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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
七話「山と大和の名残」

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「これは明日教えることでもあるんだけどさ、勝つってことは目的に向かって攻めるってことだろ?場合によっては守るってことだ。でも俺たちはそれをしない。現状維持を貫く。相手を倒そうともせず、逃げようとも逃がそうともせず、ただただそのままの状態を続ける。遅滞戦闘ってのはそういうことだ」


「……なんかやってることすごい地味に思えてくるな」


「そりゃ地味だろ。相手が逃げようとしたら攻撃して足止め、相手が攻めて来たら引いて防御、とにかく相手の出方によってやることを変える感じだからな。いやがらせをし続けるって言ったほうが正しいか?性格が悪いチームだぞ?」


 性格が悪いチームという表現もなかなか珍しい。だが実際に相手がやろうとすることを常に妨害し、相手を倒すこともなく倒されることもなく、ただ相手を釘付けにするというのはやられる側としたら非常に嫌だろう。


 性格が悪いチームと評するのも仕方がないかもしれない。


「もちろん、状況によって……確実に相手を倒せるって言う状況なら即行で決めるけどな。捕縛とかは得意分野でもあるし」


「そういえば最初……俺が高速道路チャリで走ってるときも割と早く決着してたよな」


「実はあんとき結構頑張ったんだぞ?お前を巻き込まないように……って言うかお前が攻撃されないようにうまく位置を変えたりしてさ。あんときはなかなかうまくいったほうだ。相手が来る方角と速度が割とがっちりわかってたからできたことだな。それでも運がよかったけど」


「やっぱそういう細かいことがわかってても運の要素は強いのか」


「相手が思い通りに動くわけないからな。現時点で一定の法則で動いてたって次の瞬間全く違う動きすることだってあるんだ。うまく言ったらそりゃ運が働いたって思うほかないな」


 手越の戦闘経験、現場での経験の数は周介よりもずっと上だ。今までずっとうまくいかないことばかりだっただろう。


 上手くいかないことばかりで、うまくいけば運がいいほう。確かにその通りかもしれないと周介も同意していた。


「ところでさ、お前のチームって基本的に足止めするんだろ?ならあちこち移動できたほうがいいだろうに、移動手段とかはないのか?」


「んー……今までは鬼怒川先輩とかに担いでもらったりしてたからな。ぶっちゃけそこまで気にしてなかった。今はお前らいるし」


「完全に足扱いだな。別にいいけど……じゃあ今までずっと鬼怒川先輩に乗せてもらってたのか?」


「いつもってわけじゃねえよ。他の部隊と連携して追い込んでっていうほうが多い。鬼怒川先輩が担げる数にも限りがあるしな。だから待ち伏せしてその場に留めてって言うほうが多かった。それでもかなり逃げられてるけど」


「……そうやって逃げられると、レッドネーム扱いってことか」


「そういうこと。機動力がなかったからどうしてもそう言うことになる。お前らが来てくれたおかげでそういう状況も減るけどな」


 機動力がある能力者の出現によって、組織の出撃構成というものは大きく変化した。機動力と運搬能力を両立したチーム。手越たち足止め専門部隊と行動することで、今後多くの犯罪者を捕まえることができるだろう。


 周介からすれば平和にもの運びをしていたほうがずっと良いのだが、そのあたりは仕方のない話だ。


「個人的にはそういうのはやめてほしいんだけどなぁ……可能な限り平和に生きたい」


「そりゃ無理だな。間違いなく扱き使われるぞ。こういっちゃなんだけど、お前らのチームは使い勝手がいい。機動力があるだけじゃなくて運べる、ある程度戦える、探せる、人手も補える。裏方だけじゃなくて表に出ても問題ないチームだ。あとは練度の問題だって」


「簡単に言ってくれるよ……こちとらまだ結成半年未満のチームだぞ……新米も新米、ひよこみたいなもんじゃないかよ」


「さすがに卵は卒業か?」


「さすがにな。さっさと鶏にならないといつ何をさせられるか分かったもんじゃないんだ。そういう意味でも今回訓練を手伝ってもらうわけだし」


「まぁいいって、そのあたりは気にすんなよ。持ちつ持たれつってな。っていうか、お前この間安形を実家に連れてったんだろ?どうだった?」


 急な話題転換に、周介は首をかしげる。どうと言われても正直どうもなかったとしか言いようがないからである。


「どうだったって……玄徳も一緒に居たんだぞ?それに妹と弟の相手をちょっとしてもらったくらいで特にこれといって……」


「お前の部屋には入れたんだろ?」


「そりゃな」


「何もなかったのか?それで?」


「だから玄徳も一緒にいたっての。どうしろってんだよ。って言うかあいつにそういうことしようとしたら人形でボコられるわ」


 周介は瞳を恋愛対象としては見ていない。単純に頼りになる仲間や友人としてとらえている。その考えは間違いではないだろう。実際瞳は頼りになるし、信頼に足る人物だ。


「かー!随分と初心だねぇ!そういう時はガンガン行くもんだろ!こう、迫って行ってさ!相手を追い詰めるって言うかよ!」


「いやいや、俺は自分から行くよりもむしろ向こうからきてほしいタイプだね。向こうからぐいぐい来てくれたら俺としては最高だね!簡単にころりと落ちるね」


「お前わかってねえなぁ!そこは嫌よ嫌よも好きのうちの精神でぐいぐい攻めていくんだろうが。んで相手も悪くないかもみたいな流れになってだなぁ」


「それでもし根本からダメだったらただの痛い奴だぞ?相手のことを少しずつ把握してそのあたりを確定させてだな」


 周介と手越の談議が盛り上がってくると、周辺にいつの間にか男子生徒たちが集まり始めてくる。

 そして二人の話に割って入るように一人の男子生徒が現れた。


「お前ら、俺を差し置いて面白そうな話をしているじゃあないか」


「「真鍋!」」


 今ここに周介手越真鍋の三人がそろったことで、周囲の男子たちは口々に『アブノーマル三銃士』という単語を繰り返す。


「お前の意見を聞こうか真鍋、お前は女子相手に、ぐいぐい行く派か?」


「それとも、女子の方からぐいぐい来てほしい派か?どっちだ!」


「……随分とまぁ妙な二択を。だが間違えるな、俺はどちらでもない!俺は最初は険悪な仲からいつの間にか互いに気になる間柄になりたい派だ!」


「……なん……だと……!」


「真鍋!お前女子に普通に嫌われてから再び仲良くなれると思ってんのか?一度嫌われると女子はとことん嫌うぞ?」


 妹がいる周介は女性の習性とでもいうべきか、そういったものを多少知っている。真鍋の言葉はあくまで物語などでしかないような感情の変化だ。マイナスからプラスへ。そんな感情の変化が簡単に起こるはずがないというのが周介の考えだった。


「馬鹿者め!いつ俺が現実の女のことを話した!いいか!俺たちが思い浮かべるのは常に理想の女子だ!理想を語らずに何が男か!追う?追われる?そんな話をしている時点でお前たちは既に低次元なのだ!一方方向ではない!双方向でこそ!感情を向けあってこその人間関係だ!お前たちはただ自分のしたいことをしているだけではないか!」


 真鍋の言葉に、周介と手越は雷に打たれたかのような衝撃を受ける。確かに周介と手越は自分たちの思いを語っただけだ。相手にどう動いてほしいと思っただけだ。相手がどう変化するなどということは語ってすらいない。


 女子に対してどう動くか。自分に対してどう女子が動くか。真鍋のように互いの動きではなく片方の動きでしかない。だが周介と手越もこのままで引き下がるつもりはなかった。


「馬鹿か真鍋!引っ込み思案な女、あるいは高飛車な女を攻め落としてこその男だということがなんでわかんねえんだ!攻めて攻めて攻めまくる!相手がつい自分の方を意識してしまうほどに攻める!それこそが必要なことなんだよボケ!」


「理想を語るというのならモテたいという気持ちを語らない時点でお前は中途半端なんだよ!花に群がる蝶の如く寄ってくる蝶を愛でて何が悪い!モテたいんだよ俺は!向こうから寄ってきてキャーキャー言われたいんだよ俺は!そんな理想すら持てず何が男か!」


「ふざけるなよお前ら!相互間の理解と対等感があってこその人間関係だろうが!一方方向からの関係ではいずれ破綻する!どうせ長続きしないぞそんなもん!それなら常に隣にいる相棒のようなポジションの方が絶対にいいぞ!」


「いーや違うね!断じて違うね!そんなの友達とどう違うんだよ!ただの喧嘩友達みたいなもんだろうが!」


「違う!異性だからこそ対等ではあるものの、そこに生まれる微妙な戸惑いこそが尊いのだ!」


「対等な立場って言っても男子女子で平等なんてあり得ないからな!夢見るならもっと別の夢見ろ!」


 あぁでもないこうでもないと白熱する三人の意見に、他の男子から出る新たなる意見を交えながら論争は激化した。


 そして約二時間後。いつものように寮監がやってきて周介たちは強く叱られたのは言うまでもない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 周介と瞳の距離感好きなんですよねぇ [一言] この二人がひっつけば熟年夫婦のようになるのか はたまた初々しさをみせてくれるのか 楽しみです
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