0320
「へぇ、新しいチームメイトかぁ」
周介は後日、テスト勉強の息抜きを兼ねて大門の作る庭園を訪れていた。
土に混ざって広がる緑の匂いが確実に植物の成長を感じさせる。庭園も既にほとんど形になってきている。
今はまだ植物の成長は少しずつでしかない。芽をだし蔓や茎をのばしている最中だ。まだまだ花や実をつけるには時間がかかるが、それでも確かな成長が感じられる。
石垣やレンガなどで作られた花壇、土を盛られ、排水や給水、そして光を当てる設備も完成している。
完全に屋内の庭園といった様相に、周介は感心せずにはいられなかった。
「えぇ、うちのチームも四人になりました。まだまだひよっこの集まりですけど」
「いやいや、それでもかなりチームとして形になってきているよ。機動力に長けた前衛二人、そして人海戦術を行えるフォロー役の中衛、索敵を行える後衛、チームとしてなかなかまとまってきている」
「そうでしょうか?それに前衛としては俺はあまり……」
「前に居られるって言うだけでも違うものさ。現場に出る人間である以上、チームとして完結していることはかなり大事だ。ビルド隊やノーマン隊なんかは役割が決まりすぎてるし、人が多いからそういう感じはしないけどね。他の部隊も結構前衛、中衛、後衛の三つに分かれてるところは多いよ」
大門は大まかにではあるが、それぞれのポジションの説明をしてくれた。
前衛、つまりは敵に最も近づいて攻撃への防御、回避などの対応を行う部門。敵の攻撃に最もさらされる場所でもあるため、防御に長ける、あるいは回避に長けたものであることが好ましい。高い耐久力も当然求められる。
中衛は前衛と後衛のフォロー、最も多岐にわたる行動が多いため、広い視野と技量の高い人間が行うべきポジションでもある。難易度的にはここが最も難しく、中衛の技量の高い部隊は総じてハイレベルなチームが多い。チームの要というべき存在である。
後衛はチームが行動するための状況そのものを把握するために行動する。周囲の索敵や現場の状況、そして背後の情報など、それらすべてを統合して状況を判断してチームの方針を決定する材料を提供する。これがないとチームは路頭に迷うことになる。
三つのポジションに周介のチームのそれぞれを当てはめていくと、先ほど大門が言っていたように周介と玄徳が前衛、瞳が中衛、知与が後衛というポジションになるのだろう。
「でもそれって、外の依頼で戦闘があることが前提の考え方ですよね?俺らは小太刀部隊なんですけど……」
「うん、それが結構大事なところでさ、君らって機動力に長けてるんだろう?そうなってくると戦闘を絡めた出動って増えると思うんだよね」
「え?なんでですか?」
「この間、百枝君達はレッドネームと会ったって話を聞いたけどさ、今組織の中で追ってるレッドネーム以上のクラスの犯罪者は、総じて機動力に長けてるものが多いんだ。要するに特定の、具体的には機動力に長けたチームじゃないと追いかけることができないような」
「……つまり?」
「大太刀部隊にももちろん機動力に長けたチームはいる。けどそのチームが毎回出ることができるわけじゃない。百枝君のチームは、学生がメインのチームってこともあって出動しやすいんだよね?」
「まぁ……一応」
「そうなると、対象が見つかった時、まず君たちが出て足止めをする、あるいは追跡をし続けるってことになるかもしれない。そして追い詰めて大太刀部隊が待ち構えて倒す。そんな感じの行動をとることが増える可能性もある」
「……えぇぇぇえ……」
可能性としては十分にあり得る。その可能性を聞いた瞬間に周介はものすごく嫌そうな顔をしてしまう。
ドクがなぜ知与をチームに入れたのか。それが索敵が現地で即座に行える人間の補充で、もし大門が考えているようなことをドクがやらせようとしているのであれば、それは周介からすれば嫌なことでしかない。
「最近古守さんと訓練もしているんだろう?そのあたりの準備なんじゃないかって僕は思ってるんだけど」
「確かに……確かに……!やばいやばい、そんなことさせられてたら命がいくらあっても足りないぞ……」
「んー……さすがに小太刀部隊の人間にレッドネーム以上の奴らの相手を積極的にさせるとは考えにくいから、あくまで追跡とかに専念の可能性もあるけどね。どちらにせよ、その可能性だけはあると考えたほうがいいかも」
「いやだなぁ……この間のだって他に大太刀の人間がいて攻撃しまくってくれてたからよかったですけど……あれを俺らだけってのはきついですよ」
周介は戦闘経験自体は少ないが、あの状況を作ったのがミーティア隊の力が大きいことくらいはわかっていた。
敵を自由に動かせない狙撃と、敵の視界を塞ぎ、防御に専念させる飽和攻撃。あの二つがなければ周介たちはすぐに攻撃されて危険な状態になっただろう。
大太刀部隊は戦闘専門の部隊だ。周介たちと違って戦うことが目的の部隊だ。そういう部隊がいない状況で敵と出会うことがどれだけ危険なことか周介だって重々承知していた。
「ん……手伝ってあげたいけど、僕らの部隊もいつでも出られるわけじゃないからなぁ……何なら、僕らが訓練の手伝いをするって言うのはどうだい?」
「大門さんの部隊が……ですか?」
「んー……もしかしたら僕一人になりそうだけど、それでも戦闘経験は豊富であって損はないと思う。古守さんだけとやってると、どうしても変な癖が付いちゃいそうだからね。いろんな人と戦ってみて損はないと思うよ?」
特定の誰かとだけ戦っている場合、当然その対応力はかなり限定されたものになってしまうが、大門の言うようにたくさんの種類の誰かと訓練をしていれば、その分対応力にも磨きがかかるというものだ。
訓練の序盤では基礎を作り上げるために特定の誰かと訓練し続けるのも悪くはないだろう。だがいずれ多くの人物と腕を競い合うのも重要なことになるかもしれないなと周介は考えていた。
特に戦闘に関わるのは周介だけではない。玄徳も、あるいは瞳も多くかかわるかもしれないのだ。であれば一緒に訓練しておくべきなのかもしれなかった。
といっても、瞳の場合は訓練に参加したがらないかもしれないが。
「可能なら、是非お願いします。といっても、まだ基本を教わってるところなので、お願いするのはまだ先の話になるかもしれませんが」
「それでもかまわないさ。どちらにせよ、僕もチームメイトを説得するのに時間がかかっちゃうかもしれないからね。たぶん協力してくれるとは思うけど」
「でしたらいずれご挨拶に伺います。協力してもらえるならちゃんとしておかないと」
周介はラビット隊の隊長だ。部隊の強化のために協力してくれる人にしっかりと礼儀を尽くすのはとても大事なことでもある。
礼儀を尽くさないものには、いずれ誰もついてきてくれなくなる。自分たちのために何かをしてくれるのなら、しっかりと感謝をしなければならない。今までいろんな人に世話になってきた周介だからこそ、特にそう感じるのかもしれなかった。
「うん、それはとても大事なことだね。百枝君はまだ高校生なのに、そういう風に考えられるんだね」
「まぁ……いろんな人に迷惑かけましたし……現在進行形でいろいろと助けてもらってるところなので」
周介は自分が優秀な人間だとは思っていなかった。訓練をしていても、つい先日あっさり知与に追い付かれた。そして古守のところに足を運んではボロボロにされてしまう。瞳のように経験が豊富なわけでもなく、玄徳のように優れた身体能力を持つわけでもなく、知与のように才能にあふれているわけでもない。
ラビット隊の隊長としてふさわしいかと言われると、正直微妙なところですらある。隊長としてどころか能力者としても未熟な周介にできることといえば、努力を続けることと、何かを与えてくれる人に感謝し、礼をすることと、努力をし続けて結果で示すことしかできない。
「俺自身、能力者としてもまだまだで、でもそんな俺でも瞳や玄徳は、俺のことを隊長として認めてくれてる。だから、俺はせめて部隊の為になることをしたいと思うんです。あいつらが俺のことを隊長と言ってくれる限りは」
「……うん、百枝君はなかなかいい隊長だね。僕らの隊長とは随分と違う印象だ」
大門の部隊。通称BB部隊はどのような部隊なのだろう。そしてどのような隊長なのだろうかと周介は疑問を持っていた。
大太刀部隊ということで、戦闘メインの部隊だということは理解しているが、戦闘部隊といってもおそらく色とりどりだろう。
福島の所属するミーティア隊のように狙撃を専門とした部隊もいれば、おそらく近接戦を想定した部隊、そして中距離による射撃戦を想定した部隊もいるはずだ。
大門の部隊がいったいどのような部隊なのか、気にはなったが、それを知ったところでまだまだ周介たちには手の届かない場所にいることに違いはない。
「俺は他の部隊の隊長はあんまり知らないんですが、大門さんのところはどんな隊長なんですか?」
「ん……頭はいいかな。部隊の立ち回り方とかよくわかってると思うよ。そのおかげで僕らもだいぶ楽をさせてもらってる。けど、まぁその……百枝君みたいに手放しに優しい感じではないかなぁ」
手放しに優しいなどと言われると、周介としてはむず痒くなってしまう。別にそうあろうとしたつもりはない。誰かに優しくしようと意識したつもりはないし、優しいということはもっと別の何かであると考えているため、そう褒められても心境は複雑だった。
「大門さんは大学生ですよね?そちらの隊長も大学生ですか?」
「うん、同い年さ。昔から一緒にいる仲でね。一緒に居た時間で言えば親より長いかもしれない。まぁ、子供のころからここに居れば、ほとんどの人はそんな感じになっちゃうんだけど」
子供のころからここにいる。それは子供のころから親と引き離されていたということでもある。
それはとてもつらいことだっただろうと、周介はぼんやりと考える。そして同じ境遇にいる瞳のことを思い出す。
彼女も幼いころからこの組織にいる。それはとても、とてもつらいことだったのではないかと思う。
思えば周介は彼女から家族のことはあまり聞いたことがなかった。無理に聞き出すこともないだろうが、少しだけ、ほんの少しだけ興味がわいていた。
「気にしなくてもいいんだよ?」
「え?」
「子供のころからって聞いて、少し思うところがあったんだろう?君は顔に出やすいね」
「す、すいません」
一緒に植物の世話をするようになって、周介の表情の機微を見抜くほどになっていた大門に、周介は苦笑するほかなかった。
自分は顔に出やすいのだろうか。そんなことを考えながら、周介は目の前に広がる植物の芽に水を与えていた。




