0807
そんなこんなの波乱を超えて、周介の通う粋雲高校は学園祭前日を迎えていた。
当然文化祭のラストスパートということもあって全生徒が文化祭に向けて行動をとっている。
周介たちのいる一年三組も同様だ。
「カーテンセット完了!そっちどう?」
「コスプレ服、ラックにかけるのは良いけどこの鎧どうする?ラックにかけてるんじゃちょっと見栄え悪くない?」
「マネキンとかあったっけ?あれに着せるとか?」
「あ!理科室に人体模型あるじゃん?着させれば?」
「いやそれグロくないか?装備取ったら怖いだろ」
「人体模型に布とかかぶせておけばよくない?」
「それいいな!先生に許可取ってくる!」
実際に教室にセットを始めてからようやく気付くことも多く、生徒たちがあぁしようこうしようと新しい意見が出てきてはそれらを取捨選択していく。
そんな中で、周介と白部、そしてもう一組の男女セットは自分たちが着ることになる服を眺めていた。
「お前がなんで俺が用意した鎧着てるんだよ……!おかしいだろ!」
「しょうがないだろ。百枝の方が女装似合うし……結局メイド服なんだな」
「なんで俺がメイドなんて……まぁ、ロングスカートなのが唯一の救いか」
周介がいくら細身とはいえ、肌の露出が多ければ筋肉質であるということはわかってしまう。そこで長袖プラス裾の長いメイド服を着させられることになったのである。
周介とセットで動く白部は相変わらずのゴスロリ姿。女子たちが言うにはイメージはお嬢様とお付きのメイドということらしい。
もう片方の広報二人は、片方が周介が用意した鎧姿。もう一人は姫のようなドレス姿をしている。こちらのコンセプトは姫と騎士というものらしい。
剣や盾も用意できないかと頼まれたが、さすがにそこまでのものを用意するつもりはなかった。何よりあれは周介が着るという前提で作ったものだ。自分が着ることができないのであればそこまで労力をかけて作るつもりは周介にはない。
「はいはい、広報チーム、今更決まったことをどうこう言わないの。はいこれ。回るルートね。明日は早めに着て。特に百枝、あんた全身の毛剃るから」
「は?え!?なんで!?」
「当たり前でしょ。すね毛とかあるメイドさん嫌だし。産毛系は剃るからね。髭は……生えてないみたいだしいいけど、かなり気合入れてメイクしなきゃいけないから」
「すね毛剃られるの?マジで?だってニーソックス履かなきゃいけないんだろ?」
「なおさら。それに今のうちにだけど、靴の履き心地確認しておいてよね。普段履き慣れてないと歩きにくくなるかもだから」
そう言って周介は明日自分が履くための靴を渡される。
普段周介が履いているようなスニーカーではない。ややかかと部分が高くなっている、所謂ハイヒールというものなのだろう。
とはいえ、本格的なハイヒールではない。スタックドヒールと呼ばれる、かかと部分に革を積み上げて作られているヒールだ。
周介が普段はいている靴と構造そのものは違うが、ハイヒール程かかと部分は高くなく、なおかつ革でできているために多少のクッション性がある。慣れれば歩くこともできるだろうという女子側からの配慮だろうかと周介は眉を顰める。
「百枝の足のサイズ、男子にしてはそこまで大きくないし普通に履けると思う。とりあえず今日はそれ履いて歩く練習。コスプレする他三人……あぁ、鎧はいらないか。他二人もね。普段の靴と違うから、靴擦れするかもしれないけど」
履きなれない靴というのは思っている以上に足に負担をかけるものだ。一日歩いただけでもあっさりと靴擦れを起こす。
何より、靴の形が違えば重心の掛け方も違ってくる。せっかくコスプレをしているのに姿勢が悪い状態で格好悪く歩いていては間違いなく宣伝にはならないだろう。
「百枝は特に背筋を伸ばして歩いてよね。白部さんと一緒に並ぶと背の高い女性って感じに見えるし、ピシッとしたメイドさんって感じで歩いて!」
「どんな感じだよ……とにかく、背筋は伸ばすように頑張るけどさ」
そう言いながら周介は渡された靴を履く。立ち上がるとその変化に気付くことができていた。
「うわ……歩きにくい」
「でしょうね。初めてのヒールじゃそんなもんでしょ」
構造的に踵が上がっているためにどうしてもつま先部分に重心がかかるようなイメージになってしまう。特に足を前に出すとき、かかとが思っていたよりもずっと早く地面にぶつかるため、どうにも歩きにくい。
「足の幅はもっと小さく。それでいて背筋は伸ばす。ほら背筋曲がってる!」
「これは……思ったより大変かも……」
「他の二人もね。ヒールで歩くのに慣れておいて。背筋だけはピンと伸ばす事。姿勢が変わるだけで見え方全然違うんだから」
最後の練習というわけなのだが、これが最大の難所になりそうだと周介は歩くたびに周りにいるクラスメートたちから笑われていた。
あとで笑ったやつら全員同じコスプレさせてやると決意しながら周介は文化祭前の最後の夜にヒールを履いて歩く練習をさせられている自分を顧みて情けなくなっていた。
この間は命がけで逃げ回り、今度はヒールを履いて歩きまわり、一体何をやっているのだろうかと。




