↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
七話「山と大和の名残」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

311/1751

0311

「……お前なんだよそれ」


「……今日からこの部屋の仲間になるマイケルだ。よろしくな」


「……マイケル……?」


「……マイケル」


 周介がスーツを着込んだクマのぬいぐるみのマイケルを机の上に置くと、ルームメイトの手越はそれを怪訝な様子でのぞき込んでいた。


 ただのクマのぬいぐるみであったのなら、ゲームセンターのUFOキャッチャーなどで入手したのかと思うところかもしれないが、これほどまでにフィットしたスーツを着込み、なおかつ小道具も多いクマのぬいぐるみがゲームセンターで取れるだろうかと疑問を抱いているようだった。


 何より、マイケルと紹介した周介の表情が非常に微妙なものだったのも気がかりである。


「一応聞くけど、これどうした?」


「瞳にもらった」


「……安形か……なんで?」


「この間ヘリ乗っただろ?それを無事にできたらできなかったらって賭けてたんだよ。それで」


「その賭けの報酬がこれか。ぬいぐるみって、男がぬいぐるみ渡されてもなぁ……」


「うん、それは本当にそう思う。けどこれで朝起こしてくれるとか言ってたぞ?」


「そっか、あいつの能力結構遠くまで届くからな……今は動かないけど」


「必要ない時は動かさないんだろ。あいつだって今どこにいるかわからないんだし」


 周介は机の一角にぬいぐるみのスペースを作ると、そこに改めてクマのぬいぐるみを置く。座らせるような形でその場にたたずむスーツにサングラス、そしてシルクハットのクマのぬいぐるみはなかなかの風貌と存在感を放ちながらそこにあった。


「……まぁ、可愛い系じゃなかったのは、うん……救いがあると思うべきか?」


「うん、そのあたりは玄徳のおかげで助かった。最初はあれだよ、どくろの模様がかいてあるジャケットだったんだよ。それがスーツになって、そこから着せ替え人形になって、最終的にこの形に落ち着いた」


「これがひとりでに動き出すとか、割とあれだな、ホラーチックだな。同時にコメディーチックでもあるけど。似たような映画あっただろ?クマのぬいぐるみみたいなやつの」


「あったな。内容知らないけど。こいつがどういう風に明日朝起こしに来るのか気がかりで仕方ないよ。実はこいつ小道具で銃器持ってるんだよ。動くかどうかわからんけど」


 そう言ってクマの背中に背負わされたショットガンを見せる。クマの大きさに合うように設計されているようで、かなり細かい作りになっていた。


 もちろん引き金もあるが、この熊の指、というか手はそもそも引き金を引けるような構造はしていない。間違いなく飾りであるということは想像できるのだが、これが瞳の人形というところがまた二人の恐怖心を煽る。


「朝起きた瞬間にショットガン構えたクマのぬいぐるみとか、襲撃かなんかと勘違いしそうだな……って言うかお前せっかく賭けに勝ったのにそんなので良かったのかよ」


「実際特に思いつかなくてな……だってコスプレさせてなんかさせるわけにもいかないだろ?そもそも寮じゃ無理だし」


「なら休みの日とかになんかすりゃよかったじゃねえの。コスプレしてバイトさせたり適当に一緒に遊んだりでもよかったんじゃね?」


「お前ね、同じチームの奴にそれやって恨まれたら後ろから刺されるぞ。特にあいつの場合手数多いんだから。その気になったら一瞬だよ俺なんて。大体、どっちかって言うと物の方がよかったけどさ、なんかポンと思いつかないんだよ」


 周介が欲しいものといえばゲーム、漫画といった娯楽関係のものなのだが、今の時期にそういったものの中で周介が求めるゲームは今のところ発売する予定はない。


 そもそもそういったものは自分で買いたい派である周介にとって、プレゼントしてもらうというのは単純に気が引ける。


「まぁ実際物が送られてるわけだけどさ」


「これの場合は物って言うより、これを使った世話みたいな感じだぞ?起こしてくれたり勉強を見てくれたりって本人は言ってたけど」


 そんな話をしていると周介の机の一角に置かれていたクマがゆっくりと立ち上がり、周辺の状況を確認するように首を振ってから机の上を走り出し周介のベッドめがけてジャンプしていた。そしてベッドの上で走り回ると、その後でベッドから飛び降り、床を駆け回りながら再び机の上に戻ろうと引き出しなどを駆使して机めがけて登っていく。


「こわ!いきなり動き出すの怖い!予想以上に怖い!何してんのこいつ!なんでいきなり動かしてんのあいつ!」


「とりあえず連絡するか……おい瞳、いきなりなんで動かしてんだよ。ビビったわ」


「……って言うか今更だけどお前らいつの間に下の名前で呼び合ってんだよ。なに?付き合い始めたわけ?」


「うちの隊は玄徳以外下の名前呼びで統一って新入りのお嬢の意向で決まったんだよ……わかった、机の上に戻すからちょっと待ってろ」


「誰だよお嬢って……なんかお前の隊どんどんおかしくなってないか?」


「別におかしくないって……え?テストならもうちょっと事前に言ってくれよ。今手越と一緒にすごいビビってたんだけど」


 当たり前のように話している周介に対し、手越は状況の変化についていけずに唖然としてしまっていた。


「いやまぁね、俺も組織にいて長いよ。人形が動くって言うことにはそれなりに慣れてきてはいたんだけどさ、さすがにこの光景は割と怖い」


「ひとりでに動き出すぬいぐるみってさ、原因がわかってればそこまで怖くはないんだよな。近くに瞳がいればさ、そこまで怖くないんだけど、誰もいないとマジで怖いな。これが呪われた人形ってやつか」


「呪われてる割りに格好が滅茶苦茶きめてるけどな。スーツとかショットガンとかサングラスとか、呪いとかそういうのじゃなくて物理的に怖いわ」


 目の前で動き続ける人形を前に、周介と手越は口々に恐怖を漏らす。通話をスピーカーモードにして瞳もその会話を聞いていた。


 いくら瞳が能力で操っているということがわかっても、現状この場に能力を発動している人がいない場で人形がひとりでに動くというのはやはり恐怖しかなかった。


『何?じゃあ日本人形とかの方がよかったわけ?』


「いやそれはそれで嫌だ。って言うかお前今人形でタップダンス躍らせてるだろ。日本人形がタップダンス踊り出したらシュールすぎるわ」


「こんな小さい人形なのにすごいテクニック。足音はなってないけど。お、ムーンウォークまでできるのか……いやこれはマジですごい。さすが瞳の姉御、テクいっす。これだけ距離があって平気で動かせるんだもんな」


 机の上に置かれているクマのぬいぐるみのマイケルは二人に見せつけるようにダンスを踊り続けている。


『でもさ、一つ言っていい?あたし今能力発動してないけど?』


「おいやめろよ!お前このタイミングでそういう嘘やめろよ!マジで怖くなるだろ!」


「声が半笑いなのわかってるからな!そういう嘘マジでやめてくれ!」


 男子二人が本気で怖がっているのを知って電話の向こう側で瞳は思い切り笑っている。人形が勝手に動き出しているという可能性を少し出しただけでこの有様だ。これが日本人形だったら本当に恐ろしかっただろう。


「いやでもさ、ただの……って言っちゃあれだけどさ、スーツ着てるし。このクマのぬいぐるみでこの怖さだぞ?そりゃ日本人形とか西洋人形がひとりでに動き出したら怖いわな。ホラー番組とかの恐怖が今まさに目の前にある感じだわ」


「あれだよ、瞳は能力使ってお化け屋敷とか普通にできると思うわ。これあれだろ?人形であればどれでも行けるんだろ?マネキンもいけるくらいだしさ。特殊メイクとかさせれば人件費ほぼゼロで人形動かしてってできるじゃん」


「あぁそりゃいいわ。しかも人では絶対無理な動きする奴らな。いや安形、まじめに将来の選択肢に入れるべきだと思うぞ?これはマジで怖い。真夜中とかにひとりでに動き出したら失禁する可能性があるわ。俺の手とかも一緒にやれば行けんじゃね?」


 現在のお化け屋敷の方式は基本的に中にスタッフが入り、仕掛け、ないし扮装したスタッフが客を驚かせるというものだ。だが瞳の能力であれば人形を動かすことで仕掛けを動かすでもスタッフが驚かせるでもなく、ほぼ自分の動きだけで人を驚かせることができるだろう。


 監視カメラなどで客の位置を把握しておけばいくらでも驚かせ放題になるわけである。これはかなりの利便性だ。


 人件費などがかからないことを考えると収益もかなり上がるだろう。あとは初期費用として建物や監視カメラなどの道具とシステムをそろえるだけだ。遊園地の一角でそれができるようになればそれこそ一攫千金も夢ではないように思える。


 物を動かす系の能力者が集まればそういったことも可能だろう。実際瞳と手越の能力はそういったことが可能なのだから。


『言いすぎじゃないの?って言うかあたしお化け屋敷嫌いだし』


「おいおい高校生にもなってお化けが怖いってぇ?安形さんよぉそれはちょっと狙いすぎなんじゃないの?お化けなんてあるわけないだろうに」


「お化け関係は俺も嫌だけど、瞳さん、電力関係は俺が持とう。君の実力を埋もれさせるのはもったいない。ここは遊園地なんかと提携して荒稼ぎしようじゃないか。お前なら平気だろ?お化け屋敷が怖いなんて俺の妹でもあるまいし」


『……そのぬいぐるみを日本人形に変えてやってもいいんだけど?』


「ごめん、マジでごめん。日本人形はやめてくれ」


「俺らの部屋が軽くホラーになるからやめてくれ。ごめんなさい」


『よろしい。大体能力使って金稼ぎとかそう簡単にできるわけないでしょ』


 ごもっともすぎて反論できない周介たちを叱るように、机の上のクマがショットガンを振り回す。


 クマのぬいぐるみに叱られる男子高校生二人、かなりシュールな光景だ。もしここに第三者がいたらきっと何かの間違いだろうと自分の目を疑うところだ。


「でもよ、こういう人形を動かすとかさ、それこそ結構需要あると思うんだよ。モデルとかそういうの?マネキンなんてまさにそうだろ?」


『別に悪いとは言わないけど、能力を隠してる時点で無理って話。周介みたいに組織内で発電してるならまだしも、あたしみたいに人に見せる可能性があるんじゃまず無理』


「まぁ確かにな。でももったいないよな……こんだけいろいろできんのに」


 今ぬいぐるみはブレイクダンスを踊っている最中だ。といってももともと手足の短い設計をされているクマのぬいぐるみでは机の上を転がっているようにしか見えないわけだが。


『これからこの子があんたたちの部屋を闊歩するから。間違えて踏んづけないでよね』


「気を付けます。起こすときは優しく頼みます」


『善処するから』


「優しくする気ゼロだよこいつ。ショットガン使う気満々だよ」


 善処するといいながらもショットガンを振り回すクマのぬいぐるみを見てこれから朝の平穏はなくなったのだなと、周介と手越は考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そういえば、ぬいぐるみ動かしてる時は瞳と視界共通してるんだっけ? つまり!瞳は主人公の寝顔を見るというわけか!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。