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「もしもーし、もしもーし、大丈夫かい?」
「う……うぅ……あれ?」
「あ、起きた起きた。大丈夫かい百枝君、思い切り伸びてたけど」
周介はゆっくりと目を覚ましていた。ぼやける視界を少しずつ鮮明にしていき、周囲の状況を確認しようと視界を動かすと、周介を覗き込むようにしている鬼怒川の顔を見つけた。
「先輩?」
「おぉ、起きた起きた。随分とこってり絞られてるみたいじゃないか。感心感心」
「えっと……俺は……」
曖昧な記憶を少しずつたどりながら、周介は自分が古守と訓練をしていたことを思い出す。そしていつものように一方的に攻撃され、防御し続けていたはずだ。そのあたりの記憶がだいぶ曖昧になっている。
訓練のせいで気絶していたというのは間違いなさそうだった。装備も中途半端な状態で止まっていたせいで変な格好で横たわっていたせいか首や腰がわずかに痛む。
「そうだ、玄徳は」
「あぁ、暴走族君ならほれ、すごい奮闘してるよ」
「え?」
一緒に来ていたはずの玄徳を探していると、鬼怒川が視線を向ける。周介もつられてその視線の先に目を向けると、そこには古守に高速で襲い掛かっている玄徳の姿があった。能力を発動して戦闘をしているのだろう、かなりの速度が出ており、あれで蹴られては人間ではまず耐えられないのは想像に難くなかった。
「おいおい、あんなの危ないだろ」
「いやいや、なかなかいい筋してるよ。ヨッシーさんにあそこまで持ちこたえてるんだから大したもんだ」
「……持ちこたえてる?」
周介の目には玄徳が一方的に攻撃しているようにしか見えないが、どうやら鬼怒川には別のものが見えているようだった。
「気付かない?さっきから暴走族君の攻撃のたびにカウンター入れてるんだよ。やっぱすごいねヨッシーさんは。でもそれにずっと耐えてる彼もすごいよ。動きが全然鈍らないんだね」
カウンターを入れているといわれて、周介は集中して古守の動きを確認してみる。どうしても高速で動き回る玄徳の動きに目を取られがちだが、落ち着いた状態で古守の動きを確認すると、古守は完璧に玄徳の攻撃の軌跡を見切ったうえで安全な位置に体を動かし、攻撃に合わせる形で拳を玄徳に振るっていた。
だがそれもかなり速い。少なくとも先ほどまで周介と相手をしていた時より数段速いように感じられた。
「彼はさ、身体能力強化とかそういう能力はないんだよね?」
「えっと、はい。ないはずです。体だけは普通のはずなんですけど」
玄徳の能力は加速と減速だ。力のレールとでもいうべきものを作り出し、その軌道に動いているものを乗せると加速、あるいは減速させることができる。
肉体は強化されないため、加速した部分で体を打ち付ければ当然その分痛みが走るだろう。
だからこそ玄徳は拳などでの攻撃をあまり使わず、脛の部分を使った蹴りを多用しているのだ。
「なのにあんだけ耐えられるってのは……なるほど、フィジカルに関してはかなり強そうだね。鍛えれば結構いい線行く思うよ?」
「それは頼もしいですけど、あんだけ無茶苦茶動いてれば、カウンターも入れられますよ」
「……ほう、そりゃどうして?」
「玄徳の動きはかなり速いですし勢いもあります。一気に敵を倒すならいいかもですけど、相手が古守さんじゃ動きを見られちゃいますって。俺の攻撃も散々回避されてきましたから」
玄徳の動きは確かに速く、ダイナミックだ。だが同時に大雑把でもある。体の軸とでもいうべき場所めがけて蹴り込むだけだ。何度か攻撃を受けてしまえば古守ならば簡単に見切ることはできるだろう。
このままでは玄徳は一撃も入れられずに終わる。それは周介にもわかることだった。
「……ふむふむ、ではどうするのが良いと思う?」
「そうですね……」
周介は動き続け、攻撃し続ける玄徳とそれを回避し続ける古守を見比べて目を細める。
玄徳の動きが激しいのに対して古守の動きは非常に小さく、だが確実なものだ。最低限のものだといってもいい。
今は玄徳の体力が持っているからこそ攻撃し続けることができているが、そのうち体力も気力も尽きるだろう。
その前に手を打たなければならない。自分ならば、自分が玄徳の能力を持っていたらどうするか。周介はそんな風に考えて、ふと思う。
自分が玄徳の能力を持っていたら、こんな風に使うのではないだろうか、こんな風に使ったらどうなるだろうかという、一種の好奇心だ。
それでどうなるか、試してみたいという気持ちが強くなっていく。
「あの……アドバイスするのっていいんですかね?」
二人で戦っているところに水を差すのは申し訳なく思ったが、周介としてはせっかく玄徳が訓練をして、しかも苦戦をしているのだから少しは助け舟を出してやりたいという気持ちがあった。
そんな様子を見てか、鬼怒川は笑いながらその背を押す。
「いいんじゃない?言ってやりなよ」
鬼怒川に背を押され、周介は笑みを作って叫ぶ。
「玄徳!」




