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「とりあえず小島君の装備で今考えているのは、普段君たちが身に着けているのと同じ種類の所謂ラビット隊用個人装備、ヘルメット部分を通常のものとは違う形にして、全身の装甲なんかもちょっと形を変えようと思ってるよ。そしてもう一つ、小島君が入る用のぬいぐるみ型スーツさ」
「ぬいぐるみ型……って言うかそのまんまでしょう?入れるような瞳が操れるぬいぐるみってことでしょう?」
知与はその体力のなさに加え、目が見えないという危険性を考慮してぬいぐるみに入っての移動が推奨されている。
だからこそぬいぐるみを作るというのは理解できるのだが、それは今あるぬいぐるみで良いように思える。
「いやいや、僕が既存のもので満足するとでも思っているのかい?安形君が操ることができるギリギリを模索しながらいろんな機能を大量に入れていくつもりなんだよ。それこそ、今後周介君用の空を飛ぶ装備が完成したらそのあたりも組み込みたいと考えていてね。そのぬいぐるみが着る用の装着型装備も作らなきゃいけない!いやもう作るものが多すぎて嬉しい悲鳴ってやつさ!」
本当にうれしそうに笑うドクを前に、周介たちは苦笑するほかなかった。
よくよく考えてみればドクがものづくりできる環境にあるというのにすでにある人形で満足するはずがなかった。
もともと創作意欲が人間の形を成したような性格をしているのだ。ありとあらゆる可能性を考えていろんな機能を詰め込んでも不思議はない。
「ドクター、それならあたし用の奴も新しくしてくれますか?今のクマ入ると暑くて」
「もちろんいいよ。これを機に全員分を、と考えたけど、まずは二人の分を優先して作ることにしよう。まぁということでしっかりと測量をお願いしたいわけで」
「あたしたちが交互に……って知与は測れないか……仕方ない……エイド隊の人に測ってもらうか……」
「ご、ごめんなさい……」
「知与が謝ることじゃないでしょ」
知与はまだ文字や数字の読みは完璧ではない。索敵で何という表示化を確認することができても、それを完璧に理解することができないのだ。
こればかりは時間をかけて覚えていくしかないことであるため、一朝一夕でどうにかなるものでもなかった。
「先生、それなら俺からその人形につける機能を一つお願いしていいっすか?」
「お、いいよいいよ、リクエストは大歓迎さ。どんな機能だい?いっそのことロケットパンチでも付けるかい?」
「いや、そういうのはちょっと。ぬいぐるみの外側につける装備の方でいいんすけど、なんつーか、こう、舗装の場所を自由自在に走れるような、バイクか四輪みたいな感じの機構が欲しいんす。んで、その上に人が乗れるような」
「おー……あー……うん!言いたいことはわかった!四つん這いみたいな感じになった時にタイヤ部分が地面について背中に乗れるような感じだね?よしよしイメージはできた。移動を楽にするためって感じかな?」
「それもあるっす。あるいは人の乗る部分を格納庫にしてもいいですし」
「いいねいいねそういうの大好きだよ。他に何か要望は?」
「あ、じゃあ俺から。そのぬいぐるみ、将来的に俺らが入る可能性もあるなら俺のアームを付けてほしいです。万が一の時それで動けるし」
「オーケーオーケーいいよいいよ。じゃあちょっと大きめのものをつけておこう。人形であれば重さもある程度は耐えられるし。安形君、安形君の人形、どれくらいの重さなら普通に動けるかな?」
「クマ型だと……それでも人が入る以外に百キロも乗せると動きは遅くなりますよ。素早く動くなら、五十キロから七十キロが精々だと……」
いくら瞳の能力で操るとはいえ限度がある。瞳の能力ではあくまで人間と同程度か少し上程度の動きしかできないのだ。物を運ぶ行動で慣れているため、重いものを運ぶのは苦にならないだろうが、重い装備を身に着けた状態で行動するのはやはり速度が落ちるのだろう。
「多少人形が重くなって動きが遅くなっても俺のローラーとかと玄徳の加速でフォローできるだろ。問題なのは足とか腕とかの動きだ。荷重が足にかかることを考慮してもそのあたりの限界を知っておけばドクも装備を作りやすいんじゃないか?」
「それは確かに!是非確認してくれると嬉しいよ!クマのぬいぐるみは足腰しっかりしてるからかなり持ちこたえてくれるだろうけど、それでも限度があるからね。場合によっては骨組みも作るよ?」
「骨組みは……ん……ちょっと苦手かもですけど」
瞳が操ることができる人形にも限度というか制限がある。昔はマネキンも動かすことができなかったため、動かすことが可能な人形、というより人形を構成するパーツの限度があるのだ。
瞳は人型の機械、つまりロボットを動かすことができない。だが人ではない形のぬいぐるみを動かすことはできる。つまり形ではなく構成成分によって動かすことができるかどうかが決定するのだ。
瞳の能力の詳細はドクの方が詳しい。だからこそどれほどの機材をぬいぐるみに埋め込むことができるのかを把握できる。
あとはどの程度の動きに耐えられるか。これは瞳の能力の性能に左右される。装備の性能は現場での行動にも大きく影響を及ぼす。ある程度しっかりしたものを作っておいて損はないだろうとその場の全員が考えていた。
周介たちは拠点の中を大まか案内し終えると、それぞれが普段の生活に戻り始める。周介は発電をしながら勉強を。瞳は玄徳の訓練の相手をしながら同じく勉強を。玄徳は瞳の人形を相手に訓練を行っていた。
その中のどこに入ろうかと、知与は迷っていたようだが、まずは文字などの読み書きをもっと覚えないとまずいと感じたのか、まずは勉強組の中に入ることにしていた。
「せっかくだから能力の訓練も併用して勉強したほうがいいでしょうね。索敵しながらじゃないと文字の読み書きできないのはいいとして、部屋の人形の立ってる数を教えてくれる?」
そういうと瞳は部屋にたくさんの人形を展開していく。その人形の種類は多岐にわたる。
玄徳の相手をしているマネキンから、ぬいぐるみなど、それこそ彼女が操ることができるものすべてを動かしているように思えた。
「すごい、瞳さんってどれくらいぬいぐるみを操れるの?」
「状況によるし……体調によっても増減するから何とも……ただ百は余裕」
「百……そんなに」
「今ここにあるのは小さいの含めて五十ちょっとだから、そのあたりは索敵で数えて。どれくらいあるかを瞬時に把握するのも索敵の大事なところだから、テンポよくわかるようにならないとね。はいスタート」
「え!?え!?」
瞳が手を叩くと、部屋の中にいた人形たちがスクワットをしだす。そしてもう一度手を叩くとその動きが一斉に止まる。タイミングもスクワットをする早さもばらばらだったが、直立とスクワットの屈んでいるポーズとははっきりと分かれており、立っている人形と座っている人形をしっかりと区別できるようになっているようだった。
「ほら、手が停まってる。文字をかけるようになる訓練も併用して」
「え!?えぇぇ!?こ、これを一緒に!?」
「そう。周介はもう能力を発動しながら勉強もできる。知与は索敵で数を把握しながら文字の読み書き。簡単なやり方ではないけど、少しずつできるようにならないと。索敵範囲を自分の意志で絞るって言う意味合いもあるんだから」
「えっと……索敵範囲を?」
「今、知与の索敵の範囲がどの程度なのかはあたしにもわからない。でも今不要な部分を常に索敵している必要はない。能力の効果範囲を自分の好きなように変化できたほうがいいでしょ?」
索敵能力というのは基本的に、効果範囲にある索敵可能なものを把握する能力だ。索敵範囲や、何が索敵可能かは能力による。知与の場合はかなり広範囲を物理的に索敵していると思われるが、その範囲をコントロールするのもまた必要なことだ。
脳に不要な負荷をかけることは無駄でしかない。必要な時に必要なだけの範囲を索敵し、状況の把握を即座に行えるようになることが索敵能力者の必須事項だ。
「瞳よく知ってるな。さすが組織の古株」
「ある程度は能力の特性はここに居れば耳に入るから。それに、ドクのうんちくを聞いてると何となく予想もできるでしょうよ」
「確かにな。能力の効果範囲と何ができて何ができないのかってのは結構大事な気がする。知与、焦らなくていいから少しずつやっていけばいいよ。俺もそんな感じだったし」
「わ、わかりました」
知与は文字を読み取り、それを真似しながらノートに書いていく。そしてそのノートの隅の部分に自分が把握している人形の立ち上がった数を数字でかいていた。
数字やひらがな、カタカナの一部は書くことができるようだから、あとは漢字などを覚えて書けるようにすることだ。
これは小学校の頃に習う部門が多いため、この辺りはかなり時間を要する部分でもあるだろう。
だが瞳はふと思った。
「そういえばさ、知与は計算とかはどうしてた?」
「え?どうしてたって?」
「あたしたちはこうやって紙に書いて計算してたんだけど、知与はどうやってたの?」
「えっと、点を作ってそれで文字を表したりして計算してた。あとは……暗算とか」
「暗算……どのくらいできるの?」
「二桁くらいまでなら……」
「……四十六かける二十八は?」
「千二百八十八」
即座に掛け算の暗算をして見せた知与に、周介と瞳は「おぉぉぉおお」と感嘆の声を上げていた。
単純な掛け算程度なら周介たちも即座にできるが、二桁となると少し時間がかかるものだ。それを即座に、まさにノータイムで答えた知与。これは今までの経験が生きているのだろう。少なくともこれほど早く答えるには電卓が必須になってしまう。
「数字関係は強そうね。知与にはこれから数字関係を頑張ってもらいましょうか」
「でも、それ以上はちょっと。三桁くらいになるとちょっと」
「百二十八かける三百四十七は?」
「えっと…………四万……四千四百十六」
「合ってる?」
「……合ってる」
携帯の電卓機能を使って確認したところで再び感嘆の声が上がる。これは大したものだと、周介と瞳は拍手さえしてしまっていた。
筆算をしないことにはできなさそうなことも暗算でできてしまう知与の意外な才能に、周介と瞳は素直に感動すら覚えていた。




