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周介がある程度古守に叩きのめされた後、玄徳は古守と戦闘訓練をしていた。
玄徳は基本的に肉弾戦を好む。その好みを古守は早々に見抜いたのだろう。周介からあらかじめ聞いていたというのも判断材料の一つとなったかもしれない。
その体格と、程よく着いた筋肉、そして何より拳の皮の厚さを見て、玄徳が話に聞いていた喧嘩の強い隊員だと理解したのだ。
「加賀さんの能力は加速と減速ですか。なるほどいい能力だ。攻撃、防御、回避、援護、阻害、どれも高いレベルでこなせる」
「どうも」
玄徳は加減をしているつもりはなかった。兄貴分であり隊長である周介が、装備を身に着けた状態であっさりと倒されてしまった状況を見て、自分が仇を打ってやると内心意気込んでいたのだ。
古守が出した条件は周介の時と同じ。能力を使って攻撃をしてみること。
玄徳は持ち前の機動力と身体能力をもってして古守めがけて攻撃を加えた。加速によって人間が出せる最大の速度をはるかに上回る蹴りを放ったつもりだった。だが簡単によけられた。
今度は相手の動きを阻害しようと、避ける方向に減速の効果も発動したというのに、それでも避けられた。正確には受け流されたというべきだろう。
そして玄徳の三回目の能力の発動の際には、すでに古守は玄徳の能力の大まかな制限や効果などを見切ってしまっていた。
そして先の発言に至る。
人間が見てから反応できる速度ではない。それはスポーツをやっていた玄徳だからよくわかっていることだった。
それでも、回避された、受け流された事実は変わらない。その理由を考えた時に思い当たるのは単純な技術と経験、そして鍛錬の差によるものだと玄徳は察していた。
人間というのは自らが普段行う動作などを、反射的に行うことが可能になる生き物だ。後天的な反射というものは、意図的に作ることができる。
戦闘における防御や回避、そういった行動を反射的に行えるようになるまで、おそらく古守は自らを鍛え上げたのだ。
もちろんその訓練は一朝一夕のものではない。並大抵のものでもないというのも想像がつく。
初めて会った時、周介に紹介され相対した時、玄徳は意図的に礼儀正しく対応した。
それは以前周介に注意されたからというのももちろんある。ここで自分が失礼な態度をとれば、周介の顔に泥を塗ることになるということをわかっていたからである。
だがそれだけではない。玄徳自身が本能的に、この人物に対して敵対的な行動や態度をとってはいけないとそう感じたのだ。
この場で敵対的な行動をとった時、万が一古守に攻撃されたとき、周介を守り切れる自信がなかったからこその行動だった。
そしてその危険に対する感知は今も最大限発揮されている。
古守が繰り出す攻撃は、決して玄徳のように人外の速度で放たれているわけではない。瞳の操る人形と同程度の速度しかないはずだった。
だがどうしても、どういうことなのか、避けにくかった。
それが動きの性質の差であるということを、振るわれた拳を防ぎ、回避しながら玄徳は本能的に察していた。
瞳の人形の動きは、言ってしまえばリプレイだ。同じ動作を繰り返すことでしか高いパフォーマンスを発揮できない。
ある程度予測もできるし、対策も打てる。玄徳がかなり早い段階で瞳の人形との訓練に慣れることができたのはそういった事情があった。
だが目の前にいる人間の動きはそうではない。常に玄徳の対応を先読みし、予想とは逆のことをしてくる。
それでも抜群の運動神経を有する玄徳であればギリギリ反応できるレベルだ。だが逆に言えば、古守が何らかの能力を使った瞬間に、玄徳は反応できなくなるということでもある。
「加賀さん、あなたはだいぶお強い。単純な実力で言えば百枝さんよりもずっと上でしょう。訓練の仕方によっては十分大太刀部隊になれる素質も持っているようだ」
「そいつは、どうも!」
「どうです?あなたさえよければ、知り合いの部隊を紹介しますよ?こういういい方はあまり好きではありませんが、小太刀部隊にはもったいない才能です」
古守の言葉を聞き、頭で理解した瞬間、自らに振るわれた拳さえも無視して玄徳は深く踏み込み、カウンターの要領で古守の腹部に拳を放つ。
正確には相打ち、いやそれ以下だった。玄徳の体めがけて放たれた拳は、玄徳の胸部分を打ち据えた。対して古守はギリギリのところで腕を盾にすることで防御した。だが玄徳の攻撃をまともに防御した衝撃を殺しきれず、わずかにその体が後ろに運ばれる。
「俺のことを買ってくれんのはありがたいんすけどね」
胸に沈むように宿る痛みなど、玄徳は今完全にどうでもよくなっていた。額に青筋を浮かべる玄徳は、敵愾心を隠そうともせずに古守を睨む。
「俺はあの人以外の下につく気はないんで、遠慮させてもらいます」
あの人というのが、近くで伸びている周介のことであるということを古守はすぐに察していた。
まるで猛獣のような男だと、玄徳をそう分析しながら、そんな男からこれほどまでに慕われている周介に、強い興味がわいていた。
ただ指導するだけのつもりだったし、周介が優しく、思慮深い人物であり、時に危うい思考を持ち合わせていることもわかっていた。
だがこれほどの男を従わせるほどのカリスマがあるようには見えなかったため、古守は少しだけ驚いていた。




