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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
七話「山と大和の名残」

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 周介たちは知与の体力が回復するのを待ってから、拠点内の案内を再開していた。


 知与はクマのぬいぐるみに乗せ、医務室、訓練室と見て回っている。主に索敵によってその場所と何があるのかを把握するため、彼女自身が歩き回る必要性はない。


 そして、最後に周介たちがよく訪れる場所に到着する。そこはドクたちがよくいる、いわゆる工房だった。


「ここが工房、主に装備とか設備のパーツが作られているところだ。中にたくさん人とか機材があるだろ?」


「えっと……うん、確かにあるみたいですけど」


「あれを全部作ってるんだ。その材料の運搬とかも俺らの仕事のうちに入るから、少しずつ覚えていけばいいと思うぞ。じゃあ次いくか」


「え?中に入らないんですか?」


 今まで中に入って説明していたのに、なぜこの場所だけ中に入らないのかと知与は疑問を覚えているようだった。


 とはいえ、それを口で説明してもどうしようもないのもわかっている。


 単純にうるさいからというのは理由にならないかもしれない。だがうるさいというのは結構辛いものだ。


「よし分かった。それじゃあ入るか……耳塞いでおけよ」


 瞳と玄徳は既に耳を塞いで防御を固めている。知与もそれに倣って耳を塞ぎ、どういうことなのだろうかと首をかしげていた。


 周介が扉を開けると、部屋の中にこもって逃げ場を失っていた音が一斉に周介たちのもとに吐き出される。


 巨大な音が、そしてその振動が肌と耳に伝わって鼓膜を直接揺らしていく。その状況をどのように形容すればいいかといわれれば、うるさいの一言だ。


「わかったか!これが理由だ!滅茶苦茶うるさいんだよここ!」


「え!?なんですか!?」


「ここに入るの嫌なんだ!滅茶苦茶うるさくてしばらくまともに音が聞こえなくなるんだよ!」


 知与は慣れていないからか、周介たちの声をうまく聞き取れていないようだった。とはいえ入り口の部分だけでこれだ。中に入ったらまったくコミュニケーションが取れなくなってしまうことだろう。


 だが開けてしまった以上案内をしないわけにもいかない。周介たちはとりあえず中に入りどのようなものが作られているのかを見ていくことにした。


 とはいえ、見ていくといっても知与は索敵によってこの中の状況はわかっているだろう。だからこそまず一番に教えておくべきことを教えておくことにした。


 奥にある一角、良くドクがいる場所だ。


「ここが高確率でドクがいる場所だ!ドクがどこに行ったのかわからない場合は、この辺りを探すと大体いる!」


「ここですか!?わかりました!」


 周りがうるさすぎて大声で話さなければいけないというのは非常に面倒くさい。ここに来る時にはノイズキャンセラー付きのイヤホンと無線機を持ってきた方が安全に会話できるだろう。その場合この場にいる人間とは会話できなくなるが。


「ここはいつもこんな感じなんですか!?」


「大体な!あんまりうるさすぎると迷惑がかかるって防音仕様にしたそうだ!あと夜遅くまでやってると大隊長に怒られる!」


「確かに!これは!ちょっと!」


 知与もこれほどの騒音は初めての経験なのだろう。耳を塞ぎながらもかなりつらそうな顔をしている。


 無理もない話だと周介は苦笑してしまう。


「とにかく早々に離脱するぞ!ここにいると厄介なことに」


「あれ!周介君達じゃないか!奇遇だね!どうしたんだい!?」


 普段であればこれほどまでに声を張り上げることなどない人物が声を出していることに周介たちは嫌な予感が止まらなかった。


 視線を声がした方向、というかその気配がする方向に向けるとそこには満面の笑みを浮かべながら汚れを隠そうともしないドクが立っていた。


「げ……しまった、さっさと逃げ出すべきだった」


「周介君!そんないやそうな顔をされると僕としても傷つくんだけどなぁ!ひょっとして彼女の案内できていたのかい!?じゃあちょうどいい!今度彼女の個人装備を作るにあたっていろいろと知りたいことがあったんだよ!このあと時間あるかい!?あるよね!?頼むよ!」


 こちらの都合も事情も聞こうとしないドクに、周介たちは嫌な顔をしてしまう。相変わらずというかなんというか、周介は呆れた表情を崩せなかった。


「何が知りたいんです!?具体的には!?」


「彼女の身長とかそのあたりのデータさ!さすがにそういった部分を想像で補うのは無駄だからね!ちょっと測定させてほしいんだよ!」


「知与は女の子です!測定であればそのあたりは女性の方をお願いしたいですね!同様に作製にも!」


「そんな!君たちの装備は僕が作りたいのに!頼むよ!」


「倫理観!セクハラで訴えられますよ!」


 隊長としてここで引くわけにはいかないなと周介はドクに対して真っ向から反抗する。とりあえずこんな騒がしい場所で話すことでもないと、周介たちは案内を続けるためにドクを伴って場所を変えることにしていた。


「そうは言うけどね、パーソナルデータを使う上で必要なことだというのは理解してほしいなぁ……体の正確な寸法がないとそのあたり作るのが難しいんだけども」


「それはわかってますけどデリカシー持ってください。知与は女の子です。女性の製作班の人でいいじゃないですか」


「……いればいいんだけどねぇ」


「いないんですか?」


 この拠点において、製作チームの人間を多く見てきた周介だが、思えば確かに女性は見たことがなかった。


 だがさすがに一人としていないということはないだろうという予測はできていた。これだけの人数がいるのだ。一人くらいいても不思議はない。何より女性がいなければ今まで女性の装備は誰が作ってきたのかという話になる。


「瞳、今まで瞳の装備って誰が作ってたんだ?」


「ドクターたちだけど」


「寸法測るのは……?」


「それはさすがに他の人に頼んだ。ドクターが測ってほしい場所を人形とかに書いて、それをエイド隊の人に測ってもらった」


「……ドク、知与も同じような感じで?」


「うん、お願いしたいね。大丈夫、プライバシーは守るし、情報に関しては厳重に保管させてもらうよ。神に誓ってもいい」


 科学を信奉している人間が神に誓うなどと言っても説得力などない。特にドクのような人種は、おそらく神といった存在は信じていないことだろう。


 良くも悪くも現実主義、ロマンを語ることはあっても、ファンタジーを語ることはあまりない。そういう人種の神への誓いにどれほどの意味があるだろうかと、周介は眉をひそめていた。


「万が一情報が洩れたら大隊長に告げ口しよう。あの人女の人だし、きっと重めの罰を下してくれるだろう。工房使用禁止とか」


「あ、それは結構困るかも。オッケー、大隊長に誓って君たちのパーソナルデータは完全に管理しよう」


 先ほどの神に誓うより、よほど信じられる言葉だ。神に誓うよりも上司に誓うほうが信じられるというのも奇妙な話だが、そのあたりは仕方のない話なのかもしれない。


 ドクはそういう人間だ。神の名を出すより人の名を出すほうがよほど信憑性が増すというものである。


「まぁそれはさておいてだ。いろいろと知りたいことがあるのはわかってくれただろう?あとは本人に希望を聞いていくだけさ」


「希望、ですか?」


「そう。装備を作るにあたってこんな機能があってくれたら嬉しいなとか、そういう機能さ。君の場合はその辺りが特に重要だと思うよ」


 目の見えない知与にとって、補助的な機能があるかないかの差は大きいだろう。周介たちのように視界を広く確保するためのヘルメットの代わりに別のものを取り付けることができるのだ。補助機能もいろいろと取り付けられるようになるのは間違いない。


「まぁいきなり言ってもそんなにすぐには思いつかないだろうから、そのあたりはおいおい、少しずつ思いついてくれればいいさ。周介君の装備も結構いろいろと変えていっているからね。小さな変化だろうけど、人によって装備を変える以上最適化は必須項目だよ」


 ある程度の規格があって、それに合わせて人が動くのではなく、ドクが作る場合はまずは規格に沿って作り、そこから装備を最適化していくという作業を好む。


 これは単純に人間という生き物の形がある程度決まっているから、ある程度の規格で当てはまるという一般人目線の設計ではなく、能力が個々によって大きく異なるため、能力を含めた動きやすさを目的としているのが大きい。


 実際周介たちも同じ部隊であるために同じようなデザインの装備を身に着けているが、すでに細部は大きく異なってきている。


 特に特徴的なのは周介の装備だ。いろいろなものが取り付けられていき、他の能力者にはまず扱えないような装備が目立っている。


 一点物の装備は他者が流用できないという意味では、デメリットもあるがメリットもある。それが敵対的な能力者への対策であるということは何となく周介にも理解できた。


「さっきちょっと出してもらいましたけど、周介さんの装備?に足みたいな、手みたいのが生えてたんですけど……」


「あぁ、あれも周介君の装備さ。背中に取り付けられた補助アームを使って移動や攻撃、防御などを可能にしている。最近ちょっと形を変えているんだ。今試行錯誤中でね」


「あぁいうのもできるんですか?」


「不可能ではないけど……君の場合、腕を動かすための動力を作らないといけないね。あれは基本周介君の能力で動くものだ。そういった念動力系の能力を持たない君がそれをつけてもあまり意味はないかな」


 周介は自らの能力が動力になってパーツを動かしている。だがもし知与があの腕をつけるのであればその動力をどうにかしなければならない。


 もともと筋力のない知与ではかなりの難題だろう。それならばまだ瞳の操る人形の中に入っていたほうがいくらか安心というものである。


 もっとも、常に人形の中に入っているというのはなかなかに苦痛であることはこの中で瞳が一番理解していることでもある。


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