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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十六話「その光を辿る先の」

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 逃げる周介に対し、鬼怒川は片腕の状態でありながらすでにその動きを把握し、追い詰め始めている。


 周介はどのような攻撃をしても確実に回避する。それは最近の訓練で、さらに磨きがかかっていた。


 単純な攻撃は当たらないことは鬼怒川も察している。全力を出せば、全身を変貌させれば周介の回避能力、反応速度を上回る攻撃は可能だろう。だがそれは約束に反する。どうにかして片腕だけで攻撃を与えなければいけない。


 指を伸ばして攻撃してもいいのだが、その攻撃も最近はまったく当たっていない。回避の察知能力が高すぎるせいもあって、攻撃一つ一つを回避され、空中で余計に足場を与えるだけの結果になってしまうため最近は行っていなかった。


 鬼怒川の能力自体は非常に単純な変貌系、肉体に得られる効果も単純な強化だけであるため、この状況ではほとんど周介を捕まえることは難しい。


 だがそれは方法を選んでいてはの話だ。


 今までは多少卑怯だとも思っていたために控えていた、だが、五分もの時間を与えられ、それでも捕まえられないとなればさすがの鬼怒川のプライドも傷つくというもの。


 なりふり構っているような余裕は彼女にはなかった。


 周介が跳躍し、再び別の障害物に着地した瞬間、鬼怒川は周介から隠れるように障害物に身を隠す。


 一度視線を遮り、どこかから攻撃するかわからないようにするためだろうかと周介は警戒して目を見張るが、周介自身が有する感覚は、まったく別のものが襲い掛かるということを感じ取っていた。


 ここにいてはまずい。それを感じ取った周介は即座に鬼怒川がそうしたのと同じように障害物の背後に身を隠す。


 瞬間、轟音とともに衝撃波が辺りに響く。そして周介のいた場所めがけて、先ほどまで障害物だった物体が粉々になりながら吹き飛んできた。


 粉々になってと言っても、その破片一つ一つは大きく、直撃すれば普通の人間ならよくて重傷、悪ければ即死もあり得るほどだ。その破片が、勢いをつけて、巨大な散弾銃のように放たれたのだ。


 鬼怒川がやったことは単純。周介のいる方角目掛けて、障害物を殴っただけだ。巨大化した腕を用いて障害物の一角を殴り、その破片を周介めがけて叩きつけるだけ。


 単純ではあるが嫌な攻撃だ。何せ先ほどまでの鬼怒川の点の攻撃と違い、広範囲な面の攻撃であるうえに、周介の装備では防ぎようがない。


 隙間があれば回避もできるかもしれないが、かなり運に左右される。避けるためには相手の攻撃が発生するよりもかなり前に回避行動をとらなければならない。


 周介の攻撃を察知することもわかっていたし、それが周介の回避を助けているのも知っていた。


 ならば、その感覚においても回避しにくい攻撃をすればいいだけの話なのだ。


 今回の場合で言えば、高威力かつ広範囲な面攻撃。点も線も避けられるなら面、これは比較的単純ではあるが、それ故に効果的な策だった。


 鬼怒川のこの行動に、周介はこの場にいることが危険と判断して即座に移動を開始する。だが次の瞬間には再び周介がいた場所、そしてこれから向かう場所めがけて障害物で生み出した散弾が襲い掛かる。


 最早災害レベルの攻撃だ。単純な殴る、蹴るといったものではなく、地形そのものを武器にして攻撃するなど周介には想像もできない。


 ましてあの障害物はかなり硬い。それこそ周介の装備で言えばパイルバンカーなどを持ち出さないと破壊もできないほどのものだ。


 それを易々と、あのように攻撃している時点で鬼怒川の攻撃力が跳びぬけて高いということを強制的に理解させる。


 そして何より、攻撃よりもむしろこちらの方が問題かもわからない。


 周介が回避すると、当然障害物を破壊した鬼怒川は次の弾丸、もとい障害物の元へと移動して再び破壊活動を開始する。鬼怒川は周介が逃げにくい位置へ常に移動しながら攻撃を仕掛けてくるのだ。その中で最も問題なのは、次々と障害物が破壊されていくことによって周介が足場とする部分が無くなりつつあるということである。


 周介が今まで曲がりなりにも鬼怒川の追走から逃れられてきたのは、周介が得意とする高速機動ができるだけの足場があったからに他ならない。


 跳躍、着地、回避、逃走。それらを効率よく行えるだけの環境があったからこそ逃げられたのだ。


 これがもし、平地、あるいは草原など足場になる部分が極端に少ないような状況であればどうなっただろうか。


 結果はわかりきっている。かつて雨戸にあっさりと追い詰められてしまった時のように、瞬殺されるだけだ。


 鬼怒川はもう勝ち方にこだわっていない。


 とにかく周介を捕まえる。その強い意志しかないのだ。


 周りの建物を模した障害物を壊さないようにとか、小太刀部隊相手にそこまで向きになって恥ずかしくないのかとか、そんな考えなど一切ない。


 ただ、ただ周介を追い詰める。ただそのためだけに今鬼怒川は動いている。


 推進剤の残りは決して多くはない。空中機動で避けられるのもあとわずかだ。


 時間は、あと一分あるかないか。


 周介は覚悟を決めていた。


 周介自身もただでは済まないかもしれないが、鬼怒川の攻撃を直撃するよりはましだと言い聞かせて、六本のアームを動かす。


 それは周介が今まで制御していた限界を、超えるものだった。


 鬼怒川の放つ障害物の散弾が再度襲い掛かる中、周介はついになくなった障害物の残骸を避けるように天井に着地していた。最早周介が安全に着地できる部分は天井と、瓦礫が積み重なっていない床と壁だけだ。


 障害物のほとんどは破壊され、壁際にいくつかある程度になってしまっている。


 よくもここまでやらかしたものだと周りで見ている大太刀部隊の人間は渋い顔をしている。


 だが当の鬼怒川はそのようなことはまったく気にしていない。彼女が今見ているのは周介だけだ。


 足場がなければ周介の機動力は半減。そして残り時間はまだ一分近くある。この状態であれば、仕留めきれる。


 鬼怒川が満面の笑みを浮かべながら攻撃を仕掛けると同時に周介は跳躍した。攻撃をする瞬間にはもうすでに回避行動を始めている。その察知能力は折り紙付きだ。


 だが一発で仕留められるとは鬼怒川も考えていない。もう逃げ場はかなり限定しているのだ。その先に回ればいいだけ。


 そう考えていた鬼怒川だが、一瞬、ほんの一瞬周介を見失う。


 先ほどまでの動きと違う。周介の動きが明らかに速くなっている。


 気配は追えている。だが、目で追うことができていない。壁と床を交互に跳躍し続けている周介の速度が、今までのそれとは違う。


 今まで手を抜いていたということは考えにくい。鬼怒川も周介の性格はわかりつつある。周介は訓練などで手を抜くような人間ではない。


 つまり、今の周介は全力を超えた全力を出しているということになる。


 それがどういうことか、鬼怒川は理解していた。


 周介の機動力の肝は背面に取り付けられたアームだ。あのアームを手足のように扱って強引に跳躍しているに過ぎない。


 だからこそ、アームの強度限界が当然存在する。周介の肉体も、普段の動きになら慣れてきているだろうがそれでも負担はかかっている。


 それを超えた動きをするということはつまり、強度限界や肉体の負荷を無視した動きをしているということに他ならない。


 あと一分。最後の逃げ切りを、限界を無視した機動力で押し切ろうというのだろう。


 やってくれる。


 鬼怒川は歯噛みしていた。だがそれでも負ける気はしない。純粋な機動力と機動力の勝負であるならなおのことだ。


 鬼怒川にも大太刀部隊の近接の人間としてのプライドがある。多少速くなったとはいえ、それでも雨戸の速度にはやや劣る。


 片腕の状態でも、十分に捕まえることはできると、鬼怒川は飛び回る周介の気配を追いながら跳躍する。


 狙うのは着地の瞬間。動きを完全に見切った鬼怒川は床に着地しようとする瞬間の周介めがけて拳を振るう。


 だが着地するその寸前、周介は空中でいきなり軌道を変える。アームに仕込まれている推進剤を使って、直前で着地の位置を変えたのだ。


 危険だとわかれば着地位置を変えるくらいのことはできる。だが、その回数もあとわずか。それは鬼怒川もわかっていた。


 あと同じことを何度か繰り返せば、周介は逃げる術を失う。鬼怒川からすればひどく簡単な仕事だった。


 何せ周介は既に詰みの状態になっているのだ。逃げ切るための推進剤もあと少なく、足場も少ないために先読みされやすくなっている。


 空中での移動手段はもはや推進剤しかない。ワイヤーを使って動きたいところではあるが、それを使うための障害物ももはやないのだ。


 あと少し、あとわずか。もう推進剤の残りが片手で数えられる程度になった時、再び鬼怒川が攻撃を仕掛けてきたとき、それは起きた。


 先ほどまで動きを変えていただけの周介が、空中で一気に壁際まで弾き飛ばされたのである。


 唐突に先ほどまでと違う動きをした周介に、鬼怒川は目を見開いてしまう。驚いているのは周介も同じだった。


 推進剤の暴発。このタイミングでそれが起きたのだ。ただでさえ少ない推進剤が二発同時に発動したために、軌道を変えるに留まらず、周介の体は勢いよく壁に叩きつけられそうになってしまう。


「っぁ……!」


 ギリギリのところでアームを使い壁に着地したものの、周介の体にかかる負荷は想像以上だった。


 急激な加速を不意打ちに近い形で受けたせいで周介の体が悲鳴を上げている。僅かに動きが鈍ったその瞬間を鬼怒川は見逃さなかった。


 崩れ落ちそうになる周介めがけて襲い掛かる鬼怒川の拳が直撃する瞬間、周介は壁を蹴りギリギリで回避する。鬼怒川の拳が壁を砕く中、負担をかけ続けたアームの一本が、その衝撃に耐えきれず関節部分から破損してしまっていた。


 自分の見立てが正しかったことを理解した鬼怒川は、即座に周介めがけて追撃をかける。だが周介は先ほどのような天井や瓦礫のない床の上にはいなかった。


 周介は瓦礫の上で倒れていた。とっさに、逃げる先など考えていない状態で無理矢理に跳躍したために着地点を選んでいる余裕などなかったのだ。


 今しかない。


 鬼怒川が倒れている状態の周介めがけて襲い掛かる瞬間、周介もアームを動かして近くにあった瓦礫を掴み鬼怒川目掛けて投擲する。


 当然そんなものは鬼怒川に効かないことはわかっている。瓦礫を殴り、軽々と防いで見せたがその防ぐという行動が目的だった。


 鬼怒川の能力、変貌型能力は基本的に肉体を作り出す能力だ。その分、一時的にとはいえ重量が増す。猛と訓練することで変貌型能力の詳細を知った周介は鬼怒川との訓練の時の対策を考えていた。

 それは、簡単に言えば質量による駆け引きだ。


 足場などがあり、踏ん張ることが可能であれば、多少の質量攻撃は彼女の身体能力強化も加わって、何の効果も及ぼさないだろう。


 だが空中にいる今なら、周介が普段やっているのと同じように、腕を早く振るえば、物体に当たれば、その分体は動く。重いものを動かそうとすれば、その分力が必要になり、勢いよく振るえば、その分体は流れ軌道が乱れる。


 結果、周介に一直線に向かっていた鬼怒川の体は、ほんのわずかにずれた。そのずれを利用し、周介は残ったアームで何とか瓦礫のない場所へと移動しようとする。


 その姿は地面を這う虫のようだった。体重をかけると瓦礫が崩れ、移動もままならない。アームを用いた回避が不可能と判断した時点で、推進剤を用いた回避に変更する。態勢も整わないうちに推進剤を使ったせいで、周介の体は周辺に転がる瓦礫に勢いよく、何度も体をぶつけつつその体を遠くへ運ぶ。だがその甲斐あって周介は鬼怒川の攻撃を何とか回避していた。


 鬼怒川の攻撃が瓦礫に直撃するとほぼ同時に、その声は上がった。


「そこまで!」


 五分。短いようで長かったその時間を逃げ切った周介は、瓦礫に体をうずめるように全身の力を抜いていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 周助生き残ったはいいが、ビルド隊も生産班もブチギレ案件ではー?(
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