどうします?婦女暴行ってことにして締め上げてもいいんですか?」


「もし痴漢されたら社会的に殺してもいいですか?」


「君達ならそういうことはしないと私は信じているよ!だがまぁ、もし手を出されそうになったら、少しは灸を据えてやりなさい。そういうことがないに越したことはないがね」


 周介と白部は能力者の中でも比較的温和なほうではあるが、それでも体を触られるというのはあまりいい気はしない。


 それに一般人相手に対して捻りあげることくらいは周介だってできるだろう。近くに玄徳などがいれば割って入ってくれるかもしれないが、あいにくこの学校も広い。常にだれかに守ってもらえるわけでもないだろう。


 多少の指導は必要とはいえ社会的に殺されるようなのを見過ごすこともできないのか、葛城校長としても穏便に事を進めてほしいと考えているようだった。


 学校の長としては、むしろ真っ当な思考かもわからないが。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >「なんか今のももはメイド長って感じだった」 メイド玄徳、メイド猛・・・ 玄徳は用務員だから実質メイドみたいなもの(確信)
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