0310
「退院する時は俺が迎えに行く手はずになってるから、荷物のまとめは頼むぞ」
『うん、わかった。ありがとうございます』
そう言って通話を切ると、周介は手元に置かれたぬいぐるみを見て怪訝な表情をする。
「さっきはあぁいってたけど、ほんとにやるつもりか?」
「別に大丈夫でしょ。あんたの部屋までであれば能力も十分届くし。それともまだ何かおごれと?」
「まぁ別にいいんだけどさ……なんか微妙……」
実際に起こしてもらえるのならともかく、人形に起こされるというのは非常に複雑な気分だった。
そんな周介の気持ちを察したからか、周介の目の前にある人形は動き出すと軽く準備運動のようなものを始めていた。
完全な人型ではなく、若干クマの造形を持っているせいか動きにくそうにしているが瞳がいくつか道具を用意してその人形に取り付けていく。
それはジャケットのようなものだ。といってもただのジャケットではない。かなりパンクな、具体的にはどくろのマークが記載されているものだった。
そしてそのクマにサングラスをかける。これまたなかなか尖った印象を受けるデザインをしていた。
「これならどうよ。格好良くなったんじゃない?」
「いや、なかなか攻めてるファッションだな……」
周介は別にクマの造形が微妙といったわけではないのだが、瞳はどうやらそういう意味でとってしまったらしい。
男の部屋に置くのだから、せめて外見くらいは格好良くと思ったのだろう。とはいえそのサングラスをとればつぶらな瞳が見えるのは仕方のないことなのだが。
「あぁ、このジャケットが嫌ならスーツバージョンもあるけど?これだとエージェントみたいな感じがしていいんじゃない?」
「……うん、どっちかって言うとそっちのほうがいいかも。って言うか、そうか、マネキンがあるくらいなんだからぬいぐるみの服があっても不思議はないか」
もともと瞳はマネキンなどを操って訓練などを行っている。そのマネキンはそれぞれいろんな服を着ているのだ。
それこそTシャツワイシャツ、そしてスーツにスポーツウェア、中には鎧などを着ている者もいるくらいだ。
その動きに差をつけるために視覚的な違いを出しているというのもあるのだろうが、彼女はどちらかというとこういう着せ替えの方が楽しんでいるように思える。
個人的には服装に関してではなく、人形を使って起こすというところを変えてほしかったのだが、おそらくそれは無理というものなのだろう。
さすがに寮の男子の区画にやってこいなどとは言えない。
しばらくして周介の目の前にはサングラスとシルクハットをつけ、黒いスーツを身に着けたクマのぬいぐるみが出来上がっていた。
どこかのゴッドなファーザーが活躍しそうな外見ではあるが、軽く動いている姿を見るとやはりかわいく見えてくるものである。
適当に動いていたクマだが、瞳は近くにあった筆箱にクマを座らせるとスーツのポケットに入っていた小型の葉巻を取り出してタバコを吸うような動きをして見せた。
「おい明らかにそっちの方に寄せるのやめろよ。って言うか小道具凝りすぎじゃない?」
「こういうところにこだわってこそでしょ。あと懐には一応ちっちゃいけど銃も入ってるから。ただ手が大きくて懐に手を入れられないけど」
「何その変なこだわり……ちなみにお前ってこういうのに名前って付けてたりするのか?」
「そこまで変なのはつけてないけど……確かこの子は……あぁあった。この子はマイケル」
「……三男坊の方なのか……まぁ……うん、まぁいいや。え?これで起こすのか?」
「携帯とかで通話しながら勉強とかも教えられるかも。ペンとかだって持てるし」
そう言ってクマのぬいぐるみを操って近くにあったシャーペンを持たせると軽く文字を書いて見せた。
なかなか達筆な字を書くクマのぬいぐるみに、周介は怪訝な顔をする。
クマのぬいぐるみに勉強を教えてもらうというのは見た目としてどうなのだろうかと少し迷っていたが、便利は便利だ。
何かあった時、緊急時は即座に人形が動き出すのだから。
「一種の呪いの人形みたいっすね。ボスの呪いがかかってそうです」
「やめろよそういう怖い話。こいつの毛が伸び始めるのか?ロン毛のクマとかなんか嫌だな」
「一応カツラもあるけどかぶらせる?」
「いやいいから。本当に小道具多いな」
「伊達に長く人形遣いやってないっての。こういう小道具に凝らないと暇で仕方がなかったし」
「姉御、こういうのどうです?杖」
「あぁいいかも。老紳士っぽくなるかもしれない」
「あとこっちのスーツの方が渋くないっすか?なんかちょっとこなれてる感じがしますよ」
「あんたスーツのセンスはあるんだ。今度着てくれば?」
「いっそのこと明日のお嬢の送迎はスーツで行きますか。サングラスつけていかにもそれっぽく」
そんな話をしている間、周介はどんどんと着替えさせられているクマのぬいぐるみを見て、これが自分の部屋に置かれることになるのかと、少し複雑な気分でもあった。




