0308
ゴールデンウィークが終わり、五月病とでもいえるような奇妙な倦怠感が漂う学校生活は始まっていた。
目前に迫った中間試験を前に、多くの生徒が神経をとがらせている。普段ふざけている者も、さすがにテストが近いとあってはあまりふざけてはいられないのか、積極的に勉学に励もうという気概が見え隠れしている。
もっとも、試験が迫ろうとなんだろうと生活を改めないものも当然存在する。
進学校であるために比較的優秀な生徒が多いこの学校でも、高校受験が成功したことをきっかけに勉学への意欲を失うものも多い。
あるいは部活に熱心に参加し、普段の勉学が疎かになっている者もいるだろう。
当然そういったものは平均点を下げる要因にもなるわけだが、周介たちのように部活に参加していない生徒はそのいいわけが通用しないために比較的勉強でいい点を取らなければ当然教師陣にも睨まれる結果となる。
もっとも組織という特殊な立場にいる周介たちはある種黙認されるのだが、それでも他の生徒と大きな差をつけるわけにもいかないのが勉学に向かうための教育機関だ。
そんな中、周介は拠点の一角で発電を行いながらにやにやと笑っていた。
「さぁ、約束を果たしてもらおうじゃないか」
「……何のこと?」
いつものラビット隊の隊室で、周介は勉強をしながらも机の向かい側に座っている瞳の方を見てニヤつく。
その笑みはあまり良いものではない、一種の下卑た笑みだった。
「ヘリの操縦のことだよ。きちんと落とさずに送ったら罰ゲームって話だっただろ」
「……そんな話したっけ?」
「した!絶対した!なぁ玄徳!したよな!」
「え?あ、あー……そういえば……そんなことも言ってたような……」
つい先日起きたヘリにおける輸送の依頼で周介と瞳は口論とまではいわないが、ヘリが無事に到達できるかどうかで対立していた。
結果的に周介は無事に目的地まで事故を起こすこともなく到着できたために、そういう意味では周介の勝ちと言えなくもないだろう。
「お前が勝ったらスイーツバイキングおごりだったけど、俺が勝ったら特に決めてなかっただろ?なのでスイーツバイキングと同等の何かを要求しようと思ってな。スイーツバイキングの相場っていくらだ?」
「場所にもよりますけど、大体一回三千円くらいっすかね?」
「よし、なら三千円くらいのものを要求しよう。俺はお前たちを無事に目的地まで送り届けた!これは大きいぞ!」
ヘリで無事に送迎できたことが周介としてはかなり嬉しかったのか、周介は得意げに笑って瞳に手を差し出してくる。
「さぁ!何か寄越せ!具体的には食い物だと嬉しい!」
「……三千円の食べ物って……っていうか、いきなり言われて持ってるわけないじゃん」
「それもそうか……んー、じゃあ他になんかないのか?」
せっかく勝負をしたのだからしっかりと報酬はもらいたいと思っているのだろう。周介はその場で何やら考え始めてしまっていた。
「なんかほしいものは?靴とか、服とか、小物とか」
「ない」
「……じゃあどっか行きたい場所とか」
「特にこれといって……」
「…………ならやってみたいこととか」
「今は試験前だしなぁ……」
「あんたね、要求する気あんの?」
なにかを要求しておきながらその何かが決まっていないのであれば瞳だって要求を叶えることができるはずがない。
もっとも周介の言っていることもおかしいわけではない。単純にそういった欲求が少ないだけで、周介にだってほしいものの一つや二つはある。
もっとも今は思いつかないようだったが。
「玄徳、なんかいい考えないか?」
「と言われても……」
「なんかこう、今玄徳が欲しいものでもいいぞ?」
「あー……バイクのパーツが欲しいっす」
「高いから却下。他になんか物品は?」
「えっと……じゃあ……あぁでかいテレビとレコーダーが欲しいっす」
「もっと高くなってる。まじめに考える気ある?」
「って言われても……そうだ、お嬢に聞いてみるのはどうっすか?せっかく入隊が決まったことですし」
「あぁ、知与か」
この度、新しい隊員となる小島知与は組織の面々と両親との交渉の末、正式にこの組織に所属することになった。
その配属は本人の希望もあってラビット隊に配属されることとなる。新しい仲間に意見を聞きたいところだったが、知与は今この部屋にはいない。彼女は今病院にて治療、というより検査入院をしているところだった。




