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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
七話「山と大和の名残」

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 学食はそこそこ混んでいた。試験が終わり、これから部活に向かうために栄養補給する者、試験が終わったことによる簡単な打ち上げをする者、様々ではあるが少なくとも周介たちのように話をするために学食を選ぶものは少ない。


 騒がしく、周りの人間が何を話しているかを完全に聞き分けるのは難しいだろう。


 周介と白部がそれぞれ注文して料理を受け取ってから席につく。ちょうどテーブル席が空いていたためにそこに座る。周介はたぬきそば、白部は日替わり定食を頼んでいた。今日の定食の内容はサバの味噌煮である。


「まず、見つかった例の施設だけど、やっぱり既存の組織、過去存在した機関の中を漁っても記録がなかった。相当古いのはわかってたけど、ここまで情報がないのは少し予想外」


「別におかしな話じゃないんじゃないのか?パソコンのデータに残ってない昔って言ったって、パソコン自体が使われ始めたのが三十年位前だっけ?それより古ければ紙のデータってこともあるんだし」


「正確には、五十年前にはもうパソコンはあった。使われ始めたのが四十年位前から。でも、それでもデータの整理が本格的に行われ始めたのは結構最近。それより前のデータはまだ紙のところも多い」


 パソコンによって情報が整理され始めたのは三十年と少し前。それより新しいデータは比較的データ化されているものもあるが、性能の低さからまだデータによる整理がされていないものも多い。


 ほとんどがデータ化され始めたのはここ二十年といったところだ。それ以前のデータは紙媒体で行われることも多かった。業種によっては、この十年の間にようやくデータへの移行を始めたところもあるほどである。


「それならデータが見つからなくても仕方ないんじゃないか?探せるのはデータだけなんだろ?」


「PDFとかにされていれば探せる。問題なのはそうじゃない。今回見つかった施設の場所、あそこは昔から国が管理してる部分だった」


「……国が……ね。山だろ?」


「そう。そこいら一帯をね。そんな国の管理している場所に地下の設備がある。何らかの情報があっても不思議はないでしょ?少なくとも何も記録がないって言うのがまずおかしい」


「……大昔に建てられて、忘れられたとか?」


「その線も先輩にあたってもらった。私はデータで、その先輩は紙でそれを知ることができるから」


 白部のチームはクエスト隊。調査をメインにした部隊だ。白部がデータ上に存在するすべての情報を得られるような能力を持っていても、物理的に管理されている紙媒体のものばかりはどうしよもない。


 だからこそ、それに対して調査が可能な能力者に協力を依頼したのだろう。とはいえ、随分と大掛かりな話になってきているなと周介は少し申し訳なくも思う。


「あぁ、そうか。他のチームメイトに協力してもらったのか……悪いな」


「いい。一応、その施設に関しての調査命令も出てたから。で、結果から言えば見つけられなかった」


「それは……運が悪かったとかそういう話か?どういう風に調べたのかもわからないから何とも言えないけど」


「……これはあくまで私の予想と推察も入ってる。それでも良ければ」


「……教えてくれ」


「今回の施設、かなり問題のある施設だと思う。その資料を残しておくことそのものが不味いと判断できる程度には」


 周囲の騒音が一瞬静かになったかのような錯覚を受けるほど、白部の声は暗く、そして重く周介に届いていた。


 それがどういう意味を持っているのか想像し、わずかに背筋が寒くなる。


「……続けてくれ」


「普通、施設を維持するにはいろいろと必要になる。国の管理する土地で作った、しかも表に出ない地下にってなると、その維持はかなり精密に行われていた可能性がある。なのに紙データさえも存在しないってことは、すべて焼却処分されたと考えるべき」


「つまり、昔は国に管理されてたけど、今は廃棄された建物ってことか。それだけだったら……」


「それだけなら、必ず記録は残す。特に地下にある物なら、ここに何が埋まってますよって言う記録が残る。そうしないと何が埋まってるかわからなくなっちゃうから。まぁ、国が自分たちの土地だからって適当な管理をしていたって言うのも否定はできないけど」


 水道やガス、電気などの管やケーブルを地下に埋設する場合、国は常に埋設物に対する位置座標などの記録を残す。それを残しておくことによって次の工事を円滑に進められるようにするのだ。もちろんそれは建築物などにも適応される。


 とはいえそれは一般の企業に限定される。先に白部が言ったように、自分たちの土地だから書かなくてもいいだろうと当時の人間が判断した可能性も否めない。


 だが白部は、そのような可能性を指摘しながらも、そのようには考えていないようだった。


「私と先輩の見解は、過去、国がやっていた何かの施設で、処分せざるを得なくなった、施設そのものを維持できなくなったために破棄した。それに伴い関係資料も処分って言う流れで一致してる。年代が正確に割り出せなかったから、金の動きまでは追えなかったけど」


「その施設が何の施設だったのかは、さすがにわからないんだよな?」


「そこからは完全に想像の域に入る。中に入ってみないことには何とも。けど、衛星写真を見る限りかなり頑丈に作られてるみたいだった。ただ人が住むだけってことはないと思う」


 白部の調査結果に加え、その推察に周介は頭をひねる。今後自分が入ることになるにあたり情報を得ておきたかったが、結果的にわかったのは『何もわからない』ということだけだ。


 不安と情報の少なさが周介に焦りに似た感情を抱かせていた。


「ちなみに、これは予想でいいんだけど、白部はその施設は何がされてたものだと思う?」


 蕎麦をすすりながら、周介は話を続けていた。周介よりも多くの情報を知っている白部の予想の方がある程度可能性を狭めることもできるだろう。


「可能性で言えば正直何とでもいえるんだけど……人の入り込まない、人気のない場所で、地下の施設。それもかなり頑丈となると……なんかの兵器を作っていた……って言う風にも見える」


「兵器……ってことは、戦時中とかの施設ってことか?」


「ううん、戦時中ならもっと大っぴらに行動できたはず。表に出せないとしても、もっとやり方を変えていた。わざわざ地下にまで潜ってるってことは絶対に見つかってはいけないって言うことが前提」


 戦時中に兵器を開発する事態は別におかしな話ではない。戦争に勝つための努力ととられてもいいのだ。もちろん非人道的なことをやっているにせよ、戦時中にわざわざ山奥、それも地下に施設を作るだけの猶予があったとも考えにくいと白部は結論付けた。


「ってことは……戦後のどこかのタイミングで、なんかの兵器、あるいはそれに準ずるものを作ろうとしていたってことか?それも、表になったらやばい系の」


「そう考えるのが自然。施設の全容が掴めてないから、どんなものなのかはわからないけど……さすがに核兵器とかはないと思いたい」


「それは……見つかったら大事だな」


 戦後、戦争に負けた後に日本は非核三原則というものを定めている。そうでなくとも被爆国でありながら自ら核兵器を作るなど正気の沙汰ではない。


 だが、得てして戦争というものは人の正気を失わせる。その正気を失った誰かが、隠れて核兵器を作ろうと研究を進めていても不思議はないのだ。


「なんだっけ、ガイガーカウンターだっけ?放射線測る奴。あれ頼んどくべきかな……」


「念のために入れておいたほうがいいとは思う。もしそういう設備だったらそれなりの装備をしておかないと危険。それは絶対」


「わかった。頼んでおく。っていっても……兵器……かぁ……」


「兵器と断定するのは良くない。それに近いか、あるいはまったく別のものの可能性もある。破棄されたのがいつ頃なのかもわからない以上、想像はいくらでもできる。それこそ、人身売買の拠点にされていた可能性だってある」


「あり得るか?山の中だぞ?」


「山の中だからこそ。仮に商品が死んでもすぐに証拠隠滅できる。山の中なら登山客と偽ることもできるし、動物の餌にしてもいい。それを国が関わってやってるって言うところに疑問は残るけど。そっちだったら薬物売買の拠点の方がまだ現実的」


 人の命を、人間そのものを商品と言い切れる白部に、周介は恐ろしささえ覚えていた。だが今まで同じような資料を読んできたのかもしれない。彼女にとって、それらは別段驚くようなことではないのだろう。


「国が関わってる薬物とかどうなんだ?」


「おかしくはない。昔は薬局でそういう薬が買えた時代だってあるくらいだし、今だって自衛隊にも配備されてる」


「……そうなの?」


 それは、戦後に起きた高度経済成長期を支えたとある薬、いや、当時は栄養剤などと銘うって販売されていた商品だ。


 薬局に行ってハンコさえ持っていれば購入できたという薬物。一種の覚醒剤。それを飲むのは一般人が多く、中でも社会人、働いている人間に多かったという。


 眠くならず、集中できる。そんな魔法のような薬に人々は飛びついた。とにかく仕事をこなし、とにかく働く。そんな高度経済成長を支えるには、そういった特殊なものが必要だったのだ。


 だが、その効果の反動はすぐに訪れた。その薬物を利用した多くの人間が、中毒症状を起こしたことによって、世間もその危険性に気付いた。


 やがて廃滅させられたが、覚醒剤というものは今でも根強くこの世界に残っている。

 そしてそれは一部の職業のものには、限定的に配備もされている。


 命を懸ける人間。特に戦闘機のパイロットのような、一瞬の操作が生死を分ける。そんな人間には、特別な条件のもと配備され、使用することすらも許される。


 戦時中は、パイロットなどには栄養剤、ビタミン剤などと説明し投与されたという記録も残っている。


 もっとも平和な今の日本では、使うものもごく少数だろう。


「……自衛隊の一部にってだけ。それも限定条件付きだから。それに昔、薬物が薬局でって言うのも、もうだいぶ昔の話で、その後すぐに酷いことになったからすぐに禁止になったみたい。でも、そういう時代の節目に作られた施設なら、なおのこと表に出ていて不思議はない。だから、節目とは別の、違うタイミングで作られた施設の可能性は高い」


「……どっちにしろ、やばい施設ってことだな……兵器なのか、薬物なのか、それは決めつけて動かないほうがよさそうだ」


「うん、危険なことだけ頭に入れておいたほうがいいと思う」


 情報を予め得すぎると、いざという時に判断を間違える可能性がある。現場での判断が最優先で、常に正しいと思う方向を模索し続ける。つい先日古守から教わったばかりのことだ。


 どんな状況になってもいいように準備だけは進める。問題はどのような状況に陥ってもいいように心構えだけはしておくことだ。


 どのような兵器か、どのような薬物か。あるいはそれ以外の何かか。周介の想像力では、これ以上の何かを模索することは難しい。


 敵の存在すらも想定されるこの中で、どの程度の準備をすればいいのか、周介は何となくイメージができつつあった。


 現場に至るまでは常に備える。そして現場では常に考える。これこそが現場に出る隊長に必要な心構えである。それを周介は少しずつではあるが着実に身につけつつあった。


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[一言] > 「ってことは……戦後のどこかのタイミングで、なんかの兵器、あるいはそれに準ずるものを作ろうとしていたってことか?それも、表になったらやばい系の」 ……西暦千九百二十一年……時期的にもあ…
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