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「これは失礼を。では、百枝さんにしたものと同じ質問をあなたにしましょう。あなたはどのように強くなりたいですか?」
古守は周介が初めて自分と訓練した時と同じ質問を、玄徳に投げかける。
玄徳にとっての強さと、その本質を知ることができる良い機会だ。訓練にいそしむこと自体は悪いことではないし、訓練をまじめに受けようという気概は感じられる。玄徳自身が何かしらの目的を持っていないとできないことだろう。
恐らく何かしらの理由がある。その理由が何なのか、知る必要がある。
「答えなきゃいけないんすか?」
「答えてくれたほうが訓練の指標になりやすい、とだけ言っておきます。もちろん、言わないというのも一つの手です」
「……兄貴は答えたのか?」
「百枝さんは、自分の身を守れる程度に強くなりたいとおっしゃっていましたね。本質は、また少し別のところにあるのでしょうが」
自分の身を最優先にする。周介らしいといえばらしいのだろうが、その本質がどのようなものであるか知っている玄徳からすればため息しか出てこなかった。
自分の身が惜しいようなことを口にしながら、周介はその状況になれば自分の身を投げ出すことに躊躇いがない。
反射的に動いてしまうなどと本人は言っているが玄徳はそれを信用していなかった。それこそが周介の本質であり、危険な部分だと理解しているがゆえに、玄徳は近くで倒れている周介を一瞬見て目を細めてから再び古守を睨む。
「俺は、俺は兄貴たちを助けられるくらいに強くなりたい。兄貴たちがやばくなった時にどうにかできるくらい強くなりたい」
「なるほど、そうですか」
「……悪いっすか?」
「いいえ、誰かの為に強くなろうと思える君は、とても良い人物なのでしょう。ですが同時に疑問もあります。あなたはそれなりに強い、実際百枝さんと戦えば間違いなくあなたが勝つでしょう」
周介と玄徳の実力差は言うまでもない。玄徳はもともと喧嘩慣れしているのに対し、周介は喧嘩など一度としてやったことがなかったのだ。
今は少しはましになっているというものの、素人に毛が生えた程度だ。実力的に言えばまだまだ大人と子供くらいに差があるといっていいだろう。
「それがなんだ」
「それほどの差がある相手に、なぜあなたはそこまで入れ込むのですか?いえ、入れ込むというのは言い方がよくありませんね。何故あなたは、彼に従うんですか?」
それは古守が素直に気になっていたところだった。玄徳のような我の強い人間を古守は何度も見てきた。体格にも筋力にも素質にも能力にも恵まれ、戦うために存在しているような能力者たちならば数多く知っている。
玄徳はそんな人間に性質が似ている。我が強く、誰にも従わない。むしろ誰かを従わせるだけのポテンシャルを持っている。
だというのに、玄徳は近くで伸びている周介に付き従っている。それも何かに強要されたからという様子もない。
「……前にほかの奴にも聞かれたけど、そんなにおかしいっすか。俺みたいなのが兄貴に従うのは」
「おかしいとは言いません。百枝さんも素晴らしい人物だといえるでしょう。人として十分以上に尊敬できる人物だとは思います」
「だったら」
「ですが、それだけです。尊敬できるだけでは人はついてこない。人がついてくるには、どこか……そう、所謂カリスマのような必要です。人を惹きつける何かがなければなりません。失礼な物言いにはなりますが、私は百枝さんがそのような素質を持っているようには思えませんでした。言ってしまえば、彼は普通の男の子です。普通に怖がって、痛がって、頑張る、普通の子です。だから、少し不思議でした」
古守の周介の評価は、物腰の穏やかな、思慮深く優しい、自分の善性を疑える人物だった。独善的にならず、なったとしても自らを省みて反省することができる、そんな人物だ。
人として、良い人物という評価をしても問題ないと思える性格だ。だが、玄徳にも言った通りそれだけのように感じられた。
ほんのわずかに、その本質の危なっかしさは感じた。訓練の時にも時折その片鱗が見え隠れしている。だがそれだけだ。玄徳ほどの男を従わせられるだけの何かがあるとは思えなかったのだ。
「そうだな……確かに兄貴は普通だよ。能力がなければ普通の高校生になってただろうよ。だからだ。だから俺は兄貴についていくって、そう決めたんだ」
「それは……どういう?」
それは、玄徳がそう決めたことだ。誰に言われたわけでもない。誰かに頼まれたわけでもなく、自分自身がそうしようと決めたことだった。
最初は少し違った。自分を助けてくれた者への恩返しという意味合いも多かっただろう。
だが今の玄徳は、周介についていきたいと、そう思っていた。普通に優しく、強く、弱く、それでいて危うい。そんな周介だからこそついていこうと決めたのだ。
「そこまで教える義理はねえ。第一、そんなところまで訓練には関係ねえだろ」
「確かに、それもそうですね」
「それよりもだ」
一つ区切るように一言告げてから、玄徳は深く腰を落とす。
その声音に含まれるものを、古守は肌で感じ取っていた。それは今まで何度も感じてきた、むき出しの殺意だ。
「……散々兄貴をコケにして……覚悟はできてんだろうな?」
額に青筋を浮かべたまま、玄徳は殺意さえ向けている。周介のことを低く評価されたことが思ったよりも玄徳の逆鱗を刺激していたようだった。
これは失敗したかなと思いながらも、古守は玄徳のその性格と本質を理解しつつあった。
「それは怖い。では、せいぜい気を付けるとしましょう」
古守の言葉を聞くと同時に、玄徳は古守に向けて攻撃を仕掛ける。玄徳の今の最大の速度で放たれた蹴りは、周辺の空気を大きく動かしていた。




