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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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「これが文化祭。知与は初めてなの?」


 周介たちがそんなことをやっているとき、瞳は自分の家族に渡す用のプリントを使って知与と言音を家族と称して文化祭に招待していた。


 まだ高校に通えていない知与も言音も、少しでもこの学校に慣れることができればという瞳の配慮だ。二人ともせっかくの文化祭ということで瞳の厚意に甘えることにしていたのである。


「はい!こういうお祭りとかには参加できませんでしたから」


「ならちーちゃんにとっての初めてのお祭りっす!楽しまないと!」


「目だけは気を付けて。この学校には一般人たくさんいるから」


「はい。気を付けます。そういえば、周介さんと玄徳は?」


「周介はクラスの出し物の仕事で忙しいみたい。玄徳は仕事。明日からはちょっと休みが取れるって言ってたから、明日は参加するでしょ」


「せっかくだからみんなで回りたかったっすけど、しょうがないっすね」


「猛さんはどうしたんです?」


「あいつは大学の方だって。こっちとはまた違う規模でお祭りやってるから、あっちはあっちで楽しくやるでしょ。あとで様子を見に行こうと思ってるんだけど……って何あれ?」


 瞳は人だかりのできている一角を見て首をかしげる。何やら生徒たちが集まって騒いでいるようにも見える。


 屋台の立ち並んでいる一角だ。何かしらの出し物をしていても不思議はない。だがあまりにも熱気とでもいうのか、そういうものに包まれているため明らかに異様な風景になっていた。


 知与が目をつぶってその場所を索敵すると、その顔色が一気に変わる。


「ぇ……ぇぇえ!?」


「なに?どうしたんすかちーちゃん?なんか事件っすか?」


「事件……事件……?なの……かな……?」


「とりあえず行ってみる?なんか出し物してるみたいだし。あたしも気になるし」


「ぁー……えっと……」


 知与は非常に迷っていた。あの場所に瞳を連れていくべきか否か。だが連れていかないわけにもいかない空気になってしまっている。


 この状況で逆に大きく反対すればそれはそれでおかしな話になってしまう。知与はこうなれば仕方がないと半ばあきらめてもいた。


 瞳たちが人だかりの近くまでやってくると、その人の群れは思っていたよりも大きく、まるで満員電車の中のようだった。


 先に進むことも、その先に何があるのかも瞳には見えない。まして瞳より背の小さい二人には見ることはできない。この中でその中身を知っているのは索敵で確認した知与だけだ。


「なんなのこれ?みんな携帯構えてるけど……なんか芸でもやってるのかな?」


「写真撮ってるみたいっす。なんか……三組?がどうのこうのって言ってるような……?」


 言音は耳を澄ませて人だかりの奥から聞こえてくる声を聞きとろうとするが、人々のざわめきによってかき消されてしまっていた。


「すごいねあのコスプレ。あんなふうにできるのかな?」


「一年三組だっけ?あとで行ってみよ?写真もらえるみたいだし」


「さっきは別のところで鎧みたいなやつも歩いてたぞ?結構バリエーションあるのかな?」


「服借りられるってのはいいよな?記念に一枚撮りに行くか?」


 周りから漏れ聞こえてくるその声を聞いて瞳と言音は一体どういうことだろうかと小首をかしげていた。


「一年三組って言ったら、周介のクラスだけど……宣伝してるってこと?コスプレ?」


「写真を撮ってくれるって言ってたっすね?あれじゃないっすか?コミケみたいにみんながコスプレして記念撮影してくれるとか?」


 中心になっているその人だかりは未だおさまらないが、人の独特の流れが暗黙の了解でできているらしく、少しずつ瞳たちはその人だかりの中心へと誘われるように移動していた。そして彼女たちの背の高さでも中心が見られるほどの位置にやってくると、そこには『一年三組コスプレ写真館!』と書かれた看板を持った長髪で胸の大きなロングスカートのメイドと、赤いゴスロリドレスに身を包んだ少女がポーズをとっていた。


「思い出!コスプレ!写真館!コスプレして写真を撮ってみませんか!?一年三組で実施中!是非来てください!」


 ゴスロリの少女が顔を赤くしながら、半ば叫ぶように宣伝するその様子は豪華で煌びやかなゴスロリ衣装とは打って変わった印象を与えるが、恥ずかしがっているその姿がまた何か加虐心をそそるものがある。


 対して隣で看板を構えるメイドは涼しい顔をしてその様子を眺めている。きめ細やかな白い肌に、薄く塗られた口紅。そして長いまつげと中性的な顔立ちが特徴的だった。


「わぁ、凄いっすね。コスプレ!コミケでもなかなか見られない完成度っすよ」


「あいつらのクラスあんなのやってるんだ。あとで行ってみようか?あいついるかもしれないし…………ん……?」


 もしかしたら一年三組で周介が仕事中かもしれないと思いながら瞳は小首をかしげる。叫ぶように宣伝をしている少女の声。どこかで聞いたことがあるのだ。


 そしてその横にいるメイド。どこかで見たことがある。そんな風に感じられて仕方がなかった。


 瞳の頭では否定している。だが、瞳の中の何かがそれに気づくように叫んでいるようにすら感じられた。


 まさか。そんな感想を抱いて知与の方を向くと、知与は一瞬気まずい表情を浮かべてから顔を背ける。


「まさか……嘘でしょ?」


 ポーズを求められ、ビシッとポーズをしている少女とメイド。その二人の正体に瞳が気づくのに時間はかからなかった。


「何やってんのあんたら」


 宣伝を一通りして人がいなくなった後で、周介は瞳たちと改めて合流していた。


「いや、俺だってやりたくてやってるわけじゃないからな?仕方なく。仕事だ仕事。白部も同じくな」


「うえぇぇ……本当に若っすか?だって……だってこんな……!めっちゃ美人さんにしか見えないっすよ!」


 完全なメイクを施され、胸には詰め物までして、ムダ毛というムダ毛を剃り落され、メイド服に身を包んだ周介は女子にしか見えない。


 言音の目には周介の外見は年上の女性のようにしか見えず、声は周介のままというギャップに大きく混乱してしまっているようだった。


「でもさすがに下着までは履かなかったんですね。ちょっと安心しました」


「あぁ、知与はそういうことわかるもんな。あんまり俺の股間に注目しないでくれると助かるよ。っていうか素のテンションに戻ると恥ずかしくなりそうだからしばらくはこの暴走気味にテンションでいこうと思ってる。な!お嬢様!」


「もう何かどうでもよくなってきてるの。一周回ってるって感じ。もうお嬢様って呼ばれるのも悪くないし」


 周介からお嬢様と呼ばれている白部を見て、瞳が僅かにムッとするが、今はせっかくの祭りの最中ということを思い出して小さく首を横に振る。


「で、あんたたちは一通り校内を回るつもりなわけね?」


「そ。お前らもよければ三組に来いよ。コスプレ写真撮ってもらえるぞ」


「気が向いたらね。っていうかずっと回ってるつもり?」


「もちろん休憩くらいはもらうぞ?ただ……これ脱がせてもらえるかなって。化粧とかも結構ガチでやってるからさ、たぶん今日が終わるまで許されないと思うんだよ」


 女装したまま文化祭を回るというのはなかなかに地獄の様相を呈しているが、周介からすればもうどうでもよくなっているのだろう。


 自棄になっているようにすら見えるその反応は白部も同様だった。最早抗う気すら起きなくなっているのだ。


 一時の恥を祭りという一時のテンションで乗り切ろうとしているのが見え隠れし、それがかえって痛々しかった。


「とりあえず表と一年のところは見て回ったから、次は二年三年のところだな。ついでに先輩たちに軽く挨拶もしてくるつもりだ」


「……その恰好で?」


「そう。なんか問題でも?」


「いや、あんたがいいならそれでいいんだけどさ……」


 文化祭が始まる前までは誰にもこの姿を見られたくなく、特に知り合いなどには絶対に知られたくないと思っていたのだが、もうすでに知り合いに、しかも同室の人間に見られたということもあって恥じらいからは程遠い精神状態に至っている。


 この間鬼怒川と命がけの訓練をしたのも無駄になったなと周介はある意味清々しい気分にすらなっていた。


 完全な女装、しかも本格的なメイド服を着こんだ状態で爽やかな笑みを浮かべているその姿は見る人が見れば、百年の恋も冷めるような状況なのだろうが、瞳は少しだけ複雑な顔をしていた。


 目の前にいる周介が、女性の姿をしている周介が思ったよりも美人だったことに驚いてしまっているというのもある。


 それと、この周介はきっとこの学園祭の間の事だけなのだろうということも。


「周介、せっかくだから、写真撮らせて」


「お?なんだ俺ら人気者か?良いぞ。どんなポーズがいい?」


「……一緒に、写真撮って。こういうの記念だと思うし」


「あー……そういえば今まで一緒に撮ってくださいとは言われなかったな。オッケー。知与か言音、写真頼む」


「うっす。私やるっす。そのあと私とも一緒に撮ってください!」


「あいよ。いやぁ、あとで人生の汚点になりそうだけどなんかこう言うのも楽しいもんだな」


 恐らく後になってものすごく後悔するのだろうが、今は楽しいと感じているのか、周介は朗らかに笑っている。


 ポーズと共に瞳と写真を撮る周介は様になっている。何度も何度も写真を撮られているうちに慣れてしまったのだ。


 瞳、言音、そして知与とそれぞれ並んで写真を撮り終えると、周介は大きく伸びをする。


「さて、それじゃ俺たちは外回りがあるから。またな」


「ねぇもも、外回りっていうと仕事みたいなんだけど。なんか別の言い方にしてくれない?」


「え?じゃあ……営業?」


「そっちの方が仕事っぽい。私お嬢様。ももはメイドなんだから、なんか別の言い回しで」


「じゃあ……散歩とか?でも散歩っぽくはないだろ?」


 そんなことを話しながらどこかへと歩いていく二人は、もはやお嬢様とメイドのようにしか見えなかった。


「……若……大丈夫っすかね?」


「たぶん一週間くらいして滅茶苦茶後悔して落ち込むから、その時はこの写真見せて笑ってあげましょ。そのほうがいい思い出になるかもだし」


 瞳は自分の携帯に残された写真をしっかりと保存し、よく見返す。


 自分の顔が少し赤くなっているのを確認して少し不満に思いながらも、その写真を消すことはしなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 周介だってすぐに気が付くとは、流石ですね。
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