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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
七話「山と大和の名残」

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 瞳は、知与を相手している人形を動かすことに全力を注いでいた。


 単純に怪我をさせてはいけないために、加減をしているというのもある。だが、それを差し置いても、彼女は今自らが行える最高の精度で知与を捕まえようとしていた。


 そう、捕まえようとしていたということは、つまり、捕まえられていないのだ。


 瞳の人形を操る速度は決して遅くはない。プロのスポーツ選手の動きをトレースできるのだ。遅いはずがない。


 だが、それでも今、人形をそれだけの速度で操っても人形は知与に触れることすらできていない。


「すげぇな」


「えぇ、すごいっすね」


「どういうことだかわかるか?なんであんなに避けられる?」


 知与は別に人間からかけ離れた動きをしているわけではない。周介のように特殊な道具を用いているわけでもなく、玄徳のように持ち前の身体能力で避けているわけでもない。だというのに、普通の動きをしながら、人形の攻撃を回避し続けている。


 もともと小柄だから捕まえにくいというのもあるのかもしれないが、それにしても限度というものがある。


 手も足もあり、胴も頭もあるのだ。だというのに、彼女はどんどん動きを鋭くさせていき、無駄なく人形の攻撃を避け続けている。


「……考えられるのは、索敵と、お嬢の運動神経の良さ……それと、気になったのは反応です」


「反応?」


「えぇ、人形が次に動くときの、初動って言えばいいんでしょうか?体の動きって言うんでしょうか?それを、理解して、体を動かしてるって……そんな感じが……」


 人形だって人の体をしたものだ。瞳が最初ゆっくりと動いたとはいえ、徐々にその速度を上げていったことで知与はその動きを学習したのだろう。


 体の動きというのはそう簡単には変えられない。宙に浮くようなことができない以上、必ず重力に縛られる。


 体の向き、動き、そして姿勢と足の位置。それらすべてによって次の動きは制限される。


 目による視覚情報ではなく、索敵による全体的な情報によって、知与は次の動きを予測することができているのだろう。


 周介との訓練によって、体の動かすときの重心の重要性は知与は既に学習していた。そして、瞳の人形の緩やかな動きによって、次の動きを予測できるだけの経験を身に着けた。


 そして、何よりも玄徳が特筆したのが反応速度だ。見てから反応するというのにも限界があるように、索敵してからその情報を整理して反応するというのにも必ず限界というものがあるはず。


 瞳だって同じような動きを繰り返しているわけではない。数多くの、それこそ何年にもわたり蓄積してきたその人形の動きは多岐にわたる。


 格闘技に寄らず、スポーツ、日常的な動きから動物の動作まで、その動きに区別はなく、そのすべては人形の動きで模倣できる。模倣できないのは威力だけで、その速度に関しては本物以上の場合さえもある。


 初めて見た動きもあるだろう。先に上げたような予想では回避できないものもあったはずだ。それを知与は回避している。


 体の、重心の動きによる動きの予想と、索敵によってどのような動きなのかを正確に把握してからの回避。これを繰り返している。


 玄徳だって、瞳の人形の動き全てに自らの身体能力だけで反応できるわけではない。持ち前の経験を用いて、どのような動きなのかを記憶の中にある経験と肉体の動きを結び付けることで動いている。


 知与は、その速度が圧倒的なまでに早い。動きを感知、そして予測、そして体を動かすということを当たり前に行っている。それを、玄徳でもできないような高速で。


 瞳も本気になっている。他の人形を全く動かさずに、一つの人形を動かすことに集中している。だがそれでも知与を捕まえられない。


 もうどれだけこうして動いているだろうか。いったいどれだけ避け続ける光景を見ていただろうか。何度目かの回避を行った瞬間、知与の膝が力なく落ちる。


 知与自身、何が起きたのかよくわかっていないのか唖然とした顔をしている。そして倒れ込む寸前、瞳の人形がその体を抱き留めた。


「ご、ごめんな、さい……ちょっと……疲れ……ちゃって」


「あ、そ、そうね。これくらいにしとこ」


 体力の限界。そこまで激しい動きではないとはいえ、常に動き続けた。高速で襲い掛かる攻撃に対して回避し続ける、そんな動きをずっと続けていたのだ。体力の少ない彼女が、限界を迎えてしまっても無理はないだろう。


「お嬢、水」


「あ、ありがとう、ございます」


 玄徳がペットボトルに入った水を差しだすと、彼女はそれを一気に飲み干していく。その体は汗だくだ。額からも首筋からも汗を流し、おそらく服も汗にまみれてしまっていることだろう。


 体力が尽きたせいもあってか、能力の発動も常時続けることができていないように見えた。眼の光が明滅し、時折困惑したような表情も見せている。


 体力が続いていれば、おそらく彼女はずっと人形の攻撃を回避し続けただろう。それが知与にはできるのだ。


「瞳、あれ、本気だったのか?」


「……結構ね。普通の人間の動きじゃ、知与を捕まえるのは無理でしょ」


 プロのスポーツ選手。人間の中でも一級品の身体能力を持つ彼らの動きをもってしても捕まえられないのであれば、普通の人間に知与を捕まえることはできないということになる。


 こんな小さな体に、それほどの性能を持ち合わせていることに、周介たちは驚きを隠せなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 未来予知してるのかな 知予→知与?
[一言] これは体力の問題を解決できれば手越の「手」との鬼ごっこもクリアできそうな感じが(笑)
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