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「というわけで君に新しい装備を持ってきたんだ。試してみてくれないかな?」
「……ドク、せめてこっちの都合を考えてからものを言ってくれませんかね?」
周介たちがいつも通り部隊の部屋で訓練をしていると、台車にいろいろと入れてきたドクがノックをしてから入ってくる。
もちろん周介たちの返事を待たずにやってきてそんなことを言ったようなものだから、周介たちは怪訝な表情をしてしまっていた。
「そんなこと言わないでおくれよ。君たちが銃の装備に積極的になったみたいだからと思っていろいろと持ってきたんだよ。それとは別にいままで作りたかったものとかも持ってきたんだけどね」
たぶん後者が本命なのだろうなと、今までのドクの行動からそれを察している周介たちは台車に乗せられているいろいろなものに目を向ける。
「まずはこれ!フルアームくま!銃器を一気に使えるようになった中距離制圧力最大の重量級装備だよ!」
ドクが用意してきたのは瞳のクマ型ぬいぐるみにこれでもかと銃器を詰め込んだような装備だった。
腕、肩、足、それぞれに大きめの銃が搭載されている。
特に両腕に取り付けられている銃が特徴的だった。所謂ガトリングと呼ばれるような回転式の銃が取り付けられている。
脚部には近距離で使うためか、玄徳が使っている炸裂式の脚部装甲が取り付けられている。
以前知与が使った狙撃用の巨大な対物ライフルが右肩に取り付けてあり、左肩にはそれとは別に今まで見たことが無いような形の、大砲に近いサイズの銃が取り付けられている。
こんなものを誰に向かって撃つつもりなのか、そして誰が使うつもりなのか。ついでに言うとどうやって使うのか、周介たちはそれを見てため息に近い息しか出なかった。
「これは基本中から全部操作できるんだけど、そのために電力が必要なんだよね。だから周介君の発電機構を取り付けてあるよ。あと、当然だけど重いから動きはたぶんすごく遅くなる。安形君、動かしてみてくれる?」
「……だいぶ重いですね……歩くのが精いっぱいな感じなんですけど」
瞳はフルアーム状態のクマのぬいぐるみを動かそうとするが、人が歩く程度の速度しか出せなかった。
それだけ装備が重く、動かすのに力が必要だということは周介たちにもわかった。そのためと思うべきか、クマの掌部分と足の一部には周介が動かせるようにローラーのようなものが取り付けられている。
「機動力確保のために周介君のローラーも付けてるから、万が一の時は移動砲台としても役に立つよ?次に弾丸補充用人形の装備だ。こっちは普通に動けると思う」
ドクが用意したのは人型の人形、マネキンだ。体のいたるところにホルダーが取り付けられており、そこに弾の込められた弾倉が大量にセットされているのがわかる。周介たちが銃を装備するにあたって必要不可欠な装備だというのはわかる。
銃は弾がなければ意味がないのだ。とはいえこれほど弾倉を入れているところを見ると、どこかの軍隊の装備なのではないかと思えてしまう。
この人形はドクの言うように人並みの動きをすることはできた。とはいえ普段ほどの機敏さはない。周介は人形を眺めながら、まだドクの持ってきた台車が山ほどあるのを確認してその一つに気が付く。
それは周介が扱えるアームの形をしていた。
「俺の装備もあるんですか。今度は何を作ったんです?」
「あぁ!それは最後に紹介しようと思ってたのに!」
周介が台車から自分の装備らしきものを取り出すと、それが妙に重いことに気付く。
普段周介が着る装備などとは比べ物にならないほどの重さだ。いったい何だろうと思いながら周介がそれを持ち上げると、その外観が明らかになる。
それは一見すると周介が普段身に着ける装備に違いない。何かが既に着ているような状態ではあるが、少なくともそれがマネキンの類ではないということを周介は気づいていた。
能力を発動して、その中身に気付く。
個人装備の下にあるのは、周介が動かせるように調整してある関節部分などの集合体だ。
「えっと……これは?」
「ふふふ、もう気づいてしまったようだね。まったく君ってやつは欲しがりさんめ。実はそう!とうとう実装するに至ったんだよ!人型ロボット!」
そう言ってドクが頭部のヘルメットをとると、その下が明らかになる。
と言っても顔があるわけでもなく、ただカメラが取り付けられた頭頂部があるだけだ。所謂マネキンとほとんど変わらないのっぺらぼうの頭に、周介たちは少しがっかりしてしまう。
もっともここでリアルな人の顔が出てきたらそれはそれで気持ち悪がったのだろうが。
「なんだいそのリアクション。もうちょっとすごいとか言ってくれないかなぁ?」
「いや、まぁすごいのはわかるんですよ?でもあれでしょ?よく企業とかが出してる人型ロボットと同じでしょう?」
「いやいやあんなのと一緒にしてもらっちゃ困るよ?周介君の能力によってのみ最大のパフォーマンスを発揮する高速機動すら可能にした人型ロボ!その名も『一分の一ラビットα』さ!」
「……体格的に俺の一分の一ロボってところですか」
「そういうこと。さぁさぁ!実際に動かしてみておくれよ!たぶんだけどまともに動かせないとは思うけど」
ドクの言葉に周介は仕方がないと思いながら人型ロボ、ラビットαの操作法を確認していく。
と言っても動かせる部位があるだけで、それ以外は普段のアームとそれほど動かし方が変わるわけでもなさそうだった。
とりあえず歩かせてみようと、周介は膝を曲げようとするが、膝が曲がった瞬間に機体が大きくバランスを崩し、そのまま倒れてしまう。重苦しい音とともに正面から突っ伏すように倒れた機体に、周介は首をかしげていた。
「あれ?案外難しいな」
背中についている周介が普段使うそれと同じアームを使い、器用に機体を起こすと、再び歩き出そうと関節を動かすのだが結果は先ほどと同じ、バランスを崩して倒れてしまっていた。
「あれ?なんかうまくいかないな?」
「ふふふ、そう簡単にいくものか。人間の歩行っていうのは結構難易度が高くてね、僕らは当たり前のようにできていることでも、実際は多くの関節という関節が連動して動いているんだ。簡単には思うようには動かせないよ?」
なぜドクが得意げにしているのかはさておき、周介は自分の体と、機体の体にある関節が同じ場所、同じような駆動範囲で設定されていることを確認して一つ一つ動作を確認していく。
本来であれば脳がそのあたりの処理を自動で行い、適度にバランスをとるものなのだが、周介はすべての関節を手動、もとい能力によって意識して具体的に操作しなければならない。
こればかりは慣れていないと全く動かせもしない。周介は勢いよく足を動かしてとりあえず機体を跳躍させるが、狭い部屋でそんなことをすればどうなるかは想像に難くない。天高く飛び上がった機体は天井にぶつかり、先ほどと同様にけたたましい音を立てながら落下していた。
「ちょっと周介君?一応まだ試作機だからさ、大切に扱ってくれると嬉しいんだけどなぁって思うんだよね」
「そういうのいいんで。とりあえずどこまでやってもいいかだけ試させてくださいよ。いつもドクも言ってるでしょう?どのくらいやれば壊れるのか試したほうがいいって」
「まぁうん、その通りなんだけどさ、至極その通りなんだけどさ?もうちょっとその……手心を加えるというか……君もずいぶんとこなれてきたよね」
「誰かさんのおかげでね。とはいえ、跳んだり跳ねたりはできても、歩かせるのが難しいな」
アームを使う要領で腕や足を急激に動かし、着地時にクッションにするような形で高速機動をさせることはできても、ゆっくりとした歩行などはなかなかできそうになかった。
もともと体についているアームに加え、手足も跳躍と着地の時に使えるため、周介自身が動くよりも動き自体の選択肢は多いように思える。
ただ、やはり重心などを的確に判断しながらなおかつ関節をいくつも連動させて動かすのはかなり難易度が高く、今の周介では満足に使えそうもなかった。
「でもドク、このラビットαは何のために作ったんです?」
「いいことを聞いてくれたね。随分前に強化外骨格の話をしたのを覚えているかい?」
「えっと、俺の装備の話ですよね?」
「そうそう、それを作るにあたって人間の動きそのものを再現できるようにしたほうがいいと思ってさ、君の練習用に作ったものなんだ。そのうち君が着られるような形でこいつの、少しサイズは大きくなると思うけど、姉妹機を作っていくつもりなんだよ」
「おぉぉ……機動戦士的な?コックピットに入る的な奴っすか。兄貴いいなぁ!」
「それは燃えますね。これは練習せねば」
巨大ロボットなのか、それとも周介の体を覆う程度のサイズになるのかはわからないが、少なくとも人間の動きを満足にできなければ実戦でも役には立たないだろう。そういう練習の意味も込めてこの小型の機体を作ったのだろう。
周介の姿と同じようにしているのは練習をよりやりやすくするためだ。自分の重心を確認しながらどの関節を動かせばよいのかを一つ一つ確認していく作業をやりやすくするためだろう。
「こいつが周介君の最終装備の初号機になるってわけさ。これからどんどん練習していってね。皆も何か要望があればこういう装備は作っていくよ?」
「先生!俺はもっと高く飛べるような装備が欲しいっす!方法は何でもいいんで!」
「了解、こっちでいろいろと調整してみるよ。安形君や小島君は?何かないかな?」
「あたしはそういうのはいいです。人形のバリエーションだけ増やしてくれれば」
「私も今のところは……それより先生、まだ装備が残ってるみたいですけど」
索敵によってまだ紹介していない装備が残っていることに気付いたのか、知与は台車の中に入っている周介用の装備を取り出していた。
「おっと、こいつを忘れてた。周介君、操作確認はそこまでにして、次の装備の確認を頼むよ」
「なんです?今度はどこ用の……ってあぁ……」
周介はその装備を少し見ただけで何となく予想ができてしまっていた。
今までよりも格段に薄い装甲、そして無駄な装備の一切を省き、各所に取り付けられた噴出装置と、従来アームが取り付けられていた部分に、周介のアームと同じ構造で動かすことのできる羽のようなものが取り付けられていた。
その形状を見て、周介は既に何となく察することができていた。
「とうとうあれですか、個人装備で空を飛べと?」
「その通り!話が早くて助かるね!ということでちょっと飛んでみてくれるかな?」
「コンビニ行ってきてみたいなノリで頼まないでくれます?一歩間違えれば死ぬじゃないですか」
周介は空の怖さを十分以上に知っている。ヘリに乗ったりパラシュートなしでスカイダイビングしたりと、その恐怖は体と心に染みついているのだ。
いつかは個人装備で空を飛ばされることになるだろうとは思っていたが、とうとうきてしまうとはと、周介は渡された個人装備を前にため息をついていた。




