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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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「ああぁあああ!あともう少し早くじゃまなものどけておけばよかったあぁぁあああ!あと!あと五秒あれば仕留められたのに!」


 鬼怒川は右腕の能力を解除して地団太を踏んでいる。目の前に周介が倒れている状態で、本当にあと少し、あと五秒どころか、あと二秒もあれば彼女であれば周介の体に拳を叩き込むことができただろう。


 本当にギリギリの勝負だった。周介の着地した場所がもう少し悪ければ、結果は違っていたかもしれない。


 あの推進剤の暴発がなければ、また別の結果になっていたかもしれない。


 だが、幸いにして、周介は逃げ切ることができていた。


「百枝さん?百枝さん?大丈夫ですか?」


 瓦礫の上で大の字になっている周介のもとに、古守がやってくるが、周介は弱弱しいうめき声を上げながらアームで体を強引に起こす。


 だが、その瞬間アームが壊れ、周介の体は瓦礫に叩きつけられてしまっていた。


「ぁー……さすがに……もう……無理かぁ……」


 無理をさせていた自覚はある。体もそうだが、アームそのものの軋みは周介の装備を伝って体でわかっていた。


 可能な限り長持ちするように無理をさせてきたが、それも限界だったのは周介もよく理解している。


「百枝さん、意識ははっきりしていますか?」


「……だい、じょうぶ、です。ただ、疲れました。体、もう、動かない、ですね」


「安静にしていてください。ここにエイド隊を呼んできましょうそれまで体は動かさないように」


 直撃こそ受けていなかったが、あれほどの機動戦を行ったのだ。筋肉だけではなく内臓、あるいは脳にも影響が出ていたとしても不思議はない。古守は即座に携帯でどこかに連絡を始めていた。


「百枝君!もう一回!もう一回だけやろう!お願い!泣きの一回!」


「鬼怒川さん!今は絶対安静です!」


「ええぇ!?でも!でもぉぉ!」


 鬼怒川は悔しそうにしているが、古守はそれを認めるつもりはないようだった。我儘というものではない。このまま訓練を再開したら周介に後遺症を残す可能性だってあるのだ。


「あの空中での誤動作がなければ、もう少し余裕を持って逃げられた。そんな感じだったな」


 瓦礫の上を歩きながら、折れた周介のアームを回収してきた葛城校長は、周介の動きの中で唯一、妙な動きだったそれを指摘していた。


 それはドクにもあらかじめ言われていたものだ。いつか起きるとは思っていたが、この訓練中に起きるとは思っていなかったため、周介としてはかなり面食らってしまっていた。


「えぇ……ドクから、話をされてはいたん、ですけど、あれほど、とは……」


「あの誤動作は、機械的な不具合なのかな?」


「はい……推進剤を、連発できるように、してもらったんですけど、その時、たまに二個同時に点火されることがあると……あれほどとは、思ってなかったですが……」


 あの一瞬、周介はほんの一瞬ではあるが意識を失っていた。急激な加速のせいで、体に強烈な負荷がかかったのが原因でもある。


 壁に激突する瞬間に、周介の感覚が危機を知らせてくれたおかげで何とか意識を取り戻し壁に着地することができたものの、完全に前後不覚状態に陥っていたのだ。


 そういう意味では、鬼怒川の追撃は本当にギリギリのタイミングだった。


「逆に言えば、不具合がなければ、逃げ切れる算段はついていたと」


「……時間配分的に、うまくやれば……って感じでした……最後の十秒が、本当に、ギリギリでしたけど」


 最後の十秒、周介はその十秒を本当に長く感じていた。一分もあるのではないかと錯覚したほどだ。


 まだ続くのかと、諦めかけもしたが、最後まで諦めることはできなかった。諦めれば、その瞬間肉片になる未来が確定するのだから、当然と言えば当然なのだが。


「鬼怒川君、君の敗因が何であるか、わかっているかね?」


「……逃げる百枝君に対して、追い方が単調だったとは思います」


「わかっているなら何より。相変わらず力任せに事を進めようとする。昔からそのあたりは変わっていない」


 鬼怒川は葛城校長に指導をされた身だ。実際の師弟関係を結んでいるだけあって、葛城校長は鬼怒川の昔からの癖というものを理解しているようだった。


「でもうちの能力だと力でごり押しの方が強いでしょう?変に絡め手なんてしたって仕方ないし」


「それはその通りだ。だが、力でごり押しをするにしてもやり方というものがある。もっとも、片腕の状態で取れる手段が限られているのも確かだ。すでに百枝君の実力は、片腕の君を超えつつあるということでもあるのだろう」


 葛城の言葉に悔しそうな表情をしたのも一瞬のことで、鬼怒川は何かを思いついたかのように即座に満面の笑みを作る。


「そうだよ百枝君!もう君は片腕なんかじゃおさまらない男だ!次は両腕でやろう!次こそは捕まえて見せるからさ!その時は一分でいいから!」


「……かん、べん、してください……!」


 絞り出した周介の声は本当に恐怖に満ちていた。


 片腕五分の戦闘でもこの有様なのだ。両腕で仮に一分戦ったとして、先ほどのようなアームの強度を無視したような機動を行わなければ本当に肉塊になってしまうことだろう。


 こんな無茶をやるのは後にも先にもこれっきりにしたい。そんなことを願いながらも、たぶんその願いはかなわないのだろうということも、周介は何となくではあるが察していた。


「おーい!大丈夫かい?」


 ほぼ全壊した大太刀部隊の訓練所にやってきたのはエイド隊数人と製作班の人間を連れたドクだった。


 大太刀部隊の近接型である鬼怒川が訓練するということもあって、間違いなく訓練場が破壊されるためその修復の為にやってきたのだろう。


 製作班の人間が瓦礫になった障害物の修復を行っているとき、ドクは瓦礫の上を慎重に移動して周介のもとにやって来ていた。


 そして周介の近くに葛城校長や鬼怒川がいることに気付くと小さく礼をする。


「どうも先生。お疲れ様です」


「すまないね、今回は派手にやったよ。いつも世話をかけるが」


「いつもの事ですよ。それより、こっちのほうが派手にやったって印象ですね。周介君。大丈夫かい?」


 未だ瓦礫に体を預けている周介の近くに、ドクに遅れる形でエイド隊の人間がやってきて治療を始めている。


 どれほどの損傷かはわからないが、少なくとも鬼怒川の攻撃の直撃はなかった。そこまで重症ではないだろうということは葛城校長や鬼怒川がのんきにしていることからドクも理解できた。


「アームが、壊れてもいい程度に、動かしました。今までと、違う、レベルで体に負荷をかけたので……気持ち悪いです……」


「あぁ、これを見ればわかるよ。かなりの負荷を連続して掛けたね?」


「周りの、足場無くなっちゃって……早く着地しないと追撃されるの目に見えてたんで……頑張りました」


「それでこの惨状ってわけだね?でも、アームを壊しても生き残るあたりさすがというべきかな?近々、アームの材質も変えよう。γ開発のおかげで多少材料の見直しもできたしね。君の装備の耐久力も上がるから、速度も前よりは出せるようになるはずだ」


「その分……俺の体の負担は増すわけですよね?」


「そこは仕方ない。こんな使い方をしているんだ。当初はこういう使い方を想定してなかったんだけどなぁ……」


 ドクはそう言いながら周介から装備を取り外していく。両手両足、そして頭部の装備を外していくと、ようやく周介の顔が全員に見えるようになる。


 顔面蒼白、とまではいかないものの、周介の顔色はかなり悪い。先ほどまで激しい運動を行っていたのにもかかわらずだ。


 ドクがエイド隊の方に視線を向けると、安心していいというようにエイド隊は笑みを浮かべて親指を立てている。


「大丈夫です。筋肉と関節、臓器のいくつかに軽微な損傷がある程度です。若干の脳震盪が起きている可能性があるので、安静にしておいたほうがいいのは間違いないですが」


「だってさ。君の体も慣れてきたってことだよ。前よりは軽傷じゃないか」


「こんな慣れ方したくなかったんですけど……気持ち悪いには変わらないんですから」


 そうは言いながらもエイド隊の治療のおかげで、だいぶ気分は楽になって来たのか、上半身を起こして力なくうなだれる。


 壊れたアームを見て、取り付けられていた連装式の推進剤をドクの目の前に掲げる。


「あとこれ、ドクが指摘した通り一回暴発しましたよ」


「あぁやっぱり?全部使えば一回くらいは起きるかなって思ってたけど、やっぱり起きたかぁ」


「起きないように調整お願いします。こいつのせいで、かなり、一瞬意識なくしました」


「ほう、高速移動に慣れてる君が気を失うかい。そりゃ危ないね。オッケー。こいつの調整と改良は急務だ。君の生命線にもなり得るからね。それにこいつの機能を改良できれば、それがγに、そしてΔに活かせる」


 徐々に回復してきた周介はゆっくりと立ち上がろうとして、わずかに体をよろめかせる。この場にいては修復作業を行う製作班の邪魔になる。休むのなら隊の部屋に向かってからの方がいい。


「あぁそれと、近日中にミーティングを行うよ。細かな調整は後でさせてもらうけど、君達の文化祭が終わった後くらいかな?少し時間をもらいたい」


 わざわざこの場でそれを言ったのは、周介が公欠をとるため、葛城校長に話を通す意味もあったのだろう。


「期間は、どれくらいって言ってましたっけ?」


「少し長めに、準備含めて一週間を想定してるよ。何せ太平洋沖だ。移動そのものに時間がかかっちゃうからね」


「一週間も……勉強遅れそうだな……」


「先生、今年の高校のスケジュール、教えていただけますか?なるべく勉学やイベントに支障のない時期を選びたいと思います」


「教育者としては、一週間も学生を休ませるというのはあまり良いことではないのだがね。祝日を含めて、四日程度……いや、準備はこの子たちにやらせず、君達の方で調整しなさい。放課後の数日を使って準備、そして金曜日の放課後から仕事を開始すれば、祝日のある日にぶつけてしまえば、うまくすれば休む日は一日か二日程度になるだろう」


「了解しました。関係各所と調整します。そういうわけだ周介君、文化祭が終わったら、今度はこっちの準備に忙しくなってもらう必要が出てきた。悪いけど頼むよ」


「……了解しました。放課後何をするようになるのかは、ミーティングで細かく教えてください。うちの連中には俺から伝えておきます。特に玄徳には、仕事も休ませなきゃいけなくなるので」


「そうだね。こっちからも根回しはしておくけど、頼むよ。君たちにしかできない仕事だから、助かるね」


 実際は周介たちでなくともできるのだろうが、こういう時に周介たちがいると楽になるのも事実なのだろう。


 振り回される本人からすればたまったものではないが。


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